僕の知らない、青
「奇跡」
という言葉は、今日の日の為にあるものだと思った。
昨夜寝る前に、相方と
「明日、人生を賭けた撮影をしよう」
と大袈裟な誓いをたて、お互い眠りについた。
一夜明け、今日。
もう一度旭岳にトライする。
昨日は予行登頂。
今日は撮影本番。
ずっと前から決まっていた、『莉の対』総合スケジュールに書かれている
1月7日「旭岳」
登山家や地元の方に撮影の概要を話すと、
「難しい」「無理だ」
と返ってくる。
最大の理由は、1月の旭岳の天候。
「1月はまず晴れない」
「1ヶ月待ったとしても晴れないかもしれない」
とのこと。
そんな中、ピンポイントで1月7日に撮影スケジュールをぶち込む無謀さと馬鹿さ加減が『莉の対』のいいところであり、脆すぎるところでもある。
なんとかなるでしょ
俺たち、「持ってる」から!
というノリで来ましたが
割とこの感覚は合ってる気もして。
ここまで「嘘でしょ?」と思う幸運に沢山助けられてきた。
でもこの「持ってる」を実現させる為に、さすがに今回は「奇跡」を起こすしかなさそうだった。
天気予報によると、
「12時から晴れ間が出る」
らしいが、北海道の、ましてや山の天気などというのは本当に変わりやすく信じたいけど信じられないくて、でもこの天気予報が僕の心の拠り所となった。
制作のあお兄からロープウェイ乗り場で
「良いの撮ってこいよ」
と送り出してもらった言葉が心強かった。
写真では冗談めかしていますが
その言葉を言ってくれた時のいい表情が忘れられない。
昨夜北海道に到着したばかりのタカラさん。
今作の主人公なのですが、配役が決まった時点から雪山撮影がありますと伝えていた。
「大丈夫ですよ」
という、軽い感じでOKしてくれましたが、ガイドさんと打ち合わせを重ねるにつれ、命の危険性も考えないといけなくなりました。なので様々な代案を考えました。
山頂まで行かなくても、低いところでカットを代用することはできる。
顔が隠れているのでスタントで代用することもできる。
なので安全なところで撮影しましょうか?と提案したところ
「せっかくなんで登りたい」と彼女から言葉をもらいました。
それが嬉しかった。
こんな無茶に付き合ってくれて嬉しかった。
キャストとクルーの安全面、そして撮影の難易度を考えて
登山ガイドを大塚さんに加え、鳥羽さん、松野さんにお願いすることにしました。
結果としてこれは大正解でした。この方々無しでは成しえなかった。
心強いクルー達に後押しされながら
いよいよ登山開始。
スタート時点から明らかに昨日よりは天候も視界も良く、5号目くらいはちらほら雲間から青空が出ていたし、太陽を確認することもできた。
それが、6号目、7号目と進むにつれ高い山の部分が視界に入ってくるのですが、山の上の部分にはまだまだ分厚い雲が沢山残っている。
8号目に到達する前には風も強くなり、視界も一気に悪くなった。
昨日の記憶が蘇ってきた。
昨日と一緒だとしたら、撮りたい画が全く撮れない。
ご支援で入って下さっている東川町にも、ガイドで入って下さっている方々にも、申し訳がない。旭岳が撮れるかどうかは僕の中で非常に大きな責務でもありました。
時計を見ながら、
「頼むぞ旭岳」
と心の中で神だのみをしながら、一歩一歩急な斜面を登っていきました。
登山開始から約2時間半。
一行は山頂に到達した。
時刻は12時にもうあと少しというところ。
僕の視界に
「青」
が飛び込んできた。
奇跡が起こった!
山頂は快晴。
雲が全開という訳ではなったけど、逆に雲があることで自分の高さと、山の立体感が強調されて、圧倒的な景色となった。
雲間から大雪山連峰も顔を出してくれた。
僕が山頂で見た「青」は、僕が知っているどの「青」とも異なっていたし
僕が見たかった美しい世界がそこには広がっていました。
空も太陽も山も雲も雪も、人も。
そして、
なぜか山頂に「かまくら」ができていた。
あれ?
こんなの昨日あったかな?
と思いつつ、今回の撮影でこのかまくらの存在の功績は非常に大きい。
山頂での暴風を避ける事ができ、機材を展開したり、僕たちが待機するができた。
それにしても
一体誰が作ったのか。
恐らく昨日の悪天候の中旭岳に登ったのは僕たち一行だけだろうし、僕たちより後に登った人は確実にいないはずで。
そして今日、僕たちはロープウェイさんのご協力で始発ロープウェイよりも早い時間にロープウェイを動かしてもらい、一番に山に入った。
誰かが作った筈なのに、誰が作ったとも言い難い不思議なかまくら。
こんな奇跡あります?
山の精霊がこっそり作っておいてくれたのかな?と感じてしまいました。
奇跡は止まることを知らない。
山頂付近では暴風が吹くところと風が弱まるところがあり
その場所で、僕が聞きたかった
無音の音。
を聞くことができた。
こんな高い山の頂で、ふと、すべての音が消えた。
『自然の中で、無音の音に包まれると
まるで自然と一つになったかのように感じられる』
と本編の中にもあるんですが、本当にそう感じられました。
自分で脚本書いておきながら、事後に体験する不思議。
そして、ずっと見たかった
ダイヤモンドダストもサンピラーも
旭岳は僕にプレゼントしてくれた。
山を降りる頃には、燃えるような空が、フェードの低い景色を照らしていた。
威風堂々。
どうだ。
と言わんばかりに、旭岳は僕にその魅力を見せつけてくれました。
僕にとって人生初の登山。
それが旭岳で良かった。
奇跡のてんこ盛りだった。
人生を賭けた撮影。
と大袈裟に考えながら
凍傷になることくらいは覚悟でのぞんだ今日の撮影。
帰りのロープウェイに乗ると、相方はすぐに眠りに落ちていました。
やり切った。
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