見出し画像

ニンジャスレイヤー222【レッキング・ボール】

◆起◆

(前回のあらすじ:ピザタキのアイドル・コトブキが、何者かに狙撃された!犯人はただの変質者か?否。ニンジャスレイヤー・マスラダのニンジャ嗅覚は、コトブキの関節にめり込んだ小さな鋼球の破片から、微かにニンジャソウルを嗅ぎ取った!ハンティングの時間だ!)

「ニンジャの仕業だ。ニンジャソウルの残り香がある」

「アー…オレもコトブキもニンジャじゃねえから、そのへんはわかんねぇ」ピザタキの店主、タキは頭をかいた。「確かにニンジャなら可能だ。パチンコ玉でコトブキを狙撃たぁな。重サイバネ野郎の方がマシだったが……」ニンジャの通り魔か、サイバーツジギリか?なぜコトブキを狙った?

そしてニンジャならば、ウキヨであるコトブキを殺すことも可能だったはずだ。急所は外れていた。殺せなかったのではない、殺さなかったのだ。なぜか。……ニンジャスレイヤーへの挑戦か?「ニンジャソウルを追跡する。このニンジャを殺す」「モチはモチ屋、ピザはピザ屋だな。頼むぜ」

「待って下さい」修理中のコトブキが抗議した。「これはわたしに売られた喧嘩です。わたしは買います」「違う。おれに売られた」「じゃあ、二人で買いましょう。ワリカンです」「喧嘩のワリカンなんかあるかよ。相手は一人か?」「わかった。二人でやる」ニンジャスレイヤーはタキを無視した。

◆承◆

ゴガガガガ……!巨大な街頭清掃車が、轟音と共に夜道を掃き清めていく。ゴミクズやボロ、死体、病人、ジャンクパーツ等を飲み込み、破壊し、粉砕する。この地区を支配する暗黒メガコーポの認可を得て、清掃業務を行っている。襲撃インシデントは毎日あるが、一度も成功していない。

「キヤァーッ!」BAOM!発狂した浮浪者が、サイバネ義手からロケット砲を発射!街頭清掃車を破壊し、その中から出て来るスシをたくさん貪ろうという目論見だ!無論そんなものはない!KBAM!「あへ?」だが砲弾は途中で爆発!同時に浮浪者の眉間と両眼を何かが貫通!血を噴いて即死!

ゴガガガガ……!巨大な街頭清掃車が、轟音と共に夜道を掃き清めていく。発狂浮浪者の死体もサイバネ義手もロケット砲も、飲み込み、破壊し、粉砕する。「フン」車の窓から、作業服に身を包んだ男が無感情に外を見た。彼の顔の一部や腕は、サイバネ部品に置換されていることが見て取れる。

「革命それは暴力」「破壊して破壊する」「完全な総括」「自己批判入門」「バスター・テツオ大全集」……彼が住む車内の本棚には、10年前に崩壊した急進的革命団体「イッキ・ウチコワシ」の関連書籍がずらりと並んでいた。彼がその思想に染まっていることは明らかだ。本棚の傍らにはUNIX。

ネオサイタマの街頭清掃員であるこの男に、ニンジャソウルが宿ったのは数年前。ウチコワシの残党組織にオルグされ、ソニックフィンガーというニンジャネームを授かり、ドージョーでカラテとワザマエ、革命精神を鍛えてきた。マッポーの世で生き残り、ヤクザや暗黒メガコーポと戦うために。

だが、革命未だ成らず。ケオスの中から結局は資本主義的な秩序が生まれ、危ういバランスを保っている。排除すべきは誰か。ラオモト・チバか。非ニンジャながら多数のニンジャを従え、新たな秩序を齎した恐るべきヤクザ。ソウカイヤのオヤブン。ラオモト・カンの息子。いずれ必ず。だが……。

「カラテ……カラテだ」暗く呟く。このカラテは何のために。革命。では、革命は何のために。彼の中のニンジャソウルが揺らぐ。暴力。革命、それは暴力だ。何事も暴力で解決するのが一番だ。ドージョーのカケジクにもあった。カラテし、暴力し、そして……「革命に殉じる」。名誉ある死。

心に虚無を飼うこの男に、残されたのはカラテと、死への渇望。男は傍らの袋を持ち上げ、紐を緩める。中に詰まっているのは、銀色に光る鋼球だ。ソニックフィンガーはガバリと大口を開け、袋の中身をジャラジャラと体内へ注ぎ込む。ガシャシャ……サイバネ機構が働き、四肢に弾が充填される。

パチンコ・ジツ。かつて「フリックショット」という偉大な革命の闘士が使ったという伝説の武術だ。彼はバスター・テツオに直接仕え、ニンジャスレイヤーというニンジャと共闘したが、その裏切りに遭って惨殺された。その後、ニンジャスレイヤーに関する様々な噂があり……最近、再び現れた。

「ピザタキ」というピザ屋にしばしば現れる、黒髪短髪の若い男。彼がニンジャスレイヤーだ。ニンジャを探し回っては殺しているようだ。フリックショット=サンを殺した当人かは不明だが、既に挑戦状は送った。ピザ屋にいたウキヨに、鋼球を。やつのネンゴロか。どうでもいい。

やつとカラテせねばならぬ。そう感じる。仇討ちか。見も知らぬ革命の同志の。違う。己のニンジャソウルが、カラテが、ワザマエが、鋼球に写る無数の己が、そう呼びかけている。自分は、やつとカラテせねばならぬ。なぜかは問わぬ。それが己のカラテ、暴力、革命、使命なのだ。

◆忍◆

ウシミツ・アワー。ネオサイタマ東部コンビナート地区、廃製鉄所。ソニックフィンガーは街頭清掃車をこの場所に停め、整備している。中身は資源ゴミとして売り払い、売上の多くは所属するウチコワシ残党組織に納める。残りは生活費、サイバネ、車、本代、木人等に消える。慎ましい暮らしだ。

この車と住処は、かつて彼がカラテで奪ったものだ。暗黒メガコーポは、清掃員が代わろうと死のうと気にしない。これをつてに多くの情報を奪い、組織に送った。もうじきあの会社は潰せる。革命の糧となる。そうした時期になって、不意にニンジャスレイヤーの噂に触れた。そして……。「GO」

ソニックフィンガーは指先から鋼球を発射し、清掃車の頑丈なドアに絶妙な角度で跳ね返らせた。鋼球は跳弾となり、反射を繰り返し、張り巡らせたナリコ・トラップを起動させ、ジャンクパーツや鋼球、縄紐やスリケン、クナイ・ダートを発射させる!火薬を用いぬサンダンウチ・タクティクスだ!

PASHSHSHSHSHSHSHSHSHSH!GWAWNGWAWNGWAWNGWAWN!PASHSHSHSHSHSHSHSHSHSH!GWAWNGWAWNGWAWNGWAWN!PASHSHSHSHSHSHSHSHSHSH!GWAWNGWAWNGWAWNGWAWN!

「これは!」廃製鉄所に近づいたニンジャスレイヤーとコトブキは、突然のトラップ群攻撃に遭遇!「イヤーッ!」「ハイヤーッ!」飛来する廃車群を跳び越え、タケヤリをブリッジ回避!ワザマエ!鋼球やスリケンを弾き、クナイを逸らし、縄紐を焼き切る!「まるでベトナムです!」再び鋼球!

「しゃがんでろ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが燃えるフックロープを投擲!炎の鞭めいて振り回し、全方向から高速で飛来する鋼球を空中で焼き熔かし蒸発させる!ゴウランガ!「準備万端、待ち構えていたようですね」「やつはまだ遠い。動いてもいない。スリケンも届かない奥だ」

クレーンが動き、ビル解体用の鉄球が迫る!さらに鉄骨が落下!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはニンジャ膂力で鉄骨を支え、投げ返す!「イヤーッ!」KRAAASH!壁を破壊!「行くぞ!」「はい!」「イヤーッ!」「ハイヤーッ!」両者は連続側転で廃製鉄所内へエントリー!

廃製鉄所内の壁、天井、床、廃材、排気管……ありとあらゆる物体の側面を複雑怪奇に跳ね回り、無数の鋼球が殺到!その幾つかにはカラテがこめられており、空中で自由自在にうねり曲がる!(((カラテミサイルのたぐいか。子供騙しの手品よ!)))「イヤーッ!」死神はフックロープを振り回し防御!

数発が命中し、ニンジャスレイヤーの肉を抉る!コトブキの肌をかすめる!意に介さず!「出てこい!おれはニンジャスレイヤーだ!アイサツしろ!」アイサツは絶対の礼儀だ。されたら返す。古事記にある。だが……スナイパーニンジャはあくまでアンブッシュ継続!アイサツを返さぬ!

(((グググ……アイサツの時は「ドーモ」と言うのだ、マスラダ……またこの者は対面して来ぬし、アンブッシュで死ねばそれはそれまでとして)))「黙れナラク」ニューロンの同居者の叱責を無視し、ニンジャスレイヤー・マスラダは駆ける!ニンジャソウルの痕跡を辿って!コトブキも駆ける!

「イヤーッ!」KRAAAASH!トビゲリ!奥の扉を蹴破ってダイナミックエントリー!「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」「コトブキです。喧嘩をワリカンで買いに来ました」清掃車の傍らにいる影に、両名はアイサツした。影は立ち上がり、アイサツした。「……ドーモ、ソニックフィンガーです」

サツガイを知っているか」ニンジャスレイヤーは問うた。彼にはわかる。このニンジャは、サツガイ接触者だ。ソニックフィンガーは薄く笑った。「知っていればどうする」「インタビューし、殺す」

◆殺◆

直後!「イヤーッ!」「イヤーッ!」ソニックフィンガーとニンジャスレイヤーは色付きの風と化し、激突!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」

KRAASH!二筋の色付きの風は錆朽ちた天井を突き破り、屋根へ、パイプへカラテの場を移す!「イヤーッ!」「イヤーッ!」ソニックフィンガーは指先から、掌から、足指から、口から、次々と鋼球を射出!カラテと同時に撃ち込み、跳弾とし、自在に操る!「これだ!これが俺の革命!カラテ!」

「ヌウッ!」ニンジャスレイヤーはブレーサーで防ぐが、防ぎきれぬ!無数の鋼球が装束を削り、皮膚を削り、肉を抉る!意に介さず!黒い炎が傷口から湧き出し、焼灼して塞ぐ!「イヤーッ!」「イヤーッ!」ソニックフィンガーがチョップをブリッジ回避!鋼球跳弾の雨は降り止まぬ!だがその時!

下に残されたコトブキが清掃車に突入!コトブキを狙撃したニンジャが、この清掃車に住まう男であることは事前に調べがついていた。IRCのアカウントも。そして……!「!!」パイプの上のソニックフィンガーは、コトブキに気を取られた!ウキヨなどいつでも殺せるが、しかし!

組織へ情報を送っていたことを掴まれれば!「イヤーッ!」鋼球を発射!車内を複雑に跳ね返り、コトブキの四肢の関節を破壊!「ンアーッ!」だが!「だいたいわかった」ニンジャスレイヤーは敵のワンインチ距離に!「イヤーッ!」「グワーッ!」右腕をキックで破壊!内蔵された鋼球が飛び散る!

「イヤーッ!」ソニックフィンガーは左手で掴みかかる!「ディスインテグレイト・ツカミ・ジツ!!」掌が強く振動!これは!かつて「オブリヴィオン」というニンジャが用いたヒサツ・ワザ!掌で掴んだ生体を超振動によって一瞬のうちにカツオブシめいた塵に変えてしまう危険極まりないジツだ!

彼はサツガイからこのジツを授かっていた!まさに奥の手「イヤーッ!」「グワーッ!」だがニンジャスレイヤーの右チョップが敵の左手を破壊!「わかっていたぞ」彼がそのジツの使い手でもあることは、ナラクが既に教えていた。そうでなくとも、もう遅かった。「アバッ……!」

ニンジャスレイヤーの左腕は、チョップ突きとなってソニックフィンガーの胴体を貫いていた。ジャララララ……大当たりのパチンコ台めいて、傷口から無数の鋼球が零れ落ちた。「インタビューする。サツガイについて話せ」黒い炎を纏った右掌が、ソニックフィンガーの顔を覆う!

「グワーッ!?」掴んだ掌から黒炎が流し込まれ、敵のニューロンを苛む!「アバーッ!アババババババ!」ソニックフィンガーが何事かを呟くと、ニンジャスレイヤーは頷いた。そして思い切り握力を強めて、頭を……圧潰!ナムアミダブツ!「サヨナラ!」ソニックフィンガーは爆発四散!

黒い炎に焼かれた鋼球は熔融し、銀の雨となって降り注いだ。ニンジャスレイヤーは音もなく降り立ち、清掃車の中へ。「ニンジャは殺した。UNIXはあったか」「壊されましたが、中身は無事です。わたしは四肢をやられました。でも、勝ちです」「……担ぐぞ」「お願いします」コトブキはタフに笑った。

ニンジャスレイヤーは四肢の壊れたコトブキを抱え、UNIXの基盤を抜き取った。情報はカネになる。コトブキの修理代を払ってお釣りが来るだろう。そして、サツガイの信奉者……SoCの情報も得られる。収穫だ。「帰ろう」

静寂と闇。残された無数の鋼球には、ただ、割れた月が映っていた。

【レッキング・ボール】終わり

これは、ブラッドレー・ボンド&フィリップ・N・モーゼズ著、本兌有&杉ライカ訳の大人気小説『ニンジャスレイヤー』の二次創作です。公式とは一切関係がありません。
◆ニンジャスレイヤーTwitter◆https://twitter.com/NJSLYR
◆ダイハードテイルズ公式サイト◆https://diehardtales.com/
これはまた、木城ゆきと作の漫画『銃夢外伝』収録「音速の指(ソニック・フィンガー)」のオマージュ作品でもあります。I LOVE GUNNM!

つのにサポートすると、あなたには非常な幸福が舞い込みます。数種類のリアクションコメントも表示されます。