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【歳時記と落語】彼岸の入り

2020年9月19日は彼岸の入りです。
秋の彼岸というと付きものが「おはぎ」ですな。ということは、萩の花の季節ということでもあります。

もう一つ、この時期になりますというと、あちらこちらの道ばたを赤く彩りますのんが「曼珠沙華」、別名「彼岸花」です。血の色のような真っ赤な花が印象的ですが、ようく見ると、枝分かれもなければ葉っぱもない、奇妙な格好をしておりますな。実は葉っぱは花が終わったあとで生えてきます。
しかし、実は〈ないないづくし〉にもう一つ無いモンがあります。それは種です。彼岸花は球根でしか増えることができません。
ほなら、どうやって日本中に広まったのか。
球根が何かに紛れていったというのもあるでしょうが、殆どは人間が持っていって植えたもんです。つまり、日本中の彼岸花は一株から増えたもんで遺伝的には全部同一なんですな。これは種子では増えず接ぎ木などでしか増やせない桜のソメイヨシノも同じことです。

なんで彼岸花が各地で植えられたのか。手向けとして墓などに植えられたという話もありますが、全体に毒があることから、土手や畝に植えて穴を開ける小動物よけにしたという説が有力やそうです。

また球根の毒の成分は水に溶けるんで、粉にしてよう水洗いすれば毒が抜ける。それを、救荒食にしたこともあるそうです。しかし、まかりまちがうと死んでしまう程の毒をもっとりますんで、まあお試しにならんほうがええやろうと思います。

彼岸の噺といいますと、「天王寺参り」がございます。

愛犬を死なせてしまった喜六が甚兵衛に誘われて、犬の供養に四天王寺さんへお参りにまいります。境内は露店が店を並べてやかましい言うて客を呼んでおります。

ほぉ~ら、握りたて、うまいのん握りたて、どぉじゃい。江戸寿司じゃいな、早や寿司じゃいな。
本家ぇは竹独楽屋でござい。本家ぇは竹独楽屋でござい。
亀山のチョ~ン兵衛はん。亀山のチョ~ン兵衛はん。

二人は境内をあちこち廻って、引導鐘のところへやってまいります。
「あのう、これひとつ、よろしゅうお頼の申します」
「はいはい。なまんだぶ、なまんだぶ、なまんだぶ。今日引導鐘の功力(くりき)を以って、三月十五日の諸霊俗名……クロ?これはご婦人ですか?」
いえ、それね、オンでんねやわ」

さて、坊さんが犬の引導鐘をつきますと、その音が何やと犬の唸り声にも聞こえてきた。

「坊さん。引導鐘は三遍までと聞いてんねん。三遍目、わたいに突かせておくんはなれ。」
「ああ撞いてあげなされ、功徳になりますで」
「えらい済んまへん、おおきに。クロ、ええ声で頼むで。ひのふのみっつ」

すると鐘がクワァン。

「ああ、無礙性(むげしょう=乱暴)にはどつけんもんや」

途中、境内を廻るところが実に細かく、ちゃんと観光案内になっております。落語は丁稚の耳学問と言いますが、笑いだけやのうて実用的な面もあったんですな。

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