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反撃するプログラマ。『ビッグデータ・コネクト』藤井太洋

表紙を見ると、なんとなく『バチスタ』シリーズを思い出すデザインです。西尾維新さんが海堂尊さんの作品のあとがきか解説で、「読者の幸せは好きになった作家が多作で、未読作品が本屋の棚にズラッと並んでいること」みたいなことを書いていましたが、ホント、そのとおりと共感しました。海堂尊さんも藤井さんも、多作でうれしい。

藤井さんの作品はどれも、プログラマと彼らをめぐるディテールがしっかりしているので、安心して読めてしかも結末が重すぎない。余計な恋愛や、男性向けサービスシーンが出てこない。私の中で、絶対外れない貴重な作家さんです。

これまで読んだ藤井太洋さんの作品は、データを解析する戦いでしたが、今回の小説は、自分のデータを相手に渡さないガードの闘争。街中のフリーwifiはもとより、警察内もwifiは使わないとか、パスワードを盗みとられないように無駄なキーを混ぜて叩く方法とか、毎回キーボードも変えるとか、エンジニア出身の2人の頭脳戦がいちいちおもしろいです。

あと、武闘派警官が体つきや手、爪のあたりで相手を判断するのも、前哨戦としてかっこいい。人はいろんな情報で戦っているということがよくわかります。戦いは、直接手を出すより先に始まっていますから。

そして、いつも近未来を描いている藤井さんが今回書いたのは、とくに断っていないけど「現代」。というのも、データカードの「T」とか民間と政府のコラボにデータ流出。上層部の無知に技術者のデスマーチ。下請けの階層が10以上も連なる無理なプロジェクト。ネットで感想を集めてみると、プログラマ界隈では「あるある」にとどまらず、「複雑な思いの共感しかない」みたいなのが多い。そういう意味で普通のミステリより現実は怖い。

主人公は濡れ衣を着せられ、普通の生活ができなくなった技術者。自分の戦闘能力をとことん高めて、各個撃破で戦っている。これがデジタルな戦争だからそこそこ成り立つのがおもしろい。下層の名もない下請けの1人になって、プログラム全体を破壊していく。もしくは、少額訴訟でも黙々と戦って勝利を積み上げる。こういうのを一定数の人ができるようになったら、社会はものすごく変わっていくのかな?

余談ですが、最近夫に藤井太洋さんの本を紹介しました。最初に処女作の『GENE MAPPER』はハードルが高そうだと判断したので、夫の好みから考えて、一番いいのがこの『ビッグデータ・コネクト』と思い、勧めたらバッチリでした。

かなり気に入ったみたいなので、次は『GENE MAPPER』。そして『オービタル・クラウド』の順番が夫をファンに引き込む最適ルートだと考えています。ふふふ。


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