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蒼井優と高橋一生を堪能する。映画『スパイの妻』2020年。


久しぶりの邦画です。黒澤清監督で、蒼井優が出ていて、戦前のレトロな感じの映画ってことで、これは大体間違いないだろうと家族で見に行きました。もとはNHKのドラマで、それを映画版として公開したとか。驚きです。

舞台は神戸。主人公は、洋館に住むような奥様の福原聡子(蒼井優)。夫(高橋一生)は貿易会社を経営していて、お育ちもいいし、頭も良くて、羽振りもよさそう。映画撮影が趣味で、妻を撮影して会社で上映するような男。

そんな夫婦の生活に割り込むようにやってくるのが、以前、蒼井優に恋慕していた津森(東出昌大)。軍人として神戸に配属になったと高橋一生の会社に堂々挨拶に来るけど、なぜか挨拶というより宣戦布告の雰囲気。高橋一生は仕事柄外国人の友人が多い設定。その中の一人、イギリス人の貿易商がスパイ容疑で拘束されたとのこと。その後のストーリーを暗示するかのよう。

夫が満洲へ行っている間、蒼井優は東出昌大を自宅に誘う。夫を愛しているといいつつ、小悪魔的な面もみせる。満洲から帰ってきた夫に、人目をはばからず抱きつくあたりも、男女並んで歩いているだけで警官に呼び止められる戦前の感覚からかけ離れている。

その後、蒼井優は、東出昌大から満洲での夫の不実を匂わされ、嫉妬に狂って夫を問い詰める。夫は、曖昧な言い方で妻の疑念をかきたてた結果、蒼井優が暴走。夫が満洲で知った国家機密をアメリカに訴えるつもりだと知り、軍の東出に告発する。しかも、甥っ子を犠牲にして、自分を無理やり夫の唯一の協力者に仕立て上げる。

お嬢様で奥様な蒼井優が、置いてけぼり喰らわされた夫の一枚上をいき、「スパイの妻」として秘密を共有する。そんなシチュエーションに有頂天になる妻。でも、観客の予想通りどんでん返しが待っている……というお話。

でも、なんだか見終わったあと、すっきりしない。妻の蒼井優が普通じゃないのはわかるけど、じゃあ、嫉妬に狂うほど高橋一生を愛していたのかというと、そうも見えない。お嬢様で奥様で、職業夫人にはなれない自分が、幼なじみの東出昌大も、甥っ子の青年も、そして夫の高橋一生も振り回すことが喜びだったというか。自分がいつも主役でいたい、好きな子の隣をいつも独占していたい小学生女子のような「大義」ごっこ。

そして夫はといえば、最初は用心が足りず、妻にあっさり告発される。でも、裏切られたと知った後は、誠実そうな仮面の下で妻への裏切りを成し遂げる。今度は一切、疑いを抱かせない周到さを見せる。

夫に再び置いてけぼり喰らわされた妻。妻は「スパイの妻」と後ろ指さされるけど、実際に日本もことは誰もわからない。戦況がどうなっているのか、ニュースが本当のことを言っているのか誰も知らない。そんな閉塞感の中で「まともに振る舞おうとする」バカバカしさ。妻と夫の関係、政府と軍・国民の関係の嘘っぽさ。この映画の監督とスタッフさんたちは、このすっきりしない、もやもやした感じを出したかったのかな。

ストーリーはどう考えてもすっきりしないけれど、俳優さんたちの演技はすばらしかった。堪能させていただきました。蒼井優、高橋一生のお二人はカメラをずっと回ししている長いセリフも何気ない短いシーンも全部。そして、脇役の人たちもすばらしかった。笹野高史(山崎医師)の社会的地位も業績もある医者のスレた感じも最高。実力ある人達のお仕事って、本当にすばらしいです。

題名:スパイの妻
監督:黒沢清
主演:蒼井優、高橋一生、東出昌大ほか
制作:日本(NHK BS8K)114分

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