ホルス神殿3Dスキャンプロジェクト〜ワールドスキャンプロジェクトの挑戦
古代エジプト人の神々への信仰は、彼らの死生観や文化に深く根ざしており、多神教を基盤とするこの信仰体系は、社会秩序や死と再生のサイクルを説明するために多くの神々を祀っていました。なかでも、最も偉大な神々の一員とされるのがハヤブサの神「ホルス」です。
今回は私たちワールドスキャンプロジェクト(W.S.P)による調査内容と共に、エジプト神話の神秘性を今に伝える、ホルス神殿についてお話しします。
ホルス神信仰の中心地
エドフのホルス神殿は、古代エジプト文明が残した宗教的建築物の中でも、保存状態が極めて良好であり、神々への信仰心を深く感じられる神秘的な場所として知られています。紀元前237年から約180年に渡ってナイル川西岸のエドフに建造され、信仰の中心地として重要な役割を果たしました。
神殿の入り口となる高さ40mの巨大な第1塔門は、二つの大きな塔で構成されており、その狭間の広い開口部から神殿内部へと入る構造になっています。また、第1塔門の壁面には、ファラオが敵を鷲掴みにして打ち倒そうとしている姿や、敵をホルス神に捧げる姿が描かれました。これらのレリーフは、ファラオの権力と神々への献身を象徴していると同時に、この神殿がホルス神に捧げられたものであることを物語っているのです。
ホルス神とハトホル神
第1塔門を抜けると、32本の柱が並ぶ開放的な中庭に辿り着きます。中庭にも同様にホルス神に関連するレリーフが残されましたが、特徴的なのは、デンデラにあるハトホル神殿との共同祭の記録です。
ハトホルは愛と美の女神とされており、エジプト神話においては、王権の象徴であるホルス神の妻でもあります。彼らの御神体は通常、デンデラのハトホル神殿とエドフのホルス神殿に分かれて置かれていますが、年に一度、船でハトホルの御神体をホルス神殿へ運ぶという大規模な祭事が行われていました。年に1度、2週間だけの夫婦の再会は、古代エジプト人にとっても、ロマンチックで感動的なものであったに違いありません。
また、神殿の各所に見られるホルス神の彫像は、上エジプトと下エジプトの冠を被っており、全エジプトを統べる王権の象徴であることを示しています。さらに、冠の部分は付け外しが出来るように造られており、儀式の際には冠をより煌びやかな装飾に変えていたのではないかと推定されています。
現代に通じる古代エジプトの地鎮祭
第2列柱室には、神殿の建造に取り掛かる際に行われた、地鎮祭についての貴重な史料が数多く残されました。特に、ファラオが測量の神様であるセシェトと共に神殿の配置を決めている様子は興味深く、測量のための縄が南のオリオン座と北の大熊座に焦点を合わせるように張られていることから、古代エジプト人の高い測量技術が見て取れるでしょう。
他にも、ファラオが神殿の基底部に溝を掘る「クワ入れの儀式」や、ホルス神に捧げる日干しレンガを作る様子が残されました。日干しレンガは地鎮祭で使用される鎮め物のような役割を持つと考えられており、日干しレンガを地中に埋め、儀式を行ったのち、上部構造の建造を始めるという独自の建築様式が反映されたレリーフとなっています。
壮絶な王位争奪戦
巨大な壁一面に刻まれたのは、古代エジプト神話の中でも特に有名な「ホルスとセトの戦い」で、この物語は善と悪、秩序と混沌の永遠の戦いを象徴しています。
オシリス神とイシス女神の息子であるホルス神は、元来、神々の中で正統な王位後継者と見なされていました。しかし、オシリス神の弟であるセト神がオシリス神を殺害し、その王位を不正に奪おうとしたことで、ホルス神とセト神の王位を巡る戦いが始まったのです。
彼らの対立は、仲裁者や支持者として他の神々が介入することで大規模なものとなり、目を損なったり、体の一部を失うなど、両者ともに重傷を負う壮絶な戦いも繰り広げられました。最終的にはヘリオポリス九柱神による法廷で、ホルス神が正当な王位の継承者と認められ、エジプトの王として即位することで幕を閉じます。そして、この戦いを基盤として、歴代のファラオたちは自身をホルスの化身であると語り、エジプトを統治する神聖な権利を持つという考えを強化したのです。
ホルス神殿の至聖所
セト神に打ち勝ち、王権を手にした偉大なホルス神の御神体は、最奥の至聖所に置かれました。建造当時の至聖所には大きな扉があり、立ち入りは禁じられていましたが、ハトホル神殿との共同祭が行われる際には、ホルス神の御神体が神輿に乗せられデンデラへと運ばれました。
御神体の背後には、ファラオであるネクタネボ2世よって作られた、灰色花崗岩の「ナオス」と呼ばれる屋根付きの祠が設置されました。ホルス神殿が作られたのはプトレマイオス朝時代であり、ギリシアとエジプトが融合したような装飾も見受けられましたが、ナオスだけはローカルなファラオであるネクタネボ2世によって造られたため、神殿内でもまた違う存在感を放っています。
世界を、未来を、好奇心を、身近に
今日、ホルス神殿は世界中から訪れる観光客や学者たちにとって、エジプト神話の神聖性を伝える重要な窓口となっています。その壮大な建築と精緻なレリーフにより、時間を超えた旅を体験し、彼らの信仰心と建築技術が融合する瞬間に立ち会うことが出来るのです。
そして、ホルス神殿を風化させないためにも、ワールドスキャンプロジェクトは3Dスキャンを行い、遺跡の姿を保存しています。3Dスキャンのデータは遺跡の修復作業に役立つことはもちろん、その姿をVRやメタバースで再現することによって、全世界の人々がエジプトの遺跡を仮想的に訪れられるようになるでしょう。ご興味があれば、ワールドスキャンプロジェクトの活動をフォローいただき、ぜひ応援をお願いいたします。
ホルス神殿についてはこちらの動画もご覧ください。
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