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覚悟を保留しない

実際のところ私の持つ上手くいかなさは、血筋由来でも生育歴由来でも無く、私が私だから上手くいかないのだ、という事実を、私はすでに知っている。

私の他にもう一人いた、別の部屋でじっと床に伏していたわたしも、本当は、その事にとっくに気がついていた。

原因は他者にはない、自己にあると分かっていてもなお、原因を他者に求めてしまうとき、状況の解決策はほとんどない。寝起きし、働き、食べ、暮らすしかない。当たり散らしてもさめざめ泣いても、じっとしていても人のせいにしても、自己からは離れられない。他者はこの上手くいかなさを、引き受けたりもしない。

ままならない時に社会が悪い、親が悪いと叫んでも声がどこにも届いていなくて絶望を味わう。そうは言っても他者にも責任があるじゃない?と床に伏したわたしが訴えてくる。あの人がああだから、私は幸せになれないんだ。

でも、わたしが望む責任の取り方を、実行してくれる他者なんていないよ、と、私は知っている。彼らに責任があったと証明できても、それで幸せになれたりしないよ。自分の望みを全て叶えてくれる存在などいない。じっと寝ているわたしに話しかける。愚直に毎日をやるにはエネルギーが足りなくて、床に伏してばかりいるわたし。体が動かなくて頭で考えてばかりいる。どこにも辿り着かない考えを構築することばかりが上手くなる。私が愉しく暮らしちゃったら、あの人達は自分のやったことがどんなに酷かったか気がつかないから、わたしは苦しんで苦しみ抜いてあの人達に分からせてやるんだ。わたしが死んだら、お母さんはきっと自分がしたことに気がつくよね。

そもそも私は何を望んでいるんだろう。
自分が苦しんで、相手に分からせることが望みなのか?
自責と他責を繰り返すと、自身の望みはどんどん分からなくなっていく。確かに社会は正しくない。あの人もきっと正しくはない。でも多分、床に伏しているわたしが一番正しいわけでもない。全てが正しくなることを一番に望んでるの?本当に?

自分の望みを声に出していいとしたら、それはこうだ。

穏やかに暮らしたい。

それは他者が責任を取ってくれたら、実現出来るのか。
おそらくそうではない。
自分で働き、生きて、実現するしかない。
覚悟を決めて状況を受け入れ、働きかけ、実現に向けて進むしかない。そう、第一段階は、覚悟だ。覚悟を決めずに曖昧な状態にしておくのは、実は本当に居心地がいい。覚悟を決めていなければ責任も発生しないような気がするからだ。覚悟を決めない事こそが正解な気がしてくる。あやふやなのが最高。何もかもをあやふやにしておく事こそが答えだと思えてくる。もしくは、私が覚悟を決められないのは社会が悪い、親が悪いと念仏を唱え始めたりもする。そのうち、上手くいかなさのフィールドに溜まることが嗜癖になっていく。
でも、逆の立場だったら、例えば自分のそばに覚悟が決まっていない人が存在したら、それは本当に難儀なことだ。私にとっての父親のように。死にたい死にたいと言いながら子供を四人ももうけて、本当に死んでしまった父親。ねえ、なんで死にたいなら結婚して子供を作ったの?上手くいかない自分を嘆くことが嗜癖になって、お酒ばかり飲んでいたんでしょう?母親だってそうだ。ああ一人になりたい子供を産みたくなかった結婚だってしたくなかったと彼女が嘆く時、私も産まれたくなかったし振り回されたくなかったと思っていた。母親が私を持て余していた様に、私もわたしを持て余していた。大人が覚悟を決めてくれなかったら、子供というものは本当に存在が曖昧になってしまう。子供にも効く念仏なんて無い。

でも、かつての私も、夫の前では覚悟の決まってない、責任を保留にしている女だった。死にたがる人のそばで暮らすのは本当にきつい事だと、私は知っているのに、同じ事をしていた。人のことは責めるのに、自分のことは曖昧にしていた。だが、夫にとって難儀な存在にはなりたくない。私は覚悟を持ってわたしを引き受けなければならない。エネルギーが足りなくて覚悟を決めるところを目指せないのなら、まずは自身のエネルギーを貯めるべく行動する必要がある。


というような事を考えながら、今日は売り上げデータの加工をし、出荷に関する電話を受け、支部の決算書をまとめるエクセルを作った。
先輩と二人で、これ次期繰越金の額が間違ってない?とわいわい言い合い、なんでこの値が出たんだろと電卓を叩いて首を傾げた。何度計算してもこうはならないよ、なんだろうこの値。支部に問い合わせないと。
お昼にはEさんが、オレンジチョコをふたつくれた。もらってすぐにひとつ食べた。Eさんが食べていたのは、ヨーグルトの新しい味だった。ねえこれ結構美味しいよ、会社の近くのスーパーに売ってたから買ってみて。
今日も退社後に母親に電話した。今日も留守電に繋がった。
夫は新しく買った服を褒めてくれた。仕事着を定期的に買い替えるのは大事だと思った。二人でソファに並んで座って、一人一袋のポテトチップスを食べた。ハイエイタスのチケット申し込まなきゃ、と声を掛け合い、申し込みフォームの同行予定者の欄に、お互いの名前を入力した。夕食後私が寝てしまい、プリンは食べられなかった。


生活が続く。

今日、母から来たLINE
一体何のことかは分からないが
おそらくアイスについて、私に何か伝えたいんだな
ジャンボ


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