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【ショートショート】#94 シンデレラ

失敗した。

たった一回ダンスを踊っただけでなのに
勢いで結婚してしまった。
王子のことなんてよく知らないのに。


一緒に生活してみると知らなかった部分が出てくる。
脱いだ服をソファーの上に置きっぱなしにしたり
いきなり後輩を城に連れてきたり、付き合いだと言って
朝までダンスパーティーから帰ってこない時も多い。


そもそも王子って何をしている仕事なのだろう。
そういう日々の積み重ねで魔法から覚めてしまった。


結婚すればかつての辛い毎日から
抜け出せると思っていた。
結婚したから幸せなのではなく
幸せだから結婚するのだ。
手段が目的になってしまっていた。


沈んだ気持ちのまま隣町まで買い物に出かけた。
するとその街の王子だという男性に声をかけられた。


正直惹かれる部分があったが、私は既婚者だ。
…。食事するだけならいいか。


王子の馬車に乗ってすごく高そうなお店に向かい
夜遅くまで食事をした。
もうすぐ日が変わってしまいそうだ。
私たちはそろそろ帰ることにした。


馬車に乗った王子を見送りながら色々なことを考えた。
すごく紳士的で良い人だったな…。いやダメだ。
一回会っただけで惑わされてはいけない。でも…。


私もそろそろ帰らなければと振り返ると
王子のものらしきハンカチが落ちていた。
忘れ物だろうか、でももう近くにはいないか…
でも、念のため王子が帰って行った方へ
向かってみることにした。


角を曲がると同時に0時を告げる鐘が鳴る。
そこにはみすぼらしい格好でカボチャを持ちながら
あの魔法使いと話す、さっきまで王子だった男がいた。

物書きになりたいという夢を叶えます