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胡漢英雄記

「ルィイイウィ……イイイイ……ウィイイィ……」

洛陽の上東門。埃っぽい雑鬧を横目に、少年が門柱に倚りかかり、嘯いている。
年の頃は十代半ば。深目隆鼻の胡(えびす)である。まわりの大人も、みな胡。老いた門衛も懐かしそうに目を細めている。

「これ、バイよ。騒ぐでない」
叱られ、少年は喉歌をやめる。生意気そうに、ふん、と鼻を鳴らす。
「おじさん、いつもより人通りが激しいのは、なんでだい……」
「帝がお隠れなすったとよ……」
「ふぅん。羊、売れっかなァ……売れねば、おやじがまた怒る」
胡語で話す者も、ここ洛陽には珍しくない。奴隷から将軍まで様々だ。晋人は見下すが、胡にも誇りはある。

晋の太熙元年夏四月、皇帝が崩御し、太子が立って永熙と改元した。

ガラガラガラガラ……。貴人の馬車が、また一台。従者らが胡らを追い払い、跪かせる。バイは脇へ避け、門柱に隠れ、密かに喉歌を歌う。

「ルィイイウィ……イイイイ……ウィイイィ……」

続く

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