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私が知る限り地球上でもっとも魅力的な女性の話


その人の名前は Sophie という。

「ソフィ」と私は呼んでいた。韓国籍の女性で、本当の戸籍上の名はまた別にある。
私たちは英語圏の国で出会い、英語名で呼び合った。だから今もソフィと呼んでいる。

タイトルにあるとおり彼女は、私がこれまで出会った人間のなかで、もっとも魅力的な女性だ。
私の魂を揺さぶった、数少ない人間のひとりだ。

彼女とは20代後半から30代に突入するまでの数年間、濃密な時間を共有した。
彼女に出会えたこと、彼女と時間を過ごせたことは、幸運以外のなにものでもない。


でも時は流れる。

彼女は生きている。この瞬間も変わっていくし、一秒一秒歳を取っていく。
私だってずいぶんいい歳になった。カドも取れてきた(つもりだ)。
大切な人ができ、家族を持ち、ある場所に根を下ろすようになった。彼女もいまはその過程のなかにある。
私たちの関係は変わっていくだろう。そして、きっと、じわじわと、疎遠になっていく。

昔のように、

「じゃ9月3日の午後、ヒースロー空港で待ち合わせしよう」

とはいかなくなる。お互いおばあちゃんになってお茶菓子でもつまみながら昔話をする日が来るだろう。

だから書き留めておきたいと思ったのだ。これ以上彼女の記憶が薄れてしまう前に。


彼女の魅力は、数値化することができない。こうして書いていても、言葉でそれを表現できるかどうかわからない。
彼女は美しい。でも彼女より美しい女性はこの地球上にごまんといるだろう。
彼女は強い。が、彼女より強い女性だって、上を見ればきりがない。
彼女は賢い。とはいえ知能検査をしてもFIQは平均域といったところだろう。

でも彼女といると、私はいつもたまらない気持ちになった。

『どうして?Mia(※私の英語名)、どうしてそう思う?』

彼女はいつもまっすぐ私を見つめて尋ねた。
(※彼女は私を「Mia」と呼んだ。私の当時の英語名だ。だからここでは私はMiaと名乗ることにする。)

誰にも見せずに大切に隠しておいた場所を、ソフィはいとも簡単に見つけてしまう。
自分は誰で、本当は何を大切にしていたのか。生きていく過程で何を失くしてしまったのか。
ソフィはそういうことを思い出させる才能のようなものを持った人だったのだ。

彼女の魅力は、関係性の中で初めて立ち現れてくるものであって、外から眺められるものではない。それに気づいた時にはもうどうしようもなく取り込まれている類の魅力だ。

そういう人を、私は他に知らない。

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