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POOLのちょっとだけウンチク 第3回 ビョーク『Hyperballad』 selected by Maika Loubté

WOWOW MUSICがお送りする、音楽好きのためのコミュニティ"//POOL"
その企画・構成を担当する吉田雄生が、いつものあの曲の響きがちょっと変わる(かもしれない)
とっておきのウンチクを書き綴ります。

今回のアーティストはMAZDAの車のCMでもお馴染みのマイカ・ルブテさん。マイカさんはお宝のアナログを数枚持ってきてくれた。中でも“とっておきのアナログ”は、マイカさんらしい選曲、ビョークの『Hyperballad』だった。

『Hyperballad』は1995年のビョーク3枚目のスタジオアルバム『Post』に収録されているが、この曲について一言で表現するのはとても難しい。アナログに針を落とすとビョークの幻想的な声が耳元で静かに話しかけるように聴こえてくる。

その声は、次第に強い意志を持ってきて、激しくなり心に強烈に響いてくる。リスナーは知らぬ間に、ビョークの世界に引き込まれるのだ。デジタルなのにアナログを感じるサウンド。マイカさんの言葉を借りれば、「トラウマになるほど衝撃を受け、中毒になった曲」である。

ビョークといえば

ビョークといえば、北極圏に近い人口わずか25万人という小さな島国アイスランドの出身。彼女の音楽が時に壮大な自然を想起させるのはアイスランドという環境と関係があるのかもしれない。

このアルバムのジャケットがまた魅力的だ。まるで絵画のようなビョークの写真。日本人のような黒髪と黒い瞳。その表情は何かを訴えかけてくるようだ。

CDジャケットの時は気が付かなかったが、レコードジャケットで気づいたことがある。ジャケットの左下になぜか大漁旗があって「招福丸」という日本語が見える。レコードジャケットならではの発見である。

この大漁旗にどんな意味が込められているか不明だが、ビョークは日本文化に興味を持っていて、三島由紀夫など日本文学が好きだったという。ビョークと日本人の間には不思議な共通点があるのかもしれない。

ビョークの周りに集まった多くの才能

ビョークの周りには常に多くの才能が集まっていた。彼らは、サウンドだけでなく、アートワークやビデオクリップでもビョーク特有の世界観を表現する。『Hyperballad』のビデオクリップもまさにビョークの世界観を視覚化しているといって言いだろう。

監督はミッシェル・ゴンドリー。ゴンドリーは1993年、ビョークの実質的デビューアルバム『Debut』の1曲目『Human Behaviour』からビョークの多くの映像作品を手掛けている。

フランス人のゴンドリーは当時、世界的には無名のバンドマンであり、映像作家だったが、ビョークの『Human Behaviour』のMVを手掛けて一気に注目された。

以来、ビョークの作品はもちろん、ストーンズ、ケミカル・ブラザーズ、レディオ・ヘッド、ベックら多くのアーティストのビデオクリップを手掛けたばかりでなく、映画界にも進出した。記憶除去手術を受けた男女の物語、『エターナル・サンシャイン』ではアカデミー脚本賞を獲得した。

他にも『マルコビッチの穴』を監督したスパーク・ジョーンズが『It‘sOh So Quiet』を撮っているし、MVの奇才クリス・カミンガムが『All Is Full Of Love』を手掛けている。

2000年にビョークは映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』になんと女優として主役を張った。監督のラース・フォン・トリアーはデンマーク出身。過激な表現でしばしば物議をかもした監督である。

そのファン・トリアーの強烈に熱望され、ビョークは不遇な主人公セルマを演じきった。ファン・トリアーとの関係は必ずしも良くなかったようだが、映画の評価は高く、カンヌ映画祭でパルムドールを受賞した。

このように、ビョークの周りを調べていくと数珠つなぎのようにいろいろな才能の人脈を知ることができる。まるで磁力でも持っているかのようにビョークの周りには才能が集まってくるから不思議だ。

ビョークの仕事に携わった人たちの作品を観ていくのも楽しみ方の一つではないかと思う。今の日本で言えば、例えばそう、米津玄師、藤井風の周りにいる才能をチェックしてみると意外な発見があるかもしれない。

(文・吉田雄生・WOWOW MUSIC//POOL企画・構成担当)

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