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眠れる彼女の夢の中

教室の窓から空を眺め、空想に耽る彼女の横顔に、幾度も見惚れてきた。

彼女は、僕の恋人でもなく、幼馴染でもない。ただのクラスメートだ。机の位置が二つ挟んで後ろにあるだけ。会話を交わすことも、ないではない。クラスメートなんだから。でも、彼女の幼馴染で恋人は、別にちゃんといる。
いや、いた。この間、いなくなったのだ。

「神隠し、っつうのかなあ……ふっと蒸発したんだってサ」
「はァ。気体になって消え去ったわけェ?」
「なわけあるかよ。書き置きひとつなく、姿を消したってだけだよ」
「行方不明。ただの。誘拐かも、殺人かも。怖いね」

噂が広がる。ふぅ、と彼女がアンニュイな溜息を漏らす。声をかけようもない。無理もない。仲の良い、幼馴染の、その……男友達が。

宇宙人に連れ去られたって言ったら、どうする? エイくんが」

溜息のあと、彼女の口から漏れたのは、そんな言葉だった。

クラスメートたちが一斉に、彼女の方を見た。

「見たのよ」

【続く】

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