中国、成長率目標達成を断念か─年5.5%困難、4%台の見通し

 中国政府は国内経済について「5.5%前後」としていた2022年の成長率目標達成を断念したもようだ。習近平国家主席のゼロコロナ政策に基づく上海市などのロックダウン(都市封鎖)で大きな打撃を受けたためで、実際には通年で4%台の成長を目指すとみられる。

■「比較的良いレベル」追求

 中国共産党の指導部である政治局は7月28日、経済情勢分析などのため、習氏の主宰で会議を開いた。公式報道によると、会議は「経済が回復し上向く流れを確かなものにして、雇用と物価の安定に注力し、経済運営を合理的なレンジに保って、最良の結果実現を目指す」と強調。新型コロナウイルス対策と経済・社会発展の関係について「総合的に、系統的に、長期的に見て、特に政治面から見て、政治的得失を考えなければならない」とした上で、「ダイナミック・ゼロコロナ(政策)を堅持し、感染が見つかれば必ず直ちに対応して、管理すべきは断固として管理する必要があり、決して緩みや厭戦気分があってはならない」との見解を示した。
 5.5%前後という目標は3月の全国人民代表大会(全人代=国会)で採択された政府活動報告に明記された。習氏は6月22日の新興5カ国(BRICS)ビジネスフォーラムでも「中国はマクロ政策の調節により力を入れ、より効果的な措置を取って、通年の経済・社会発展目標達成に努力する」と発言。ところが、6月28日の武漢市(湖北省)視察では「今年のわが国経済発展が比較的良いレベルに達することを目指す」と言い方を変えた。
 中国の4~6月期成長率が前年同期比0.4%と前期の4.8%から大きく落ち込み、辛うじてマイナス転落を免れる水準だったことが発表されたのは7月15日。1~6月期の成長率は2.5%となり、通年で5.5%は難しくなった。
 習氏ら党指導部は6月22~28日の間にこれらの数字の報告を受けた結果、目標を「比較的良いレベル」「最良の結果」に変えたのだろう。

■大規模な刺激策は否定

 李克強首相も7月19日、世界経済フォーラムのビジネスリーダー・オンライン対話で、今年の中国経済について「比較的良いレベル」の発展を追求すると語った。
 李氏は「2020年以後、われわれが新型コロナ感染による重大な衝撃の中で実施した政策は規模の面で合理的だった。『大規模なかんがい(景気刺激策)』を行わなかったのは、インフレ防止の条件をつくり出すためでもある」と説明。「高過ぎる成長目標のために超大規模な刺激措置を打ち出し、通貨を超過発行することはあり得ない」と述べ、経済成長を達成するために無理をして景気の過熱を招く事態は絶対に避ける方針を明確にした。
 成長率目標の修正は読みを間違えたことを意味するので、過去にほとんど例はない。したがって、中国の指導者や関係当局者は、通年で事実上どのぐらいの成長を目指すのか明言していない

■政権ブレーン「4・8%」

 一方、習政権のブレーンとして知られる上海財経大学の劉元春学長は国内メディアのインタビューに対し、22年の成長率は4.8%前後になるだろうと語った。有力経済紙・21世紀経済報道(電子版)が7月19日に伝えた劉氏の発言は以下の通り。
 一、経済安定化のための一連の政策は5月末から出始めたので、6月になってようやく効果が表れてきた。それでも、6月の国内総生産(GDP)は4%前後増加したとみられ、経済回復のペースは比較的速い。
 一、経済安定化政策は7~9月期に集中的に実行され、成長率は上がるが、政策を使い切ってしまうため、10~12月期は成長率が下がる。通年では4.8%前後になるとみている。
 一、経済成長速度がわれわれの仕事の全てではない。政府活動報告が掲げた目標の中で最も基礎的なのは雇用であり、失業率を5.5%以下に抑えることだ。これが経済の平穏と社会の安定にとってカギになる。
 一、今年は経済の全面復興を進めるが、5.5%前後の成長という単一の目標を強調し過ぎるのは良くない。これは、外部環境の激しい変化や国内コロナ感染状況の変化がないことを前提に制定されたものだ。5.5%前後の成長目標に拘泥する必要はない。
 一、今年後半は重要な改革のテーマが少なくない。例えば、地方政府の役割だ。いかにして投資型政府のモデル転換を進め、財政の土地(使用権売却)に対する依存度を減らすのか。地方財政、債務、国有企業、金融の問題は全て結び付いている。

■3%台の予測も

 劉氏は同時期に別のメディア(時代週報)の取材にも応じて、「5.5%という通年経済成長目標を教条的に理解すべきではなく、政府活動報告の通年目標は全面的に理解することが必要だ。目標は6種類の指標があり、単純に一つのデータだけを見るのではない」と指摘。コロナと国際環境の「予想を超える変化」に対応して、成長目標も調整しなければならないと主張した。外部もしくは国際環境の変化とはロシアのウクライナ侵攻を指すとみられる。
 劉氏は習氏主宰の専門家座談会に参加したこともある大物エコノミスト。以上の論評は、関係当局者が公言できない本音を代弁した発言であろう。
 6~7月に公表された中国の通年成長率予測は、国際通貨基金(IMF)3.3%、アジア開発銀行(ADB)4.0%、世界銀行4.3%。また、約50人のエコノミストを対象としたロイター通信の調査(7月)では、4.0%だった。
 これらの数値と比べると、劉氏の「4.8%」はかなり高い。現実には4%台であれば、内外環境の激変にもかかわらず「最良の結果」を出して、「比較的良いレベル」を達成できたという総括になると思われる。(2022年8月16日)

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