★怪談 人魚の恋 【#流れ星】#シロクマ文芸部
残虐です
流れ星が夜の天空を、ゆっくりと右から左に横切る。海面から顔を出して澪は、それを目で追う。海に浮かんでいた男の上半身は、ゆっくりと沈みはじめた。男のどろりとした目は、もう何も見てない。
流れ星は、次から次へと暗い空に白い軌跡を残した。
xxx
漁師の伊之助が澪を助けたのは、容姿に惚れたからだ。
「網にからまったか」
「タスケテクダサイ」
人に捕まれば殺されると教えられた。人魚の肉は不老不死の薬として売られるので当然だ。他の魚を売るのと変わらない。漁師の伊之助は、違ったようで網を切り逃がしてくれた。
「ここはよく漁をする場所だ、もっと遠くで泳げ」
「アリガト」
網が貴重なのは人魚の澪にも判る。親切な伊之助を好きになり、それからは洋上で顔をだして漁師の端正な顔を見て楽しんだ。伊之助も、気がついているが見ないふりをしている。人魚と人は、暮らせない。そっと見るだけで良かった。
曇天の雨がふりそうな風の強い日に、漁師の伊之助が無理に船を出して人魚を助けた場所で待っている。いつものように顔を半分だけ出して見ていると、漁師は手招きした。
「ドウシタノ」
「実は母が死んだ」
「カワイソウネ……」
「もう村に未練もない、老いた母親を養っていたが、貧乏で嫁ももらえない」
「……」
「俺と一緒に暮らせないか」
相思相愛なのは、お互いが判っていた。伊之助は、人外の恋に癒やしを求めた。
「イッショニナル」
「うん……」
一緒になる、お互いが意味を取り違えていた。人魚が海面から腕を差し出すと、伊之助は、服を脱いで海に入る。抱擁するとお互いの温かい肌が重なる。
「アタタカイ」
「暖かいよ」
澪の胸から下腹まで縦に大きく裂けた、まるで巨大な口だ。中は暗く底が見えない。伊之助の腰を食いちぎると血の流れ多すぎて、彼はすぐに絶命した。
澪は、伊之助の精を体に取り込むと満足そうにほほえむ。真っ赤な血で染まった海に、男の両足が沈んでいく。深海にいるアンコウはメスの体にオスが食い込んで、そのまま癒着するという。文字通りに一体化したアンコウは、オスの体から精をもらい子供を産む。
人魚がなぜ女だけなのか……それは人の男を喰らうからだ。喰らって子をなすための糧にする。
「アリガトウネ」
食いちぎられた上半身もゆっくりと深い海に沈んでいく。空に流れる星を見ながら、澪は、子をどこに産もうか考えていた。しばらくすると澪は、とぷんっと海に頭を沈めると、伊之助の体を食べようと探し始めた。ゆらゆらと沈む人魚は、流れる星のように……
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?