POOLのちょっとだけウンチク 第8回 Daughter『Youth』 selected by アイナ・ジ・エンド
今回のアーティストはアイナ・ジ・エンドさん。アイナさんが持ってきてくれた“とっておきのアナログ”はDaughterの『Youth』。
Daughterは2013年のフジロックで来日している3ピースバンド。元々ロンドンのシンガーソングライター、エレナ・トンラのソロユニットとして始まった。
アイナさんはこのアルバムを「ジャケ買い」したそうだ。「ジャケ買い」懐かしい響きだ。アルバムの音を聴かずして、レコードのジャケットだけを見てレコードを買うことを、「ジャケ買い」という。
もちろん僕にも経験がある。レコード屋でジャケットに一目ぼれしたことは数知れない。家に帰って、封を開け、ターン・テーブルにレコードをセットして針を落とす。どんな音楽なのか、想像しながら。
イメージぴったりのこともあれば、あれれ、ということもある。イメージが一致したときは自分にとって大切な一枚となる。70年代のレコードはジャケットを見ただけで、音が聞こえてくる気がする。それだけ音楽とアートワークが一体となっていた。
ジャケットアート集団、ヒプノシス
最も有名なジャケットのアート集団といえばピンク・フロイドを手掛けたヒプノシスだろう。(もちろんヒプノシス・マイクとは関係ない)ヒプノシスは60年代後半にロンドンで活動を始めたデザイン・チームである。
たまたまピンク・フロイドのシド・バレットと友人だったことから、ピンク・フロイド2作目のアルバム『神秘』からジャケット・デザインを手掛けるようになった。
最もインパクトをもたらしたのは『原子心母』の牛のデザインだろう。メンバーから出されたコンセプトは、「サイケデリックでもなく、ピンク・フロイド風でもなく、それでいて奇抜なもの」というものであった。
ヒプノシスのストーム・ソ-ガソンはそれを聞いて頭を抱えてしまう。悩んだ挙句、友人の写真家に相談すると、「牛ではどうか」と言う。ピンときたソーガソンはロンドンの北の田舎町へ行き、広大な農場でホルスタイン牛を撮影した。ジャケットにはただ牛が写っているだけ。
しかし、どこか不穏な気配が漂っていて、妙にいろいろ想像させる。バンド名もタイトルもなし。レコード会社は難色を示すが、このままレコードは発売され、全英1位を獲得し、最もインパクトのあるジャケットとして有名になった。
その後ヒプノシスはT.Rex、レッド・ツェッペリン、ジェネシス、ウィングスと名だたるアーティストのジャケットを担当した。1983年には松任谷由実の『VOYAGER』も手掛けたこともある。高層ビル群の中に水が流れていて、そこをユーミンが泳いでいるというデザイン。いかにもヒプノシスらしい。
アートとしてのアルバムジャケット
ポップアートの奇才アンディ・ウォーホルもいくつかのアルバムジャケットを手掛けた。ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコのバナナのジャケットはあまりにも有名だ。
ローリング・ストーンズの『スティッキー・フィンガーズ』ではジーンズの写真に本物のジッパーが付いている。さぞかし、制作工程は大変だっただろう。
アルバム・アートワークで世界的に有名な日本人と言えば、長岡秀星である。アース・ウィンド&ファイアのモーリス・ホワイトは、ある日まだ無名の長岡の版画にほれ込み、EW&Fのジャケットを依頼する。結果的に、それがEW&Fの象徴のようになり、長岡秀星も世界的デザイナーとして認められるようになったのだ。
レコードがCDになり、サブスクになり、アートワークの価値はどんどん下がってしまった。しかし、ここにきて若い人たちの間でレコード・ブームが広がっている。
音の良さだけでなく、アートとして楽しみレコードの良さに気がついた新しい世代によって、アルバムのジャケットがアートだった時代がよみがえるかもしれない。
(文・吉田雄生・WOWOW MUSIC//POOL企画・構成担当)
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