日記。

私には上下ともに八重歯があり笑うとまるで獣のように猛々しい狩りをする女のような顔になる。人間の男を裂いて食うような。しかしこれは大人になったら治すつもりでいた。幼い頃に歯列矯正をすすめられたが、同級生が矯正器具を飲み込み教室の片隅で血を吐いている姿が忘れられず断った。大人になったらその恐怖も和らぐだろうと思っていたし、実際和らいだ。しかし思うところがあり、まだ矯正をしていない。
それはまず第一に日本ではかわいらしいと言われ許されていますが海外ではドラキュラと言われ忌み嫌われていますよ!矯正していないと貧乏で教育の行き届いていなかった家庭出身だと思われますよ!さぁ矯正しましょう!に対して勝手に許したり嫌ったりしていろや外野が!ワキ毛などの体毛は自由を謳うくせに歯だけはおもんない固定観念貫き通すんかい!歯科医の糞どもは保険適用外を狙って自己肯定感の低いやつに金出させる目星つけるの上手いな!などという考えがふつふつとわいてきてしまうからだ。磨きづらいから虫歯になりやすいとか、そういうまともな理屈はスッと受け入れられるが海外の常識を考慮したり他人の気持ちを慮って己の健康な永久歯を抜くのは本当に馬鹿馬鹿しい。私は新庄のような便器色の人工的な歯も、矯正された綺麗な歯並びの人も美しいと思うし、反対に夏目漱石の妻の如く歯並びが悪い人も美しいと思う。これはもうただの好みの問題だが。
そして第二に、産みの親の一言である。彼女は幼い頃八重歯に憧れていて八重歯の同級生にどうやったら八重歯になるのか訊ねていたそうだ。そんな価値観だから私の八重歯をかわいいからそのままでいいと言った。正直私は世界の人口全員の意見より産みの親一人の意見の方が心に響くし、生きていく上での大事な武装になり得る。世界の常識を重んじる方が賢く生きられるだろう。風当たりも強くないだろう。でも私は世界を捨てたい。
第三に、痛いのは嫌だ。元気に飯を食いたい。終わり。

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