無題2

 高1の文化祭で『シャーロック・ホームズ』をやった。僕はホームズ役だった。

 終始シリアスな雰囲気漂うこの作品に、僕らはアクセントとしてボケを入れてみようとした。それもホームズとワトソンが事件の調査結果を話し合っているシーンでだ。2人は椅子に座っていて、ワトソンが途中で怒るので、その調子で地面を踏んでみんなで一瞬だけ合わせて飛ぶことにした。『ダチョウ倶楽部』のあのネタだ。
 当時の僕はボケに対しての敬意を露も持っていなかったので楽勝だろうとたかを括っていた。
 しかし現実はそううまくいかない。ただ1回合わせるだけにしても、飛ぶタイミングを合わせなきゃ行けないし、表情を崩して笑ってしまっても行けないし、なにより本筋とは無関係だから前のセリフと後のセリフの繋がりを邪魔してはいけない。
 5秒足らずのシーンなのに、結局、その日の練習は5.6時間をダチョウ倶楽部に費やしてやっと見せられる形にできた。
 ボケだって、見せたいポイントに集中してもらえるよう工夫するには、とんでもない労力が要ることを身をもって教えられた。ど素人高校生が5秒足らずのシーンでこれだけかけるのだから、プロの芸人さんはもっと心血注いで僕らに笑いを届けてくれているのだと感じた。今まで舐めててほんとにすみませんでした。

 その翌年、高2の文化祭のことだ。

 『下荒井兄弟のスプリング・ハズ・カム』という劇をやった。5人の男兄弟が実家で繰り広げる破茶滅茶コメディーなのだが、その中でヤクザになった次男が帰ってきて三男がそれを説明するシーンがあった。ここでも僕らは、ひと笑い起こそうと画策した。
 またまた誰かのパクリだが、『オリエンタルラジオ』の『武勇伝』ネタを拝借することにした。ここに行き着くまでも、候補は15個くらい上がって、全部試してみてやっとこれに決まったのだ。

 「10年ぶりに実家帰る!すごい見た目が変わってこいつ誰?」

 いま思い返すと全く本家をリスペクトできていないお粗末なネタだったけれど、練習ではすごく手応えを感じた。
 来る本番、全公演で武勇伝をかました。長い時間のため、クスクスと笑いが起きる回、ゲラゲラ起こる回、微妙な変化があった。その手応えに合わせて、こちらも演技をオーバーにしたりするのが楽しかった。ネタ部分は20秒ほどあるため、前年のダチョウ倶楽部よりも創意工夫できるポイントが多かった。
 16.7歳の小僧でも、お客さんが笑ってくれたかどうかは、笑い声の大きさと表情で分かる。感動やショックよりもダイレクトに伝わる気がしていた。そのうえ、笑い声で愛想笑いか心の底からの笑いかも少しだけ分かってくる。だから笑いは作る側にとっては嬉しくもあり残酷でもある。それゆえに、屈託なく笑える瞬間を提供できた時にはこの上ない達成感と快感がやって来る。そして厄介(?)なもので、ひとたび味を占めると、また味わいたくなってしまう。

 そんな劇薬に、僕は手を染めてしまった。

 この続きはまた明日。

 じゃ、また。

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