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「浦和レッズ三年計画を定点観測」~#2.ゾーンディフェンスとは ~

キャンプが始まり、少しずつトレーニングの情報が入ってきて、ぼんやりと2020シーズンをどのように戦っていこうとしているのかが見え始めて来ていますね。
観る側としても、過密日程で試合に追われる前にやれる準備をしておこうということで、近くの図書館に行ってとある本を借りてきました。

著者は松田浩さん。ヴィッセル神戸(2002、2006-2008)、アビスパ福岡(2003-2006)、栃木SC(2009-2013)で監督をされた方です。

なぜ、この本を手に取ったかというと、現在の浦和のヘッドコーチである上野優作さんは2009年に栃木SCで引退し、そのまま栃木SCで指導者としてのキャリアをスタートしています。
この時のクラブの監督が松田浩さんであり、上野さんが栃木SCを離れた時には「上野氏が率いた栃木SCユースは、松田浩氏のサッカーを彷彿とさせるような、キレのある堅守速攻で見るものを魅了。」なんて記事が出ておりました。(https://blogola.jp/p/58251)
つまり、上野コーチの師匠ともいえる松田浩さんがどのようなサッカー観を持っているのかを知ることで、今季の浦和がどのようなものを目指そうとしているのかを知るヒントがあるかもしれないと思ったのです。

ということで、今回は言ってしまえば読書感想文です。笑
決して、長々としたものにはなりませんが、サクッと大事なところだけを知りたいという方は一番下に要旨をまとめた画像を作ってみましたので、そちらを見てみて下さい。

1.本の内容と感想

こちらの本は「球際で負けてしまいます。どうしたら良いでしょうか?」といった質問に対して松田さんが回答するといった形式で展開されます。
全部で質問は38ありますが、決して冗長ではないし、回答内容をイメージしやすくするために図も使われていることもあり、割とサクサク読み進められると思います。
また、岩政大樹さんと松田浩さんの対談も収録されており、こちらもゾーンディフェンスを知る上で「なるほど」と思えることが散りばめられていました。

では、この本で定義されている「ゾーンディフェンスとは」という部分について簡単にまとめてみようと思います。

基本的な考え方としては
・味方の位置によってポジションが決まる
・ボールの周辺で数的優位を作る

というのがポイントとのこと。

ボールの位置と味方の位置を基準にして、誰かが寄せに行ってスペースを空けたら、他の人がそのスペースを消す。いわゆるチャレンジ&カバーの動きですね。こうして、誰かのアクションを誰かがサポートするという味方同士で繋がれるようになると、常にお互いがカバーしているような感覚になります。

例えば、2vs2の状況の場合。
相手のボールホルダーに対して2(チャレンジ&カバー) vs 1(相手のボールホルダー)という関係性を作ることがベースになります。そして、チャレンジの質が良いと、ボールホルダーの選択肢を限定することが出来ます。すると、カバーの選手はボールホルダーの次のプレーを予測することが出来、パスカットを狙ったり、一気にチャレンジの選手と一緒に囲んでボールを奪ったりすることが出来るようになるのです。

では、それを11vs11でやろうとするとどうなるのか。
4-4-2で守る場合は、2トップのどちらかが相手CBに対してのファーストディフェンダーとなり、チャレンジをかけます。ボランチへのコースを消しながら寄せてボールを出せる方向を限定します。ボールホルダーとしては自分に向かって寄せに来られているので運ぶのは難しい。そしてパスの選択肢は縦は切られているので、隣のCBかサイドに出すか、GKに下げるかのいずれかになります。
ここで、隣のCBに出れば、もう1人のトップの選手がそちらへチャレンジ、元々出ていたトップはカバーに回る。
そして、サイドへ出れば、SHが対応するのに加えてトップの選手がプレスバックして挟み込んで、そのサイドに相手を閉じ込める。
ここで、しっかり全体で連携して閉じ込めることが出来れば、そう簡単に逆サイドまで展開できないので、そちらのスペースは捨てても問題なし。一気に圧縮して全体でボールを奪おうというのが基本になります。
FWのチャレンジに対して全体で次にどこへボールが出るかを予測し、それぞれがどんどんアクションを起こしていくというのが理想形です。

この時にFWにとって大事なことは、自分で相手CBからボールを奪うことではなく、まずは自由に運ばせない、パスコースを限定することで、自分のラインを突破されないという意識を持つことです。

ここでFWの規制が緩くなると、
・2トップが開いている場合は間をパスで通されたり、運ばれたりしてラインを突破される
・パスコースが限定できないので周りの選手のアクションが遅れて、ボールが出た先への対応で後手を踏む
といったことが発生してしまいます。
1人がさぼることで組織にボコっと穴が出来てしまい、周りのみんなが迷惑を被ってしまうわけです。
そうしたことを防ぐためにも、まずはファーストディフェンダーであるFWがさぼらずに規制をかけることが大切ですね。

また、ラインを形成する場合、ボールホルダーに一番近い、チャレンジをする選手(ファーストディフェンダー)に対してカバーにまわる同じラインの選手はチャレンジの選手の背中を拾うポジションを取り続けることが大切になります。
チャレンジでアクションを起こした時に、周りはその選手が空けたところをスライドして埋める。
ボールホルダーがパスをした場合、次のチャレンジをする選手がアクションを起こし、最初にアクションを起こした選手を含めて、周りはその選手が空けたところをスライドして埋める。この繰り返しになります。
本の中では「ポジションを取ることにハードワークする」という表現をしていました。
適切にポジションを取り続けることで、相手が入り込もうとするエリアを先に埋めておくというイメージです。

これを実現するためには、選手一人ひとりの距離が開いていてはそれぞれのボールホルダーに対してのチャレンジをカバーしきれません。
同ラインのヨコの距離も、ライン間のタテの距離も一定に保って全体をコンパクトにする必要があります。
FWがラインを上げるならDFラインも上げる、DFラインを下げるならFWラインも下げる、という風に全体のラインコントロールするのです。
なんとなく、「コンパクトに」とか「DFラインを高くしよう」とか言っていますが、当たり前ですがちゃんとした理由があるんですよね。

そして、これは最も「なるほど!」と思ったことなのですが、守備時には味方の位置を基準に守ります。相手の位置は関係ありません。相手選手にマークにはつきません。つまり、どうなるのか。
守備時に相手にマークをしていない=ポジトラ時にマークされていない状態になる
ということなのです。

しかも、味方の位置を基準に守備を行っているので、ボールを奪った時には自分たちの意図したポジションをとれている可能性が高いです。誰がどこにいるかが分かっていれば、ボールを奪った時にどこにボールを出すべきかが見つけやすくなります。判断スピードが速くなるとポジティブトランジションからボール保持への移行がスムーズになります。
そこに加えて攻撃時にも適切なポジションを取ることを意識した構造を作ることが出来れば、ネガティブトランジションからボール非保持への移行もスムーズになります。
つまり、攻守に切れ目のないプレーがしやすくなるのです。

では、マンツーマンの場合はどうなるのか。
例えば昨年のアウェーでのヴィッセル神戸戦を覚えていたら分かりやすいと思うのですが、人の立ち位置で優位性を作られてしまうと、相手選手の距離がそもそも開いているので、こちらが寄せるよりも早くボールが到達してしまいますし、やっと寄せられる距離に入ったと思ったらボールを離されてしまい、1vs1とか球際の場面を作らせてもらえませんでした。
5-4-1で構えて、ボールが一定のエリアまで来たら人を捕まえに行くのではなく、常にオールコートで決まった相手にガッチリつくのであれば、必ず1vs1の球際を作ることは出来ます。

しかし、そうしてボールを奪った時に自分たちのポジションはどうなっているでしょうか。
相手の配置に振り回されている状態からスタートするので、自分たちの攻撃のためのポジションを取り直すまでには時間が掛かってしまいます。
ポジションを取り直さないとしても、誰がどこにいるのかはその都度変わってしまうので、ボールをどこへ展開するのか、人はどこへ動くのかを毎回探す作業が必要になり、攻撃に移る時に時間が必要になってしまいます。
つまり、マンツーマンの場合は守と攻が分断されてしまう可能性が高いのです。

マンツーマンが悪手という訳ではないです。
1vs1の局面を作ったら必ず奪える力がある選手を揃えているなら、相手選手を基準にして守っても良いわけです。奪った後に独力で運んだり展開出来たりできる選手がいるのであれば、問題ないと思います。組織よりも個人にフォーカスを当ててのチーム作りをしているのであれば、マンツーマンの方が合っているのだろうと思いますし。どんな相手にも100%勝てる戦い方なんてないですかね。
ただ、採用するやり方のメリットとデメリットを認識したうえで運用していかないとチームコンセプトの中で矛盾が発生してしまうかもしれないので、そこには注意を払わないといけません。

ここまでが、本に書かれていることの一部のご紹介と、それについての自分なりの感想や意見でした。
あくまでも、ここでご紹介したのはごくごく一部の内容です。もし、興味を持っていただけたのであれば、ぜひ書店や図書館などで探して、読んでみてください。

2.今季の浦和につながることとは?

2019年12月の新強化体制発表で示されたプレーモデルは覚えていますか?
非保持については
・最終ラインを高く、全体をコンパクトに
・ボールの位置、味方の距離を設定して奪う

の2点でした。

「おっ!?」と思いませんでした?
そうなんですよ。これってこの本で提示されていたゾーンディフェンスの基本的な考え方なんです。

浦和といえば(というか、日本サッカーの大半は)マンツーマンを主軸に置く守備戦術をずっと取ってきたわけです。もちろん、オールコートで決まった人についていくというマンツーマンではないですよ。守備の基準を相手選手に置いた方法を採用していたというべきでしょうか。
例えば、相手がビルドアップする時にCBが大きく開いたら、相手選手に基準を置くとこちらの1列目も大きく開くことになります。
そうすると、ぽっかりとスペースが空き、そこに相手選手が入ってボールを受けられ、その選手を捕まえるために動くと元居た場所が空き、、、
こんな連鎖で崩れてしまうというシーンを昨年何度見たでしょうか。。
それを解消するためにも、ゾーンディフェンスへの意識を強くしようとしているのかもしれませんね。

また、ゾーンディフェンスから派生して「攻守に切れ目なくプレーする」というのも新強化体制発表で示されたプレーモデルと一致していますね。
ゾーンディフェンスを前提に置くことで、ポジショニングを安定させることが出来、4局面の移行をスムーズに行おうとしていると考えるのであれば、提示されているモノ同士で整合性が取れていることが分かります。

そして、皆さんもいろいろなところから情報を得ていると思いますが、現在キャンプでは4-4-2をベースに守備ではチャレンジ&カバーの関係を意識しているとのこと。
もちろん、意識をすればすぐに出来るということはないですが、クラブが示したプレーモデルを体現すべくチーム作りをしていると評価できるのではないでしょうか。
なかなかプレシーズンマッチの映像は観ることが難しいと思いますが、シーズンが開幕したらその点についてはキチンと観てみたいですね。

3.最後に

さて、いよいよ全日程が発表され、あっという間に開幕戦がやってきます。
現在、各試合ごとに「クラブが示したプレーモデルが体現できているのか」という点についてサポーターや試合を観た方にアンケートを行って、自分一人の目ではなく、多くの人を巻き込んでいけたらということを考えております。
まずは、皆さんそれぞれのサッカー観や嗜好で試合を観て頂くとして、それとは別に、みんなで共通した基準を持ったうえでクラブへの評価をしていければということです。

開幕までに具体的に「こういう風にやりたいです」というのを提示できたらと思っていますので、気にかけて頂けたら嬉しいです。

また、普段はTwitterでいろんなサッカーに関すること、そうでないことについて呟いてますので、よろしければそちらも見て頂いて、感想や意見などをもらえたらと思っています。
メインは@y2aa21でやっておりますが、このnoteについての話題用に別のアカウントも使用しております。

最後まで読んで頂きありがとうございました。
では、また。

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