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ルワンダで義足アスリートが生まれるために

4/24、Zoom にて、Xiborg が主催する初めてのトークイベント、xXiborg Talk(クロスサイボーグ )が行われました。
今回はルワンダで義肢装具の製作、義肢装具士の育成、障がい者スポーツの普及・障がい者に対する職業訓練などの活動を進めているルダシングワ真美さんを招待し、ルワンダでスポーツ用義足の普及、そしてパラスポーツの認知にために何が必要か、Xiborg 代表の遠藤と Xiborgランニングオフィサーの為末大の3人で議論しました。
当日は、約70名の方にご参加頂き、3人のパネルディスカッションの後には参加者の方からの質問も交えて議論を深めていきました。
当日の様子は YouTube でもご覧になれます。

登壇者

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(写真左)
ルダシングワ真美(ムリンディ・ジャパン・ワンラブ・プロジェクト代表)
1963年生まれ。神奈川県出身。ケニアに語学留学中の1989年、東アフリカを旅してルワンダの障がい者事情を知り、義肢装具士を目指す。92年から約5年間、横浜の義肢製作所で修業。96年、夫のガテラ氏とNGOムリンディ・ジャパン・ワンラブ・プロジェクトを設立。義肢工房を開設し、これまで9000人を超える人々に無料で義肢を提供してきた。2000年、シドニーパラリンピックにルワンダチームの一員として初めて参加。その活動は、NHK「プロジェクトX」でも紹介され、2015年には中学校の道徳教科書(光村図書出版)にも掲載された。
ムリンディ・ジャパン・ワンラブ・プロジェクト

遠藤謙 (Xiborg代表) (写真中)

モデレータ
為末大 (Xiborgランニングオフィサー) (写真右)

Xiborg ラオスでの試み

遠藤謙(以下、遠藤)
簡単に「ラオスでランナーが生まれた」っていう話をすると一言で終わってしまうんですけど、やっぱり国の中ではいろんな事情がありまして、一筋縄ではたぶん行かなかったんだと思います。

そこでADDPという就労支援をラオスの国でやっているNPOが全てを調整してくださって、我々がCOPEっていう義足のクリニックに入らせてもらって、そこで選手候補を見つけてくれて、そこで日本で準備してきたソケットの作り方を義肢装具士さんと一緒に学んでもらって、そして選手につけてもらうと。

ラオスがよかったのはパラリンピックコミュニティーともつながりもありますし、競技場もあって、パラの選手たちのチームも一応あって、そこで指導している方がいるので、そこに参加できるような義足のランナーが生まれたらいいねっていう、それぞれ役割分担が最小限たぶん賄えるようなチーム編成ができるということでラオスに行ったっていうことが一つの経緯です。

(略)

我々は板バネをラオスで作ったソケットに取り付けて走るというところまでできました。
なので板バネはまだ高いのでそれが「どうやったら供給できるか」とか、「サステイナブルに彼らがカーボンの板バネを買うことができるか」というとまだ難しいと思うので、これを「安くしなきゃいけない」とか、「なるべく彼らの負担にならないように板バネが提供できるようになったらいいな」っていうようなことを画策しながらも、一方で彼ら義肢装具士さんがもうすでに板バネをつけるという技術を持つことができたので、板バネさえあればラオスでランナーが量産できるっていう体制の礎ができたと思っています。

Xiborgの競技用義足 Xiborg ν(ニュー)

ソケットと板バネ説明


ラオスで義足アスリート誕生した際の支援チーム

ラオスチーム


でも、まだまだやれることっていうのはいっぱいありまして、まだ義足ランナーが1人しか誕生してないですし、2人目3人目も見たいですし、もうちょっと板バネが普及できるような、一般的な人が普通にジョギング程度で走るような世界観まではまだまだ距離がありながらも、最初の一歩を踏み出したというレベルでこういったプロジェクトを行いました。

今回真美さんが日本にいらっしゃるということで、前々からこういうことをやりたいと思っていたのですが、ルワンダで義足のランナーがいないということで、『ルワンダで一人目のランナーが生まれるためにはどうしたらいいか』と考えたときに、そのタスクの洗い出しというか…我々はこういうことをやりたいと思ってるんだけども、「じゃあ、何ができるのか」「何ができないのか」ということを聞きたいなと思って、このイベントへの登壇をお願いしました。


ルワンダで義足アスリートが生まれるためには

為末大(以下、為末):
ルワンダって今どんな状況かをお伺いしていきたいのですが、
パラリンピックの選手が生まれてくる為に必要な私の思う条件は「練習環境があるか」「選手はいるか」「コーチはいるか」「継続できるような経済的支援はあるか」、この辺りが重要になってくると思うのですが、今現在のルワンダのパラリンピアンの状況はどうなっているんでしょうか。

ルダシングワ真美氏(以下、ルダシングワ):
単純に「走る」っていうことだけを考えれば、競技場もありますし、そういうところで練習するのは可能かと。

あと、問題は選手なんですけれども、残念ながらモチベーションがなかなか高まらないっていうのはあるのかなと。
というのが、私が彼らを見た感じなんですけども、例えば「スポーツをやりましょう」っていう声をかけたときにやりたいっていう人はいっぱいいるんですよ。

ただそこで残念ながら出てくるのが「お金がほしい」っていうことになっちゃうんですね。

「スポーツをやりたいのか」あるいは「お金が欲しいのか」っていうのは微妙にわからない。

あと、コーチに関しても、きちんとスポーツを学んだ人がルワンダにいるわけではないので、環境があって、コーチとしてのトレーニングを受けた人っていうのは非常に少ないと思うので、コーチも外部から持ってこないとダメじゃないかなって思います。


ルワンダでの健常者のスポーツ事情は

為末
先ほど言われたアスリートのモチベーションの問題は、私も途上国でのサポートするので、あまり状況は変わらないと思うんですね。
一番キーになるのがコーチなんですね。
コーチがいると、選手が勝手にモチベーションが湧いてきてやってくるんですけれども、コーチの育成ってのはオリンピック側はどうなってるんですかね?

ルダシングワ
健常者のスポーツに関してもやっぱり海外からのコーチの方が多いと思います。
やっぱりルワンダでスポーツが日の目を浴びるようになったのっていうのは割りと最近かなと思うんですね。

ルワンダの悪い所っていうか、形から入る部分がすごく大きいんですよね。
純粋にスポーツを楽しむっていうよりは形が整わないと始められないっていう風なイメージを持ってしまってるのかなと。

そうじゃなくて私がルワンダの人にまずやってほしいというか、こうなったらいいなぁと思うのはやっぱりさっき遠藤さんが言ったみたいに誰でも参加できるような状況っていうのがなかなか無いんですよね。
だから、盛んに政府は「スポーツをやりましょう」と言ってるんだけども、やっぱりそれに参加できる人ってトレーニングウェアを買える人とか、ジョギングシューズを持っている人とか、裕福な人にどうしてもなっちゃう。
それが私としては非常に不満というか。
もっと普通に参加できる環境、あと意識っていうのを彼らに植えつけていきたいなと思います。


途上国とハイテクをつなぐ継続可能のモデルとは

為末
いわゆる途上国をサポートしていくということと、もう一ついわゆるハイテックの世界ですね、テクノロジーの極みを攻めていく世界っていうのは、やっぱりこの間をつなぐのってかなり大変なんだと思うんですね。
簡単に言うと、アップルみたいな技術と途上国ってどうやって結びつければいいんだ、と。
やっぱりどうしたって技術が高くなれば高価になっていきますから。
実際にXiborgの義足を提供するっていうのは一足で30から50万ぐらいです。

これを果たして継続可能なモデルにできるのかと。
一つ分かりやすい形で誰か選手に履くっていうところまで行けても、たくさんの選手が履きながら走り出すということができるのかっていうのは、非常に途上国支援で大きな課題だと思うんですけど、どういうモデルだったらありえそうでしょうか?

遠藤
一個インドで試しているモデルがあって、やっぱり途上国というか経済的に難しい部分っていうのは凄い効果あるので、まずはトップアスリートの支援というのは結構説明がしやすいかなという風に思ってやってます。

特にインドは既にトップアスリートが生まれていたので。
そんな中で、インドはたまたま利益の2%をCSRに回さなきゃいけないって法律があって、何か良いことをしたい会社ってのは結構いっぱいあるんですよね。
そういう目的意識と、我々が「パラリンピックに選手を送りましょうよ」というような、簡単に言うと「パラの方も大事だよね」っていうようなことを提案して、そういった企業がトップアスリートをサポートするっていうところでマーケットが生まれ始めてるなっていうのが一つと、
あとはやっぱり「ダイバーシティー・インクルーシブ」っていう言葉は日本だけじゃなくて世界中でみんな「こっちの方向に行くのは正しいよね」っていうアグリーメントが生まれ始めている。
SDGsの中でも入っているキーワードなので、トップアスリート支援から普通の義足の子たちが走り出すっていうような流れを作り出すっていうのが、たぶんインドだったら今だったらできるんじゃないかなということで、今試そうとしています。

あとはXiborgという会社はテクノロジーの会社なので、まずやっぱり板バネは高すぎるので、カーボンでなおかつ安い義足ができないかっていうことをやっていかなきゃいけないなと思って一つやっていますね。

その2つとの成長と合わせていけば、それが長期的には実っていくような、みんなが走れるような社会につながるんじゃないかなって思いました。

為末
単価をなるべく下げるような努力しつつ、なんらかの外部からの支援をうまく組み合わせてやっていきつつ、成功事例が出るともしかしたら選手たちも「あっ、これ儲かるかもしれない」っていう気持ちで走り出してくれるかもしれないし、何か火がつくかもしれない。

遠藤
日本ですら板バネを「自分で買う」っていうマインドがやっぱりないじゃないですか。
だからなおさらインドでもルワンダでもラオスでも「自分で板バネを買ってまで走りたい」っていうところまで持っていくのは相当難しいかなと思うので、やっぱり他からお金を引っ張ってくるモデルじゃないとこれは進めないんじゃないかなってすごい思います。

為末
なんか昔 evian (飲料水メーカー)がね、1本飲んだら1本寄付みたいなあったじゃないですか。
ああいうのできるんじゃ。

遠藤
全然できる。
でもやっぱそれって自分たちじゃ買えないから他のところからお金を引っ張ってくるモデルじゃないですか。
昔 OLPC ってパソコンもそうだったし、そういうモデルっていうのは何か自分たちじゃなくて他の人が払っている一部をそっちに回そうっていう。 Table For Two とかもそうですかね。

そういったものを組み合わせないとやっぱりできないものなんじゃないかなと思いながらも、儲からないけれどやらないっていうのは社会的に後退になってしまうので、何か進めるためにそういったノウハウというかコツを使っていくということが求められている領域なのかなとは思いました。


ルワンダでの義足のリハビリは

為末
選手が走り出す前に、リハビリのプロセスでの歩き方の癖が、結構走りに影響を与えるんですね。
なので走り出して「癖が見えてるな」と言うと、歩いているときの最初のリハビリでついた癖が、左右が均等じゃなくなってたりしていて、それが見つかることがよくあって。
実際に速く走ろうと思うと、きれいに走らなきゃいけなくて、きれいに走ろうと思うときれいに歩かなきゃいけなくて、きれいに歩くと実際の歩行寿命が伸びるだろう、という前提で、
要するに生涯歩ける時間が伸びるだろうって前提で話をしてるんですけど、ルワンダではリハビリの状況ってどんな風になってるんですかね。

ルワシングワ
リハビリに関しては残念ながら私たちもそうなんですけども、例えば義足を作って渡した後のフォローっていうのはほとんどできてないです。
だから、履いて、渡して、言い方はすごくいい加減なんですけども、「あとは自分で歩いてね」っていう状況がほとんどだと思います。
だから今、為末さんがおっしゃったような「歩く癖」「本来はこう歩いた方がいいのに」っていうのを直せない状況のまま進んでいっていると思います。

為末
実際にはどんな形になるんですかね。
来られて、ソケットのようなものをつけて、歩ける形状のものをつけて、それを何回ぐらいでお会いして提供するという形なんですか。

ルダシングワ
一番早くて本当に3回だけですね。
要するに「形を取りに来る日」と「仮合せの日」と「渡す日」だけっていう。

例えば、地方に住んでいる人たちの場合はどうしても首都まで出て来れないんですよ。
交通費がないことが主な原因なんですけど。
だからとにかくもう型をとって作ったら、早く渡さなきゃいけない。
何回も来させるわけにいかないっていう風な状況があるので。
場合によっては、仮合わせをして、その場で手を加えるところを加えて、仕上げの前まで持っていっちゃって、その日の夕方に渡すっていうパターンもあるので。
実際、来た患者さんに対してのケアというのは、正直出来ていない状態だと思います。


どうすればルワンダで走れるようになる?

為末
「これがあれば、もしかしたらルワンダの人達、ちょっとジョギングぐらいまでやるかもしれない」みたいなものって、今日の話でヒントありましたか?

ルダシングワ:うーん。

為末
義足だけでなくて、ほかにももっといろんなものがないと「歩けるところ」から「ちょっと走ってみよう」みたいなことにならないような気がしたんですが。

ルダシングワ
たぶん本当にちょっとのきっかけでいいんだと思うんですよね。
それこそ「走る」っていうことを考えたらば、何も義足がなくても走れる。
例えば、足を切断した人か両方杖を持てば走ることはできるじゃないですか。
杖をこう突いて。
何かそういうのをやってみせる人っていうのが必要なのかなって。

為末:うん。

ルダシングワ
気がつかないんだと思うんですよ。
「あ、これで走れるんじゃない」っていうようなこと。
あるいは、私さっき車いすの競技ということも伝えたんですけれども、「車椅子で競技ができるんだ」ということを伝えるのがまず大事なのかなって。

(写真)One Love Projectで取り組んでいる車椅子スポーツの普及活動。
ルワンダで月2回実施される「カーフリーデー」(道路を歩行者天国として国民にスポーツを推奨する日)を利用し、活動している。

olv車いすチーム

残念ながら、ルワンダでは若い人はインターネットとかを使って割と情報を得られるようにはなってきてるとは思うんですけれども、それでも障がい者スポーツというもの自体に興味を持つ人というのはまだ少ないように思うんですね。
だからそれを最初に伝える。
「それをやると面白いんだよ」とか「この後飲むビールは旨いんだよ」っていうことに気づかせるのが最初なのかなって。
で、もちろんルワンダでもスポーツをやっている人はいるんですけども、割と閉鎖的な部分があるから、もっとオープンにやる。
もっとスポーツが楽しいっていう、記録だけを求めるんじゃなくて、「あなたもできるんだよ」「スポーツってこんな面白いんだよ」ということを。

ちなみにルワンダの人ってサッカー大好きなんですよ。
だから、サッカーの試合があるとき仕事にならないぐらいみんなラジオにかじりついたりするんですね。
だから、サッカーっていうのはもう一般に広まったので、今更いちいち伝える必要はないんですけど、陸上とかそういうものに関してはまだ知らない人が多いんじゃないかな。
だからその最初の一歩の「かっこいい選手」みたいなのがいれば、憧れて「なんだなんだ」ってやる人は増えるのかなって思います。

ルワンダでは技術的に可能なのか

遠藤
国の情勢とかスポーツの環境の問題が大きいっていう話がメインだったと思うんですけれども、技術的な話で言うと真美さんが持っていた工房で、ラオスでやっていたような義足ソケットの作り方っていうのは可能なんでしょうか?

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ルダシングワ:できません。できない。

遠藤:何が足りないと思いますか?

ルダシングワ:うーんと、機械材料(が)ない。

遠藤:ソケットってどうやって作ってるんですかね。日本と変わらないというと。

ルダシングワ:日本と工程が変わらないというだけで、材料は全然違います。プラスチックのパイプを熱加工して柔らかくしてソケットにしているので、樹脂を固めるっていうんじゃないんです。

遠藤:インドで義肢装具を配布しているNGOのJaipur Foot みたいな?

ルダシングワ:そうですそうです。

遠藤:じゃあ、それを使ったソケット作りをしないと走れないっていう話なんですね?

ルダシングワ:今の時点では(そう)思いますね。

為末:まずは誰かパラリンピック選手に一緒に行ってもらって、目の前で走ってもらうのがいいんじゃないかという気もしましたけれども。

遠藤:まずは「行け!」っていうことですね。(笑)
本当はパラリンピックが終わった後にヨーロッパに住んで、ルワンダに行こうと思っていたのですが、(パラリンピックの延期で)頓挫して…
どうやって進めようかと思っていた時に、たまたま日本にいた真美さんとこういうイベントができて。
僕が一方的に真美さんの講演会を聞くことはありましたが、あまり詳しく話をしたことはなかったし、実際にスポーツについて聞くというのは初めてだったと思うんですよね。
スポーツに関しては、途上国では後回しにされがちなトピックなので、ちょっとは余裕がないと頭が回らないトピックだったのですが、ガテラさん(ルダシングワ氏の配偶者で同じくOne Love Projectの代表)が車いすで頑張ってらっしゃる姿を見て、スポーツを話せる人なんだということを昨年ぐらいから感じていたので、今回念願のスポーツの話が出来て本当に良かったと思いました。

(写真)競技用車椅子に乗るガテラ氏。

ガテラさん


ルワンダで義足アスリートが生まれることの、ルワンダ全体に対しての意義とは

遠藤:世界的にまだ障がい者が健常者よりも下だと思ってしまっていて、そのような先入観はこれからは壊れていくと思っていて。先進国では良くあると思うのですが、ルワンダという国、義足のテクノロジーもそこまでいいものが使えていない状況下でも走ることができるんだ、ということの感動は、日本よりも大きいと思うんですよね。

ルワンダで義足の人が走るのを見た人は、どれぐらい驚くんだろう。
イノベーションは大きな一歩だと思うので、分からないものが起こった時の衝撃は、大きなその後の変化が起こる一つのきっかけになるんじゃないですか。
ルワンダや、ラオスもそうなんですが、飛躍的な変化をもたらす第一歩目がとても大事で。それがルワンダから、ラオスからから生まれることの意義が、パラリンピックで早い選手が走ることと同じくらい重要なんじゃないかと思います。

次回の「x Xiborg Talk vol. 1」は2020年5月15日(金)に予定しています。ゲストはXiborgのブレードを使用し活躍している3人のアスリート。日本でも多くの義足ユーザーにとって走ることはまだ特別であるなか、「人はなぜ走るのか」をテーマに議論します。競技用義足とは?誰にとっても走ることが当たり前になるには?など参加者の皆さんと一緒に考えていきます。

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