論文紹介#3”Pharmacologic fibroblast reprogramming into photoreceptors restores vision”

こんにちは。飛び級で大学院に進学し、iPS細胞を使って研究を行っている土屋諒真です!
勉強の一環として毎週1本ずつ論文の紹介をしています!

今週は失明した状態から視力が回復したマウスに関する論文の解説を行っていきます!

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僕自身も眼鏡、コンタクトを使っており、「目がよくなりたいな~」と常々思っているので、ぜひともこの分野には期待したいところです!!

論文はこちら
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2201-4#citeasMahato, B., Kaya, K.D., Fan, Y. et al. Pharmacologic fibroblast reprogramming into photoreceptors restores vision. Nature 581, 83–88 (2020). https://doi.org/10.1038/s41586-020-2201-4

あくまで僕の理解と解釈、見解ですので、間違いがあった際には教えて頂ければ幸いです。また、著作権には細心の注意を払って配慮をしておりますが、何か不備がありましたらご連絡をお願いいたします。

I. 要約

ほとんどの網膜疾患では、生物が光を刺激として受け取る場所である光受容体が喪失し、失明に繋がるうえに、視力を回復させるのに有効な治療は存在しないとされてきました。
本論文では5種類の分子をマウスに投与することで、繊維芽細胞(創傷治癒過程の中で重要な働き担い、皮膚の機能を保つ主要な細胞)から桿体視細胞様細胞(わずかな光でも感知でき、暗い所で主に働く視細胞)への分化を化学的に誘導できることが明らかになりました。そしてその光受容体様細胞(CiPCs)を桿体視細胞に変異のあるマウスの網膜に移植したところ、瞳孔反射と視覚の機能が部分的に回復していることを示しました。実際に、マウスが暗い場所を好む傾向があることに基づいた検査を行ったところ、回復が見られたマウスは暗い場所で過ごす時間が失明マウスモデルより長いという結果が得られたそうです。以上より、CiPCsが視力回復の治療として可能性を秘めていると期待されています。

画像2

II. 現状

加齢黄斑変性症や糖尿病網膜症、網膜色素変性症などの多くの網膜疾患は、最終的に光受容体の喪失を引き起こし、回復不可能な視力低下をもたらすとされています。胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使ったいわゆる幹細胞治療は網膜細胞自体を取り換えることで視力を回復させる選択肢の一つと期待されていますが、プロトコルが複雑で難しく時間やお金もかかることから課題もあると言われています(とはいえ、2014年の滲出型加齢黄斑変性症患者由来のiPS細胞から網膜色素上皮細胞を分化誘導し、自家移植をした実績や、2017年のiPS細胞ストックからつくられた網膜色素上皮細胞の他家移植などの実績はあります!)。
一方で、上記のようなプロトコルの複雑さや時間、お金のような課題をクリアできる直接リプログラムの手法では、すでに神経や心筋細胞の生成が実現されており、直接リプログラミングのメカニズムがさらに解明されれば、細胞の生成に大きなメリットがあると考えられています。

III. 結果

本論文の研究では、繊維芽細胞をCiPCに誘導することができる5つの分子を見つけ出しました。その5つの分子を用いて誘導されたCiPCを網膜変性マウスの網膜に移植することで、瞳孔反射と視力が回復することが実証されています。さらに、解析を行った結果、網膜のリプログラミングにおいて網膜系統に誘導するAXIN2-NF-κB-ASCL1 という経路が解明され、ミトコンドリアが細胞の運命を調整するシグナルハブであることも明らかにしました。

IV. 考察

実験では14匹のマウスのうち6匹で瞳孔反射の改善を示しましたが、瞳孔収縮と生細胞率の間にある強い相関性は改善を示した眼と示されなかった眼の原因の究明に役立つかもしれないと述べられています。
また、5つの分子を用いたCiPCへのリプログラミング誘導によってミトコンドリアの新しい機能を明らかにしたことから、ほかの細胞への誘導に応用することや、新たな知見を得ることができるかもしれません。

V. まとめ

たった5つの化合物だけで視細胞の一種であるCiPCを誘導し、実際に失明状態だったマウスを用いて視力の改善を確認できたという成果に驚きました。本研究のように経路を解明していくことで、類似している細胞・神経への誘導も可能になり、別の疾患への応用にもつなげられると思います。

冒頭でも述べましたが、僕自身眼鏡やコンタクトにお世話になっているので、ぜひとも医学の進歩によってどんな人でも視力を回復させることのできる日が来ることを切に願っています!!

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