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金は天下に回すべし?

「毎月50万円もらって生きがいのない生活、30万円だけど仕事が楽しい生活、どっちがいいか」阪急電鉄に掲示された広告がネット上で炎上した。この炎上の原因は近年頻発している「失言」ではなく、恐ろしいまでの感覚のズレによるものだろう。厚労省の調査によると、平均給与が30万円を超えるのは男性だと30代後半になってから。女性の場合は、平均が30万円を超えることはない。つまり制作者の考える「30万円」の価値感が現実社会の価値観とは明らかにズレているのだ。

 ほぼ同じタイミングで「老後のために2000万円の貯蓄を」という大臣の発言が日本中を激震させた。政府の調査によれば、金融資産がゼロの割合が、20歳代で32.2%、30歳代で17.5%、40歳代で22.6%、50歳代で17.4%、60歳代で22%もいるのだ。換言すれば私のような30代の5人に1人は金融資産がゼロという状態だ。
 
 給与が低い状況で2000万円もの貯蓄をするという無理難題に絶望を味わっている人も少なくないだろう。この報道を受けて将来の不安から低い収入の中から何とか貯金をする人が増加していくのではないだろうか?

 ところが、イスラムでは貯蓄には非常に否定的である。預言者ムハンマドが「あなたにとって本当の財産とは使ってしまったものだけだ。」と述べているように金は積極的に使ってこそ意味があるものであるという考えだ。
 実際に、預言者ムハンマドは「(ウフドという山を指して)私にあれ程の黄金があって、三ディーナール程を残し、その他は全部(貧しい人々のために)使ってしまえたら、こんな喜ばしいことはないのだが」と述べており、富は自分が貯め込むのではなく積極的に使うことで、社会での富の分配を奨励している。
 お金は使ってこそ意味がある。今ある金は「たまたま」自分のもとにあるだけ。富を蓄えるということは誰かが富を得る機会を奪うことになる。それがイスラムの金に対する考え方だ。
 実際に、現在の日本の貧困層を生み出している主な原因こそが貯蓄だと私は思っている。現在、日本国内で流通しているのは100兆円、しかし、実際に市場に流通しているのは半分の50兆円にすぎない。残りの50兆円がタンス貯金なのだ。つまり、将来への不安から貯金をすることで別の貧困を生み出すという悪循環に陥っているのが今の日本だ。

 かつて江戸時代には日本人も「宵越しの金は持たない」ことで、経済を循環させ、相互扶助のシステムが成り立っていた。
今、日本に必要なのは老後のための貯金ではなく、積極的に金を使い富を再分配する姿勢ではないだろうか?

(Text ナセル)

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