12/9 日記「料理人刈屋とAV用語」


数日前、ケーブルテレビを見ていると料理対決番組が生放送されていた。

全国各地から集まった超一流レストランの料理人たちがエントリーしている。

審査員も豪華たる面々らしい。

料理人達はみんな長い帽子をかぶって、これでもかというくらいフライパンを振っていた。

「とにかくすごい!すごい!すごいぞ〜!」

MCのとにかくすごい権田原はこのセリフを何度言ったかわからない。

事件が起きたのは第3試合の最中だった。

第3試合青コーナー、オーガニック料理専門店店主の刈屋春一の調理工程をリポートしていた時、

「オーガニック専門店ということでやはり素材にはこだわっているんでしょうか?」
「もちろんだに」
「おおー!とにかくすごいですね〜!」
「無農薬野菜のみを使ってお肉も使わないんだに」
「とにすご!」
「刈屋の手にかかればこの玉ねぎがお肉の味になるだに」
「とす!、、ところで、あの、この横に置いてある食材は初めて拝見したんですけど、なんて言うだにか?」

刈屋春一は少し黙って勢い良く包丁の側面で無農薬ニンニクを押し潰した。

少しの沈黙が流れた。

「と、失礼しました、ではこの食材はどのような味がするんですか?」
「っちな味…」
「はい?」
「っちな味!」
「…?」
「えっちな味だに!」
「えっちな味!?」
「刈屋はずっとそう言ってるだに」

「だに」と一人称「刈屋」がこんなにもどうでも良くなるなんて数秒前の自分は想像できただろうか。

「えっちな味」とは女の子がフェラチオをした後「どんな味?」という男の1番いらない質問に対する100点満点の解答だ。
「美味しい」は嘘すぎるし「苦ーい」的な答えは当たり前すぎる。「えっちな味」は女の子が生み出した文句のつけようがない唯一無二の正解だ。

その「えっちな味」が「えっちな味」として存在していたのだ。

動揺を隠しきれない。鼓動が速くなる。

もっと知りたい。
名前すらも知らない食材。

テレビの音量を3上げる。

MCのとにかくすごい権田原も「えっちな味」に面食らった様子で、
その後は唯一の武器の「とにかくすごい」を使いこなせていなかった。

あっという間に料理が完成。
審査員の女性が刈屋の料理を口に運ぶ。

「んんーえっちな味がします〜」

その瞬間放送は終了した。

真相は闇の中だ。

調べる方法もない。

「えっちな味」は既存から生まれたものなのか?

いや、僕は女の子の相手に喜んでもらいたいという健気な気持ちから生まれたものだと、

そう信じたい。

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