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龍の契約

おれたちは、焼け焦げたトラックの脇、アスファルトがデコボコに剥げた道路にぶざまに転がっていた。ロブもおれも、片足が吹っ飛んでいた。ロブは右腕もだ。動けない。血のにおいを嗅ぎつけたように、銃を構えた黒い機械兵がぞろぞろとやってくる。ハゲタカのようなドローンどもも。とっくに、あっちにゃ生きた兵士はいなかったんだ。

「ここで惨めに死ぬンならよォ、逃げなきゃよかっ……」

その時、ヒュルルル……と空を切る音。(ミサイルか。一撃で死ねりゃいいな)おれはそう思ったが、死ねなかった。

飛び来たのは、火のように赤く輝くドラゴンだったんだ。そうとしか言いようがなかった。(死に際に爆撃機がそう見えたんだな)そう思った。けどそいつは、巨大な翼を羽ばたかせて……火を吐いたんだ。長い首を左右に振りながら。機械兵とドローンの群れはたちまち焼き払われ、次々に爆発した。何もかも分からなかった。

「おい、ロブ。見えるか。何がいる?」
「赤いドラゴンだよ、テッド」
「おれもだ。集団幻覚かな」
おれたちの周りは、ドラゴンの吐いた火に囲まれていた。青白く、硫黄のにおいがした。

そしてそいつは、おれたちの目の前に降り立った。二本の後脚で直立して。翼が縮まり、ドラゴンの姿が縮まり、半分人間のような姿になった。赤い鱗に覆われていて角がある。きっと、悪魔ってもんだろう。そいつが、身の毛もよだつような声で口をきいた。

お前たち、ここで何をしている

おれは気力を振り絞って答えた。

「見ての通り、死にかけてる。トラックで脱走しようとしたが、地雷を踏んでな。あんたは?」
『見ての通り、ドラゴンだ。そこで死ぬか?』
助けてくれ!死にたくない!」

ドラゴン野郎は喉を鳴らして笑った。

『ならば、我にをよこせ。そうすれば、汝の願いを叶えてやろう』
「魂?」
『ああ。願い事一つにつき、一人の魂だ。わかるな?』

おれは懐の銃を抜き、ロブの眉間に突きつけた。ロブは笑った。

【続く/800字】

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