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明治、大正のJ-POP『近代秀歌』永田和宏


近代短歌の概略が知りたくて、手にとった本。
でも、早速最初の一首で、懐かしさいっぱいになってしまった。

なにとなく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜かな       与謝野晶子

国語の教科書にあったような気がする。
もしくは、学生時代に本で読んだ気がする。甘酸っぱい青春というよりも、もっと前の、恋に恋していた頃を思い出させる歌。

近代秀歌として、100首、10章にまとめる。最初は、恋・愛。
作者もしくは編集者の狙いにがっちりハマってしまった読者は私だけではないはず。しかも、与謝野晶子のこの歌だもの。

先日読んだ『ぼく、牧水!』の著者伊藤一彦が、現代の感覚を明治に置き換えれば、「短歌はJ-POPみたいなもの」と言っていて、そんなもんかなあと半信半疑だったけれど、本書に引用された石川啄木の歌は確かに尾崎豊を思わせる。

不来方のお城の草に寝ころびて 空に吸はれし 十五の心  石川啄木
教室の窓より遁げて ただ一人 かの城址に寝に行きしかな  石川啄木

そして、短歌に不勉強な私も、確かに石川啄木の歌は知っているものが多い。著者曰く「ことわざのように」、というのは「慣用句のように」ということだと思うけど、確かに。「蟹とたわむる」とか「友がみなわれよりえらくみゆる日よ」とか。インパクトも覚えやすさも他の歌人の歌とは段違い。だから、俗っぽいと歌人たちの間では賛否がわかれるのだとか。

新しき明日の来るを信ずという 自分の言葉に嘘はなけれど 石川啄木

そして、先日読んだ若山牧水の歌もたくさん再録されていてうれしかった。
個人的には、この歌が好きかな。

幾山河越えさり行かば寂しさの終てなむ国ぞ今日も旅ゆく   若山牧水

この歌はカール・ブッセの詩の影響があるのだとか。
この詩もどこかで読んだことがあり、知っている。懐かしいなあ。

山のあなたの空遠く 「幸」住むと人のいふ。
噫、われひとと尋めゆきて、涙さしぐみかへりきぬ。
山のあなたになお遠く 「幸」住むと人のいふ。            (カール・ブッセ・上田敏訳)



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