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大人になってわかること。『冴子の母娘草』氷室冴子


作家として有名になって、独り立ちした氷室冴子さんに、「結婚しろ!」と迫るお母様。お母様の年代の女性にとって、結婚こそ一人前。仕事で独立しているっていっても、理屈が通じません。

現実を見ず、ひたすら娘「決まった形」の将来を願う母っていうのは、いまでこそ少なくなった気がしますが、かつては氷室家みたいなほうが一般的でした。そんな「普通の母」と時代に先駆けている娘・氷室さんの珍道中エッセイです。

氷室冴子大ファンだった私は、じつは若い頃、この手のエッセイは好きじゃなくて、「小説の続きを書いてくれたらいいのに」と思っていました。でも、実際に年をとって、母との揉め事を経験するようになると、「ああ、氷室さんにこういう話を書いてもらっておいてよかった」と思えるようになりました。苦労しているのは私だけではない、と分かるだけで、なんだか心が軽くなりますから。

それに、さんざん揉めても、どれだけ絶縁状を書いても、やっぱりお母さまへの愛情が感じられる文章。さすが氷室さんです。私なら、とっくに疎遠になっているところ。いや、いまなら「毒親」ってカテゴライズしても、ネット世論なら許されそう。このあたりに時代を感じます。

それにしても。夫がこの本をおもしろがって読んでいるのには、首をかしげざるを得ません。一体どこが、夫の心の琴線に触れたのか? もしくは、自分の妹たちと母親のことをイメージしつつ読んでいるのか? 謎です。

とりあえず、氷室冴子さんの売れる前の時代を知りたそうなので、『雑居時代』も勧めてみることにしました。最近知ったのですが、『雑居時代』も映画化されているんですね。驚きました。



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