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天漢仙槎・ライナーノーツ

おれだ。そういうわけで、ライナーノーツだ。パルプアドベントカレンダーのやつはライナーノーツがそれぞれくっついてるし、「渋谷ウロボロス」はおれにもよくわからない。

まず、スペースオペラと来た。おれは銀英伝もガンダムもSWも履修していないので、宇宙戦艦ヤマトやコブラ、ダーティペアや銃夢が思い浮かぶ(うる星はスペオペと言っていいのかしら)。おれはSF的な知識に乏しいし、それらを真似てみたところでありきたりだと思い、いっそ古代に遡ってやれという気になった。おれの得意分野だ。募集要項に「未来でも過去でも、舞台設定はおまかせいたします」とあるからには堂々と出せる。

SFで古代といえば、まず思い浮かぶのが浦島太郎竹取物語だ。しかしこれらを使うのも、これまたあまりにもありきたりだ。邪馬台国ネタも飽きた。なんかないかと思って竹取物語のWikipediaを見ていくと、世界最古のSFとして古代ローマの作家ルキアノス著「本当の話」というのがある。

話はアルゴー船やオデュッセイアの翻案みたいなもんで、月に飛んでって戦争したり、星の間を経巡ったりして海の上に戻ってくる。月旅行は諸国漫遊の一部に組み込まれていて主要なプロットではないが、これは使えそうだと思って思考の棚に入れた。中世にはアストルフォも月旅行してるな。

で、これをこのまま使うのもアレだ。古代でSF、そう言えば、と思って本棚にあった新紀元社の『幻想世界の住人たちⅢ中国編』をめくると、「星へゆく槎」の話が巻末らへんに載っている。

すなわち張華の『博物志』にいう。

舊說雲天河與海通。近世有人居海渚者,年年八月有浮槎去來,不失期,人有奇誌,立飛閣於查上,多賫糧,乘槎而去。十餘日中,猶觀星月日辰,自後茫茫忽忽,亦不覺晝夜。去十餘日,奄至一處,有城郭狀,屋舍甚嚴。遙望宮中多織婦,見天丈夫牽牛渚次飲之。牽牛人乃驚問曰:“何由至此?”此人具說來意,並問此是何處,答曰:“君還至蜀郡訪嚴君平則知之。”竟不上岸,因還如期。後至蜀,問君平,曰:“某年月日有客星犯牽牛宿。”計年月,正是此人到天河時也。

査(槎、いかだ)に乗って海に出た男が、天河(あまのがわ、天漢、銀河)に迷い込み、牽牛や織女に出会って話をした。戻ってから蜀に行って星占い師に尋ねると、「そなたの言う時期に、牽牛の星座に客星が現れた」と告げられた。男は宇宙空間を旅していたというわけ。これが今回の作品の直接の元ネタで、さっきの「本当の話」や浦島太郎で味付けしたら異世界転移小説や「火星のプリンセス」みたいになった。これでいこう。

普通のパルプ風に書いてもなろう小説みたいになるし、尺にあわん。偽漢文ほんやく調でやってやれ。おれはこういうのばかり読んでいたのでこういうのは得意だ。世界にはいろいろ似たような話があるが、誰かがコトダマ空間へ飛んでいって同じものを見たのかもしれない。

年代はというと、こないだのアドベントパルプで「東方の三博士」ネタをやったので、やつらを導いた星がその槎であったとすれば、西暦紀元前7年漢の綏和二年甲寅で、この年には黄河が氾濫して賈譲が「治河策」を上奏した。この洪水に乗って槎が流れ、東海へ押し流されたのだとしよう。

とすると、戻って来たのはジーザスが死んで復活した年、西暦30年漢の建武六年庚寅だ。博物志の話だと海辺に帰り着いた男が歩いて蜀へ向かったことになっているが、この頃の蜀は公孫述が治めているし、そのまま蜀に出現すると元ネタがばれてしまう。ちょっとひねって隴西にしよう。この頃には隗囂が割拠してるが気にするな。アドベントではセリカからナザレまで西遊記したし、逆に西域から漢土へ戻って来させる。天界での冒険を経て、いろいろあって地上に戻ったのだ。崑崙に墜落したとすれば辻褄はあう。

男はジーザスなのか、流謫の仙人で堕天使なのか。あるいは朝鮮や倭に漂着して、高句麗や匈奴、月氏を経て隴西に戻ったのかもしれないし、年をとってないということはそいつの息子かもしれないし、全く赤の他人かもだ。洪水に流されたあほを知っていたというやつも、本当に知っていたかどうか。語り手が口からでまかせを並べ立てたか、口裏合わせをして稼ごうとしたのかもしれない。語り手や書き手が信用できないのはよくあることだ。合理化はできても、話が怪しいことに変わりはない。まあどうせ作り事なのだが。

追記:「張騫乗槎」という説話もあるのを後から思い出したが、博物志の方が先だった。月氏から崑崙を経て隴西に下って来るなら彼にふさわしい。

◎Ogreyalla mesetchinka◎

◎Done mome do◎

ごちゃごちゃしたが、そういうことだ。以上。

【おわりです】

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