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「浦和レッズ三年計画を定点観測」~#21. 2020 J1 第16節 vs札幌 レビュー&採点~

試合を観た後にはこれまでの試合にないくらいのドッとした疲れが押し寄せてきました。
前半から怒涛のオープン合戦となり、これまで目指してきたプレーコンセプトとはいったい何だったのかと思うような内容でした。

この試合をどう捉えるべきかとても悩ましかったですし、チームとしてという要素が薄い試合ではあったので、そういうものを加味して書いていきたいと思います。

まずは、この試合の流れをおさらいしようと思います。


試合の流れ

◆札幌の弱点を明確に狙った試合序盤

まずは、札幌の非保持について確認しましょう。
極端に言ってしまえば、札幌に守備ラインは存在しません。
マンツーマン志向で各選手が誰を担当するかを明確にしており、さらにここの受け渡しというのは基本的には行いません。

この試合の札幌の選手が担当する相手は下図のような感じでした。

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守備においては味方同士の距離感よりも、いかにマーク対象の相手との距離が近い状態で守備を始めて、ボールを受けるための準備をさせない、ボールが入っても次への判断をすぐに迫る、ということが求められます。
そして、ボールの近くの選手が責任をもって、その局面を解決しようとします。

一方で、ボール保持では各選手のスタートポジションは決まっていて、そこから流れや相手の動きに応じてポジションを入れ替えながら、どんどん前に前に人をかけて攻めていきます。

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守備ではマンツーマンのためマーク担当の相手の居場所によってスタートポジションが変わるため、ボールを失ってからマーク担当の相手を捕まえるまでの時間がどれくらい必要なのか設定できません。

攻撃ではスタートポジションが決まっていますが、守備でのポジショニングが定まっていないので、ボールを奪ってからスタートポジションへつくまでの時間がどれくらい必要なのかが設定できません。

札幌の明確な穴とは攻守の切り替え、トランジションの局面です。
ネガトラの時にマークする相手が遠くなってしまった時に、プレッシングをかけるのが遅れてしまうこと、マンツーマンなので札幌の最終ラインは数的同数に晒されやすいこと、浦和はここを突きに行きました。

杉本の2点目はまさにこの狙いがハマったもの。

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9分の岩波のロングボールから興梠が抜け出した決定機も、
ジェイが西川を意識した寄せ方をしたことによって本来マークをするはずの岩波がフリーになったところからでした。

DFとの駆け引きに秀でた興梠と、スピードのある杉本という裏抜けをするにはもってこいの2人をめがけたロングボールで目論み通りチャンスを作っていきました。


◆ビルドアップの修正によって札幌が主導権を奪う

前半の飲水タイムが入ったところで札幌はビルドアップでの人の配置を修正します。
ボランチの田中を最後尾に落とすことをやめて、3バックと2ボランチがそのままの位置するようになります。
そもそも配置を変えなくとも3vs2の数的有利を作れることと、浦和の2トップの背後に2ボランチがいることで、浦和とすればより一層中央のスペースを消すことに注力するので、WBにクリーンにボールを届けやすくなりました。

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これによって4-4-2の泣き所であり、これまで浦和が何度も困らされてきている幅を使った攻撃を仕掛けやすくなりました。

WBは基本的に高い位置を取るので、そこにボールが入った時はSBが出て行くか、SHが頑張って下がって対応するかになります。
SBが出て行けば、チャンネル間が空きそこをボランチが埋めて、さらにボランチのスペースを杉本が埋めに行くことになり、
SHが下がればボールを跳ね返せても前に人がいないので、こぼれ球がなかなか回収しにくくなり、
と浦和とすれば悪循環が始まってしまいました。

こうして、幅を使うことで浦和の組織を押し下げていくことに成功した札幌は、
ルーカス・フェルナンデスのふわっとしたクロスと、
コーナーキックのこぼれ球を拾った流れからの福森のクロスを
いずれもジェイが押し込み一気に同点に追いつきました。

守備で2トップが数的不利の状況になった時の対応に苦慮している浦和は、この試合でも解決策を示すことは出来ませんでした。


◆札幌の隙は罠!?

37分あたりからミシャサッカーの酸いも甘いも知る浦和サポとしては少し懐かしさもあるような、ピンボールのようにボールが慌ただしく行き来するオープンな展開になっていきました。
それは札幌の4局面の仕組みにある明確な穴をそのまま突こうとすると、こちらも4局面のバランスを失ってしまうという構図が原因。

札幌の穴というのはトランジションの局面。特に攻撃ではポジションを入れ替えながら仕掛けていくので、奪われた時に自分のマークを見つけてアプローチするまでに時間がかかります。

浦和はこの札幌のネガトラの弱さを狙って、ボールを奪ったら素早くフリーの選手が数的同数の前線をめがけてボールを出していきます。
ただし、中盤を省略したロングボールは諸刃の剣で、攻撃を完遂できなかったときに発生するのは中盤の巨大なスペース。
中盤にフィルターを失うと前線でボールを失った時のネガトラで相手にプレッシングに行く人数を担保できず、簡単に運び出されてすぐさまボールが自陣まで帰ってきてしまいます。

札幌としてはそのような意図があるのかないのか分かりませんが、
結果的に、ネガトラの隙と最終ラインの数的同数という餌をぶら下げて相手を食いつかせて、それをひっくり返して攻めかかるという
ハイリスクハイリターンなカオス戦術を繰り出してきました。

見事にその餌に食いつき、4局面をバランスを保ちながら切れ目なく行うという今年のプレーコンセプトからはかけ離れた内容となりましたが、この餌を食いきってゴールを奪ったのもまた事実。

杉本の試合後コメントで「相手の守備ラインの裏は1本でチャンスが生まれると聞いていて」という言葉があったので、
これが餌と分かりつつ、それでもやり切れるストライカーがいるからこそ、試合前の「やられる前にやりましょう」ということで浦和としてもオープンな展開も許容したのかもしれません。


◆試合の構造は後半も継続

HTに札幌が荒野に代えてCBのキムミンテを投入して宮澤がボランチに上がります。
前半の終わりごろのようなオープンな展開が続くと残り45分持たないということで、BOX TO BOXのダイナミックな動きのある荒野を下げて、田中と宮澤をきちんと中央に残して少しだけバランスを取りに行ったのではないかと思います。

札幌のビルドアップの形は前半の飲水タイム以降のものから継続。
さらに進藤と福森に対角線のロングボールを出すことへの意識を持たせることで、前半以上に浦和の2トップ脇から幅を取ったWBへボールを届けて、3-4-3vs4-4-2のかみ合わせの悪さを利用していきます。

さらにチャナティップ、駒井に代えてアンデルソン・ロペス、ドウグラス・オリヴェイラを投入し、
中央でも強引に突破することと、外側からのクロスを入れるところまでは出来ているのでジェイ以外にもターゲットを作ることを目論みます。

そして、65:25にはドウグラス・オリヴェイラのポストプレーからサイドを突破し、最終的にはコーナーキックを獲得。
このコーナーキックが杉本のオウンゴールを誘い、札幌が勝ち越しに成功します。


◆浦和もオープン上等な選手交代

大槻監督の試合後会見で「途中で柴戸(海)を入れてそこ(セカンドボールを拾えなかったりしたところ)を担保したりだとか、サイド、もしくはワイドのところでタイプの違う選手で押し込んだり、スピード、背後を取るところを何とか表現したかったです。」という言葉も出ましたが、
武藤、関根に代えてマルティノスと汰木というオープンな状態で前向きに仕掛けられる選手を両翼に配置、
さらに中盤の運動量をもう一度引き上げるために柴戸を投入し、
この試合をコントロールされたものへ変えるのではなく、この流れの中で刺し返すための交代を敢行します。

そして、73:18は最後尾でフリーでボールを持てた槙野が一気に中盤を省略してレオナルドへ。キムミンテとの1vs1を見事に入れ替わりレオナルドがシュート。ここで獲得したコーナーキックの流れから浦和は同点に追いつきます。

コーナーキックがクリアされた後のスローインを受けた汰木はオープンな状態でボールをもらいます。斜め45度くらいの角度からインスイングのクロスを上げ、マルティノスが競ったボールがこぼれてこれを槙野が押し込みます。
オープンな状態でボールを持った時にはクオリティを発揮する汰木の良さが出たシーンでした。

そして、後半ATの93:18に中盤で前向きにボールを持てた汰木が左からピッチを横断するようにドリブルを仕掛けます。
これによって札幌が誰が誰をマークするのが曖昧になり、マンツーマンの状態が外れます。なんとなく最終ラインと中盤で2ラインを作ったような形にはなりましたがこのライン間は広く開いており、マルティノスがこのスペースを見つけボールをもらって仕掛けます。

レオナルドに渡したボールが再びこぼれてマルティノスのもとに返ってくると、自らライン際までえぐってからプルバック。
マイナスのボールを待ち構えていたのは運動量を担保するために投入していた柴戸。

結果的にはオープン上等!で送り込んだ選手たちが力を発揮し、浦和が勝利を手繰り寄せることになりました。


採点結果

Q1.<保持/非保持 共通>個の能力を最大限に発揮していたか?
→ 3点 (アンケート:3.3点)

得点も失点も個人にフォーカスされてしまう部分が多かった試合でした。
得点で言えば、関根の突破力でPKを獲得し、杉本のスピードと体の強さでロングボール一発で抜け出しなど、個人の長所が出たと思いますし、
失点では岩武が福森にクロスを上げられてしまったのは彼の経験不足というか、個人のネガティブな部分が出てしまいました。

Q2.<保持/非保持 共通>前向き、積極的、情熱的なプレーをしていたか?
→ 2点 (アンケート:3.3点)

前半はボールを奪ったら札幌のネガトラの甘さや最終ラインを数的同数で攻めてくるところを狙って、素早く背後へという狙いが出ていたので、前向き、積極的という攻撃は出来ました。

しかし、前半の飲水タイム以降は宮澤、荒野、田中のうち2人がピッチ中央に陣取ることで、こぼれ球を拾われるケースが増え、さらに後半からはキムミンテが最終ラインの数的同数を個人で跳ね返すことが出来たので、なかなか浦和の前向きな時間帯が減ってしまいました。

Q3.<保持/非保持 共通>攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをしていたか?
→ 1点 (アンケート:1.3点)

前半の途中から札幌がネガトラの甘さをチラつかせていることに乗じて、ボールを奪った時にスカスカの中盤エリアを一気にスピードをつけて前進しましたが、
その時に組織全体ではなくボールだけどんどん前に進んでしまったため、ボールを失った時にそれを取り返すための人数をかけられず、オープンな展開になりました。

そこで攻守は完全に断絶してしまい、これまで目指してきたプレーコンセプトとは異なる現象が続いてしまいました。

Q4.<保持>運んだり、味方のスピードを活かしたりしていたか?
→ 3点 (アンケート:1.7点)

札幌が基本的にどんどん人を捕まえる守備をする関係で、最終ラインがスペースがある状態でボールを持てることがなかなか無かったので「運ぶ」プレーはあまり必要になりませんでした。

その代わり、札幌が前がかりになることによって空いた裏のスペースへ人を走らせる、その人のスピードを活かすということは狙っていたと思います。

Q5.<保持>数的有利を作っていたか?
→ 1点 (アンケート:1.0点)

人を捕まえに来るということで、例えば岩波と槙野vsジェイと駒井の構図のエリアに青木が下りて3vs2を作ろうとしても、青木にはチャナティップがそのままついてきてしまい、数的有利を作ることは出来ませんでした。

ただ、後述しますがこの試合では札幌の守備の特徴を鑑みて、数的有利を作ってクリーンにボール前進させることは目指さなかったのではないかと思います。

Q6.<保持>短時間でフィニッシュまで行っていたか?
→ 2点 (アンケート:2.7点)

試合序盤に興梠、そして2点目の杉本、その後も前半から目指していたのは札幌の前がかりな攻撃をひっくり返すことだったと思いますので、それを表現しようとしていたシーンは見られました。

しかし、後半になるにしたがって、なかなかボールを拾えず、拾えても杉本が中盤の守備をサポートしていたのでゴールまでの距離が遠くなってしまい、フィニッシュまでたどり着けなくなっていってしまいました。

Q7.<保持>ボールを出来るだけスピーディに展開していたか?
→ 3点 (アンケート:2.7点)

オープンな展開を許容して、スピーディな展開を心掛けていたと思います。
ただ、前にかける人数に対して札幌もマンツーマンで対応してくるのでスペースではなく人に対して出したボールはなかなかその次に繋がらず、効果的なスピーディさは出なかったのかなと思います。

また、自分たちの配置を崩してまで行うスピーディな展開というのは、今目指しているものではないと思うので評価は難しいかなと思います。

Q8.<非保持>最終ラインを高く、全体をコンパクトにしていたか?
→ 2点 (アンケート:1.3点)

全体をコンパクトにしたいという意思は見えますが、前線で2vs3を作られたツケが後ろに回ってきてしまい、この試合でも幅を取った選手にボールが入ってズルズルと押し下げられてしまいました。

プレッシングの開始地点で数的不利になった時に
中盤(SH)を前に出すのか、
ボールを持たせて良い人とそうでない人を分けて相手が使える場所を限定するのか、
そろそろ何かしらの解決策が表現されると良いのですが。。

Q9.<非保持>ボールの位置、味方の距離を設定して奪っていたか?
→ 1点 (アンケート:1.0点)

この試合でも噛み合わせの悪い相手に対してのポジショニングや奪い方の設計は見えてきませんでした。

キック力のある選手が札幌の最終ラインにはいますし、浦和のCBが決してスピードのあるタイプではないのでラインを押し上げてプレッシングに出て行くことに怖さがあるのかもしれませんが、
噛み合わせが悪い時点でどこかを動かさなければいたずらに磔にされてしまうだけですので、Q8とも重複しますがそこの解決策を早めに表現したもらいたいです。

Q10.試合全体の満足度は?
→ 2点 (アンケート:2.3点)

アンケートの自由記述欄に
「諦めずに勝利を手繰り寄せたことは評価したい。3点取られても4点取って勝った訳だが、さすがにこれじゃ無い感は強い。」
というコメントをいただきました。
完全に同感です。

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最後に

さて、次節はいよいよ首位の川崎戦です。
リーグ全体ではいろいろな関係で消化試合数はバラバラですが、浦和としては次の17節で前半戦が終了します。

川崎戦が日曜日で、水曜日にはすぐに第18節の清水戦がやってきてしまい、さらにその後も10/4の名古屋戦まで連戦が続いてしまうので、前半戦の総括をするタイミングが難しいですが、
どこか落ち着いたタイミングでこれまでの採点やアンケートをもとに三年計画の1/6の途中経過を見てみたいと思っています。

欧州のサッカーも続々と開幕し、どれをどのタイミングで観るのかさらに悩ましくなってきてしまいましたが、皆さんも体調と相談しつつ楽しくサッカーを観て、考えて、学んで、議論していきましょう。
次節もアンケートのご協力をお願いします!

では、また。


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