ことばの発達を支える基盤 2)運動機能の発達

ことばの発達を支える基盤にはさまざまなものがありますが、今回はその中から「運動機能の発達」についてお話します。

私達はどのようにしてことばを話しているのでしょうか。それは、呼吸や声帯の運動により声を出すことから始まります。吐く息により声帯をブルブルと震わせて音を作り出すのです。しかし、この段階ではまだブザーのような音で、「あ」や「い」などのような日本語の音ではありません。一体このブザーのような音は、どのようにして日本語の音になるのでしょう。

その際に重要な働きをするのが、顎や口唇、舌といった発語にかかわる器官です。顎の開き具合、舌および口唇の形や素早い動きなどによって、ブザーのような音でしかない声を様々な日本語の音に変化させているのです。また、それと同時に、自分が正確に目標の音を出せているのかを確認することで、発声や発語の運動をコントロールしています。そこには聴力だけでなく様々な音を聞き分ける力、短時間の記憶力、注意を分ける力などもかかわっています。

これらは生まれつき持っている能力ではなく、数年かけて獲得していきます。生後すぐの赤ちゃんは、舌や口唇、顎が一緒に動きますが、おっぱいやミルクを繰り返し飲むことにより次第に別々に動かせるようになります。また、生後すぐは泣き声しか聞かれませんが、次第に喉や口のコントロールが発達し、生後2ヶ月くらいになると「あー」や「うー」のようなクーイングが出現します。

その後、自由に息を吐いたり、声を出したりすることができるようになり、舌や口唇、顎もより自由に細かく動かせるようになることで、「ぱ・ぱ・ぱ」のような喃語の出現につながり、やがて初語(初めての意味のあることば)がでるようになるのです。

そして、驚くことに、このような発声発語の発達には、声帯や舌、口唇、顎などの発声発語に直接かかわる器官の運動だけでなく、手足の身体運動もかかわっているといわれています。ことばを話せるようになるには、全身の運動の発達が重要なのですね。

ことばがゆっくりだと、心配するあまり、大人のことばを真似させたりなんとか言わせようとしたりしてしまいがちですが、シャボン玉や笛で遊びながら自在に呼吸をコントロールする練習をすることや、一緒に歌を歌ったり手遊び歌を通して歌と動きを連動させたりして発声や発音の練習につなげるなど、お子さまと楽しみながら取り組めるとよいですね。

参考文献
石田宏代,大石啓子編集:言語聴覚士のための言語発達障害学.医歯薬出版,2012.
中川信子:子どものこころとことばの育ちー親子を共に支援するために.小児耳,34(3),234-238,2013.
正高信男:身体運動は言語獲得にどのような役割を果たすか.日本ロボット学会誌,Vol.14 No.4, pp.501~504,1996.
John E. Bernthal,Nicholas W. Bankson 編著 船山美奈子,岡崎恵子 監訳:構音と音韻の障害 音韻発達から評価・訓練まで,協同医書出版,2001.


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