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熊本県御船町|遠隔操作で避難所を解除し、リアルタイムに避難人数を把握

熊本県御船町は、熊本市から少し山間部の方へ進んだところに位置し、県下屈指の醸造の町として知られています。

まだ記憶にも新しい熊本地震が起こった際に判明した、災害時の課題に対するICT活用事例です。


熊本地震 被災時に発生した課題

平成28年(2016年)に起こった熊本地震では多くの犠牲が出ました。それと同時に、災害発生時における課題も多く見つかりました。

倒木、落石、土砂崩れ、陥没などにより道路が寸断され、避難所まで職員が辿りつけない状況になりました。すると、職員がいないことで、「避難所に鍵がかかっていて開設することができない」「避難した人数を数えることができない」といった課題です。

熊本県御船町は約7割が山間地域のため、道路が寸断することで現地へ行くことが困難になることもあります。実際に、熊本地震発生時には避難所を開設するまでに2日以上かかってしまった場所もあったようです。もし冬の寒い時期に大きな災害が起こっていたら、2日以上避難所へ入れないというのは恐ろしい状況です。


IoTを活用して遠隔操作で解錠、センサーで人数を把握

これらの課題に対して、2つの施策を実行しました。

(1)遠隔操作で避難所を解錠する
これまでは、避難所を解錠するために職員が現地へ行くか、町の鍵管理者の方が現地へ行くかのどちらかでした。
そこで、避難所の出入口付近にキーボックスを設置し、遠隔からキーボックスを解錠できるようにしました。災害対策本部のPCを使って操作すると、キーボックスが解錠し、避難所の鍵を取り出すことができるようになりました。

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※余談ですが、私が住むマンションでは室外にガスの元栓があり、普段は鍵が閉まっています。鍵の管理者が各階に1世帯ずついるのですが、緊急時にその世帯が留守にしていたらどうするのだろうか、という懸念があったりします・・・(ICTの活用で解決したいものです)


(2)避難所の入口にセンサーをつけて人数を把握
災害発生時は職員が対応に追われてマンパワーが不足するため、各避難所でどれくらいの人数がいるのかを把握するのも時間がかかります。また、そもそも避難所へ行くことが困難という状況もありました。
そこで、避難所の入口にセンサーを設置し、その下を通過した人数をカウントして人数を災害対策本部へ自動で送る仕組みを導入しました。災害対策本部ではリアルタイムで人数を把握できるようになりました。

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今回の事例で技術的なポイントとなるのは「LPWA」という遠距離通信を実現した技術です。この技術によって、上記2つの施策を実現できました。

「LPWA」について簡単に解説します。


遠距離通信ができる「LPWA」とは?

LPWAとは「Low Power Wide Area」の略で、『低消費電力で長距離の通信』ができる無線通信技術の総称のことです。

現在普及している無線通信というと、3G・4G・LTEなどの長距離向けの無線と、WiFi・Bluetoothなどの短距離向けの無線があります。普段我々が使っている「3G・4G・LTE」や「WiFi・Bluetooth」との違いは大きく3つあります。

(1)長距離の通信が可能
LPWAでは10km以上の距離で通信が可能です。実証実験では約120kmの距離でも通信に成功したという事例もあります。

(2)消費電力が非常に少ない
電池一つで数年間は動作すると言われています。
(毎日大量の通信をしている場合はこの限りではありません)

(3)通信速度が遅い
この点だけはLPWAが劣っている点です。通信速度は、LTEや4G、5Gまた、Wi-Fiなどの方が圧倒的に早いです。

こういった特徴を持つ「LPWA」は、今回の事例のような遠隔操作やIoTのセンサーなどに向いています。理由は、長距離の通信が可能で、消費電力が非常に少ないという点です。

今回の事例のように道路が寸断して現地へ行けないことを想定すると長距離の通信が必要になりますし、避難所や山間部に設置するセンサーやIoTは頻繁に電池交換をしなくてもよいので運用しやすいためです。

また、IoTでは比較的少ない情報を送れば良い、という点もあります。例えば、センサーで人を検知したら「1人検知した」という情報だけ送ればよいですし、温度を検知するようなIoTでは温度の情報だけを送ればよいのです。


ポイント

「必要な要件を明確にし、要件を満たすための手段を選択したこと」が今回のポイントです。当たり前のことですが非常に重要です。

今回の要件は大きく以下の2点でした。
 ・耐災害性に優れていること(遠隔操作など)
 ・持続可能な費用であること

この2点の要件に最も合致する手段として「LPWA」という技術を選定しました。

例えばWiFiでは遠距離の通信ができませんし、有線の回線を使うわけにもいきません。かといって、多額の費用を使って、莫大な仕組みをゼロから作るわけにもいきません。そこで、2点の要件に合致する「LPWA」という手段が選択されることになりました。

システム導入をする際は、あれもこれも必要となりがちです。しかし、その中でも優先にすべき要件を明確にすることが非常に重要です。この選定プロセスはシステム導入のあらゆる場面で転用できますね。


※画像など、全国地域情報化推進協会からお借りしました。ありがとうございました。



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