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現実はかなり辛いけど。映画『ファヒム パリが見た奇跡』2019年、フランス。

バングラデシュからフランスにやってきたファヒムと父。仕事が見つからなかった父は赤十字に保護されて、難民申請することになり、施設に居住する。ファヒムはとてもチェスが強くてバングラデシュでも有名で、フランスでも地域のクラブに入る。仲間を得て、師匠を得て、ファヒムは全国大会を勝ち上がるけれど、父親の難民申請は受理されず、国外退去になってしまう。

実話ベースの映画。父親がフランスに渡る理由は、映画の最初でははっきりさせない。行き詰まってしまう父親を、ファヒムが助ける。海外に行くと、なじむのは子供が圧倒的に早い。仲間で助け合い、教えあって、言葉でも生活習慣でも、すぐに覚えてしまう。苦労する父親と通訳しだすファヒムは、以前お世話を手伝った、中国残留孤児帰国者の家族を思い出す。

チェスクラブでも先生が怖いおかげで、子供がみんな一致団結。ファヒムを助けるあたり、脚本がうまい。だって、強いファヒムにがんばってもらわないと、先生の雷が自分に向いちゃうから。フランス語も教えるし、先生をバカにするジョークも教えてくれる。これが、いい先生の自由闊達なクラブだと、逆に子どもたちは不法移民のファヒムをいじめているはず。

移民を申請する役所の通訳もなんだかリアル。バングラデシュからきた父親をちゃんと通訳してくれない。最初は、言葉がちゃんとわかっていないから適当にごまかしているのかと思ったら、インド系移民とバングラデシュ系移民の鍔迫り合いが背景にあって驚く。わざと間違えてたのか。

父親が働くようになって、施設を出たファヒムはチェスの先生や友達の家を渡り歩く。困った顔の親、大歓迎でやさしい親、祖母などいろんな家庭事情が見える。チェスの先生が恋しているマチルド女史がとてもやさしくて美人だし、チェスクラブ紅一点の女の子はメガネがかわいいし。

チェスの地方大会には問題なく出場できたファヒムだけれど、全国大会には滞在許可証がないと出場できない。ファヒムをめぐって、チェスの先生の往年のライバルとの関係もいいし、何より審査委員長への抗議が力強い。

彼の口から出てくるのは、過去に政治亡命してでもチェスをあきらめなかった偉大なプレーヤーの名前。ナチスから亡命したプレーヤー、ソ連から亡命したプレーヤーなど。ファヒムの将来を閉ざすなと訴える。そういう歴史の積み重ねって大事だし、伝統だよなあと強く思う。日本にも、戦前の中国からプロをめざして来日した呉清源という伝説の棋士がいた。

実在の彼のインタビューは映画の公式サイトで読める。彼は、今でも滞在許可証があるだけで、正式な国籍はもらえていない。チェス一辺倒だけじゃなく、学校も卒業した。新しい人生がフランスで開ければいい。

邦題:ファヒム パリが見た奇跡(原題:Fahim)
監督:ピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル
出演:アサド・アーメッド、ジェラール・ドパルデュー
製作:フランス(2019年)107分
原作:A King in Hiding: How a Child Refugee Became a World Chess Champion



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