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【書評】『本を贈る』 プロたちがつなぐバトンの先には…

「本」が好きです。もちろん「読書」が好き、でもあるのですが、この2つはイコールではありません。
「本を読む」という行為のほかにも、本を知る、本を調べる、本屋さんに行く、本に出合う、本を買う、本を読むために仕事を早く終わらせる(でも、なかなか終わらない…笑)、旅に持っていく本を選ぶ、本の感想を書く、他の人の書評を読む、著者について調べる、本棚に置く、本棚を眺める、読んだ本の記録をつける…そんな諸々の行為すべてを含めて「本」が好きなのです。

『本を贈る』(三輪舎)は、そんな「本」にまつわる1冊です。執筆、編集、校正、装丁、印刷、製本、営業、取次、そして本屋さん。本が読者の手元に届くまでの工程にかかわる10人によるエッセイ集です。

三輪舎のサイトには、編集後記としてこんなことが書かれています。(執筆者の名前はないのですが、おそらく発行人の中岡祐介さん)

図らずも受け取ってしまったものを、そのままに独り占めにできないから他の誰かにパスをする。それが本づくりであり、本を売るということではないか。であるなら、本が書かれ、つくられ、届けられるプロセスを、本がひとからひとへと連続的に贈られる、贈与のプロセスとしてとらえてみたらどうだろうか。

まさに、本づくりの「リレー」。そして、この最後のバトンを受け取った読者=私にとっても、この本について語らずにはいられない、「独り占めにできないから他の誰かにパス」したくなる一冊でした。
この本との出合いを通じて感じたことを記そうと思います。(ネタバレ含みますので、内容を知りたくない方は、読了後にぜひ!)

『本を贈る』と出合う

本との出合い。書店で関心があるテーマの本や惹かれる装丁にばったりと出くわすこともあれば、誰かに薦められることもありますが、最近では、SNSなどで情報を得ることが増えました。(新聞の書評欄も重要な情報源です)

『本を贈る』を知るきっかけとなったのは、著者の1人で、校正者の牟田都子さん。
6月に「セブンルール」(関西テレビ)という番組で取り上げられたのを見て、とにかく「丁寧な仕事」ぶりに感銘を受けすっかりファンに。校正者という、通常、表には出ない人のファン、というのも珍しい話なのですが、Twitterをフォローしていました。

そんな折、牟田さんが執筆者の1人となった本書の存在を知り、「これは絶対に買わねば!」と、発売日に、高松市で最大の売り場面積を誇る宮脇書店総本店へ。しかし、店舗の在庫検索をしても出てきません。
「香川だから入荷まで少し時間がかかるのかな?」と思いきや…

なんと、全国約1万2000店のうち、取り扱っているのが200店だと…!( ; ゚Д゚)
特設サイトを見ると、香川では、高松市の個性派書店「本屋ルヌガンガ」さんの名前があったので、足を運ぶと…ちょうどその日に入荷してました。

ぶっちゃけ、ネット書店で購入してもいいのですが、なんだかこの本は、ネットでポチッとではなく、街の小さな書店に行って見つける、という「過程」も含めて大事にしたいな、という気がしたのです。

『本を贈る』に触れる

まずは装丁。矢萩多聞さんの緻密な装画と「贈」の文字の箔押し加工も印象的なのですが、持ったときの感触が他の本とは違います。
カバーがなく表紙のみの上製本で、タントという紙を貼っているそうなのですが、その触り心地と、角ばった背表紙が、なんというかとてもいい!(う~ん、語彙が不足している…)
でも、軽いんです。紙質の問題だと思うんですが、明らかにいつも読んでる本よりも軽い。
試しに、同じ300ページくらいのハードカバーのノンフィクションと比べてみると…

約70グラム、率にして20%近く軽い!まぁ、本の重さを測るなんて初めてですがw、何にせよ、読む前から「モノ」としての本に惹かれます
Twitterでこの本の感想を述べているツイートを見てみても、画像付きでアップしている人が結構多く、フォトジェニックな本と言えそうです。

作り手の”顔”が見える

持つと軽いですし、文章も小難しいことが書かれているわけではありませんが、さっと流し読みはできない”重み”があり、噛みしめるように、じっくりと読みたくなる本でした。

この本を読むきっかけとなった、校正者・牟田都子さんと『へろへろ』の鹿子裕文さんのゲラを通したやりとりには、血が通った温かいものを感じ…

ゲラの上でもっと会話してもいいのではないかと思いました。それこそが機械ではなく生身の人間が校正をおこなうことの意義なのではないかと。

移動式本屋を経営する三田修平さんの「誰にどこで売るかといった環境自体をアレンジしながら本と人をうまく結びつけていく」「本好きのためのお店を目指していない」という発想には、目からウロコ!

藤原印刷の藤原隆充さんは、「本づくりは駅伝」と語ります。

各工程を担う人間が力の限りを振り絞り、全区間で区間賞を狙う程の気概で臨んではじめていい作品ができると思います。誰にも気づかれなくても、誰も見ていなくても、自分が任された区間で全力を出さなければ良い本はできないのです。

「本」の奥付には著者や編集者、装丁家の名前は記されているものの、「印刷」や「製本」については社名のみ。
藤原さんは、「印刷の担い手はひとりひとりの人間。製本もしかり。だからこそ、彼らの名前を本の奥付にクレジットしてほしい」と訴えます。
ここで、この本の奥付を見てみると…

印刷所と製本所のスタッフの名前が、本当にひとりひとり記されているんです!こんな本はこれまで見たことがありません。
印刷だと、面付、点検、検版、本文印刷、付物印刷、紙積み、営業の7人が携わっています。名前が載った方、これは本当にうれしいだろうなぁ。と思ったら、こんなツイート。

↑ 紙積みの水本さん、社歴48年の大ベテランが目をウルウル…いいなぁ。

でも、考えてみると映画だとエンドロールで全スタッフの名前がクレジットされているわけなので、こういうのが当たり前になればいいなと思います。

ここで紹介した内容はごく一部ですが、読み終えた後も余韻が残る、とても愛しい一冊でした。

本づくりのプロたちがバトンをつなぐ「リレー」。一冊の本を読者に届けるのがゴールではなく、「本」という文化を、次の世代につないでいくもののようにも感じました。

※Twitterでも、ノンフィクションを中心に本の感想やコンテンツ論、プロ論をつぶやいています。よければフォローお願いします!


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