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本気の挑戦は次元が違った


この挑戦が、どれほど過酷だったのかを
キミの足の裏が
物語っていた

◎エベレスティング

私が見た、その挑戦は、
まさに自分自身との戦いを、
何度も何度も繰り返す
凄まじく
過酷で
今までの挑戦とは遙かに違うレベルの
次元を越えるものだった。


達成した人たちのアドバイスを参考に
念入りに準備をし
当日も、早く時間にならないかな~と
少しの緊張感と、楽しみでソワソワしてる

「じゃあ時間になったから行ってきます」
と、ワクワクした顔で家を出たキミを
いつものように送り出した。

考えてみれば、
レースにしてみても何にしても
いつも何かにチャレンジしているキミ

また挑戦が始まるのか

そんなことを考えながら現地に向かい

そして
そこで目にした光景は、
私が想像していたものとは
遙かにかけ離れたものだった

息苦しいほどの
ピーンと張りつめた緊張感が、
辺り一面をおおい

その静けさの中、黙々と補給食やボトルの調合をしている父ちゃんと
その様子を見守る、数人の人。
そして、その向こうにいたのは

つい何時間前に見た人とは全く別人の
キミの姿だった

「行けるのか?」
「とりあえず無理してでも何か食べろ」
「飲みたくなくても飲まなくちゃダメだ」 

たしか、この挑戦をした人々がいう、
挑戦をやめたくなる
魔の何千メートルというやつ
きっと、今がそれなのかもしれないと思った。

人は限界を感じると、
こんな顔色になるものなのか?

私は、言葉を選びながら話しかけた。
「たぶん、今が1番やめたいなって思うんだろうね。魔の何千メートル。ここを越えないと‼」
「みんなそう言ってたじゃん」
「ここを頑張んないと」

途方もない挑戦をはじめてしまった自分を、
後悔しているのか
黙って、しばらく考えた様子だったが

「RedBullある?」
「自分で決めたから行きます」

と、一気に飲み干し、またスタートしていった

「下りは気をつけろよーー」
と、叫ぶ父ちゃんの声

そして
応援の人たちが、途切れた夜中の
1時半か?2時近かっただろうか
それは
突然やってきた。

幻覚、幻聴、体の痛み、
ハンガーノック

エベレスティングの挑戦中に事故や救急車騒ぎにでもなったら、このチャレンジそのものが危険なものとしてみられてしまう。
それだけは避けなければと、
私たちは注意深く、
そして
チャレンジをストップさせる覚悟もできていた

「少し長めに休憩をとろう」
そう父ちゃんが言い椅子に座らせた。

何も喉を通らない
それでもなんとか補給食をとらせ
様子をみる

「あと何回登るんだ………ハァ……」
「達成できる気がしない……」
「サイコンもバグってて、何千メートル獲得したのか、もうわからなくなっちゃった」
「認定されるのかもわからない……」
「足が痛すぎるから、1回ビンディングシューズ脱ぐね」


「もうやめても……いいかな……」

聞き取れないくらいの、か細い声で、
ついに
そうキミが弱音を吐いた時

そうだね良く頑張ったね!
また今度チャレンジすればね!
などと、
口が裂けても言ってはいけないと思った。

なぜなら
この過酷な挑戦を、また一から繰り返す方が、
よっぽど過酷で、難しくなると知っていたし
なにより
限界はチャレンジしている本人にしかわからない

どうする………どう言えばいい……ダメだ
ただ見ているだけの私が、
吐き気がする

どのくらいたったのだろう
そのうちまたキミは
誰に言われるまでもなくシューズを履き
漆黒の夜の森へとスタートしていった

「行ったねえ…………」
「凄いね……やめなかったね………」
その私の言葉を黙って父ちゃんは聞いていた

なにがキミを、そこまでさせるのか

どうしてキミは、そんなに頑張れるのか

いつからキミは、そんなに強くなったのか

本当にキミは、私の息子なのか

かすかに響く熊よけの鈴の音を聞きながら
《頑張れ頑張れ》と祈る気持ちで願った

きっともう自分の限界を越えてるはず。

限界の向こう側に
なにを感じ
なにが見えているのか

それは挑戦者だけが知る
未知の領域なのだろうか
そして

本当の挑戦は、ここからなのか


ヘッドライトと、自転車のライトの光が
大きくユラユラと左右する

きっともう気力だけで走っているのだろう
それでも足をとめずに
一心不乱に走りつづける

朝日が昇るころ
数人の人が挑戦を見に駆けつけてくれていた。
同じ自転車乗り(仲間)だからこそ
過酷さがわかるのだろう

「こんなの見せられちゃうと、俺らも、もっと頑張んなきゃな~って感じですよ」
って。

見守りながら、なんだか皆、嬉しそうに
ザワめいている。

そう、もうすぐ、この挑戦も終わろうとしている

途中経過報告を聞き
「もうやめさせてあげて」
と何度も電話で言っていた私の姉達と

いつも孫の活躍を楽しみに、そして心配してくれてる、じいちゃんの姿も
そこにあった。

本当に、沢山の人たちに支えてもらっている


そして私は思い出していた

「僕の夢は、みている人に夢と希望を与えられるような自転車選手になることです」

と宣言した
あの時のことを。

挑戦を終え、
皆に感謝の気持ちを伝え
家に帰ってくると

「お尻がぁヤバいことになってるぅ~」
「足も痛い~首もヤバい~~」
「疲れたよお~~~~」

↑いつもの息子だ(笑)安心した。


「そういえば、あの父ちゃんがね、男泣きしてたんだよ。俺びっくりしちゃった………」

そう言いながら
なだれ込むように寝てしまった

もしかしたら
今回の挑戦は、ある意味

なんとしても達成させてやりたい!という
父ちゃんの挑戦でもあったのかもって

同じように疲れ果て
寝てしまった
父ちゃんと、
息子の足の裏を見ながら


日本、そして世界中には、こんな過酷な挑戦をする人達が、いっぱいいるんだから
凄いな~と思った

最後に

2020年、
予想外の、めまぐるしく変わる社会状況の中、
たくさんのレースが次々と中止になり
夢や目標を、失ってしまった子供に

エベレスティング挑戦というのがあることを、
教えてくれた、
すべてのエベレスティング愛好家の皆様と、

安全に走らせてもらった峠と、

自転車を通じ、知り合った皆様からの
応援や励まし、そしてお祝いのメッセージ

そして現地まで足を運んでくれ
応援、サポートしてくれた地元の皆様に

親として心から感謝いたします。

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