よのなかとつながる学びを、子どもたちと。ワーコラマガジン〜Seeders(種をまく人々)〜#2越智大貴さん
「ワークライフ・コラボ」は、ワークライフバランスで愛媛を元気にしようという想いから、2009年に設立したNPO法人です。私たちの役割は、誰もが自分らしい働き方・生き方ができるよう「人と企業と地域をつなぐこと」。そのために、自らがシーダー(種をまく人)となって、さまざまな方々と一緒に活動を続けています。
そんなシーダーを紹介する「ワーコラマガジン〜Seeders(種をまく人々)〜」。2本目の記事は、「よのなかの仕組みを楽しく学び合う、みんなでつくる」をモットーに活動する、NPO法人 NEXT CONEXION代表理事の越智大貴さん。ワーコラの理事と、まちのがっこうプラスの講師も務める越智さんに、これまでの歩みと想いを聞きました。
「ナナメの関係」から、学び合う
ーーNEXT CONEXIONとは?
子どもや若者とよのなかをつなぎ、市民意識・主権者意識を育む活動を行う教育NPOです。よのなかの仕組みを楽しく学び合うきっかけをつくることで、「よのなかのことを“ジブンゴト”として捉え、考え、行動できる子どもたちを育てたい」という思いで活動しています。
メインの活動は、年に数回、小学生を対象に開催している「こどもタウン」です。スポンサー企業が職業体験を提供する「キッザニア」のように、会場内にできた仮想の街で働けたり、買い物ができたりするイベントで、中高生のボランティアスタッフが準備しています。キッザニアに比べると、職業体験自体はリアリティーに欠けてしまいます。でも、僕たちが重きを置いているのはそこじゃないんです。小学生が自分でやりたい仕事を選んで、体験して、税金を納めて、選挙に行く。それらを通じて、社会参加に興味を持ち、社会の仕組みを学び合うことを重視しています。
中高生から教わる「ナナメの関係」にもこだわっています。大人から教わる「タテの関係」だと、子どもたちは「大人の言うことを聞かないといけない」と思い、意見しにくくなってしまう。参加する小学生も運営する中高生も、一緒に学んでいく場づくりを大事にしています。
例えば、経済を回す重要なハブを担っている銀行を、金庫の感覚でしか認識していない中高生もいます。そんな中高生が、こどもタウンのために仕事を調べ、街を再現することで、仕事の仕組みや社会の中での意義などを理解していく。小学生に伝えることで学びを深めていく。運営しながら生まれる「これでいいの?」「こうしないといけないんじゃない?」という疑問が、中高生の学びにもつながると考えています。
ーーほかにはどういった活動を?
こどもタウンを軸に、「よのなかすくーる」「体験学習のサポート」などを行っています。
「よのなかすくーる」は、小学生から大学生までが自由に参加して、学び合うスクールです。少年法や生きる権利と死ぬ権利はどこまで認められるかなど、権利に関する道徳的なテーマを扱います。
よのなかに「答え」はありません。答えがないからこそ、さまざまな人と交流し、情報を集め、吟味しながら、みんなで答えを探り合う。そうやって「批判的思考力」を養うことも大事だと考えています。出張講座「どこでもよのなかすくーる」として、全国の学校や行政に行くこともあります。
「体験学習のサポート」では、中高生の社会貢献活動を支援しています。最近で言うと、女子高生4人組が取り組む「四国のルールメイキング議会」があります。ルールメイキングとは、学校の校則・ルールの対話的な見直しを通じて、みんなが主体的に関われる学校づくりをすることで、今、全国的に広がりを見せているんです。子どもたちの話によれば、学校は先生が絶対で、校則を自分たちで決められないし、「決められたことを守れ」「守ってないのに権利を主張するな」と言われることもあるようです。でも、18歳未満の子どもの人権を保障する「子どもの権利条約」の中では、「子どもたちの最善の利益を図らなければいけない」とあり、そのための社会参加が権利として認められています。つまり、権利が無条件で保証されているんです。
子どもの権利の一つである「参加する権利」に関する意識の低さは、社会全体の課題です。NEXT CONEXIONでは、子どもたちの社会に対する意識や関心に寄り添い、それぞれに合った方法で社会貢献活動をサポートしています。
「なんで勉強しなきゃいけないの」に答えたい
ーーNEXT CONEXIONを始めた経緯は?
僕は中学受験を経て、愛光中学校に進学しました。きっかけは、慕っていた姉の同級生でした。その人と同じ塾に通いたくて入ったのが、愛光受験のための塾だったんです。そんな理由から愛光に入ったので、医学部や東大を目指して本気で勉強している周りの子たちを横目に、「なんで僕はここで勉強しているんだろう」と疑問を持ち始めました。親が医者や弁護士の子も多かったので、自分だけが浮いている劣等感もあって、次第に勉強しなくなりました。
愛媛大学に行ってからも、最初はあまり授業に出席せず、ボランティアサークルに打ち込んでいました。でも、成人式の前ぐらいから「自分を変えなきゃ」と思い始めて。ちょうどそのころ、外部顧問をしていた愛光ソフト部の生徒に社会を教えることになりました。そのときの勉強が、すごく楽しかったんです。大学に行くのも楽しくなり、自分が大きく変わっていくのを感じました。
ーーなぜ楽しかったんでしょう?
試験以外で勉強を評価されたことが初めてで、新鮮だったからかもしれません。「分かりやすい」と言われると嬉しくて、「分かりません」と言われると彼らの期待に応えたくて必死に勉強しました。やらされてではなく、自分がやりたくて勉強したその経験が、自分が変わった原点かなと、今振り返って思います。
さらに意識が変わったのは、大学4年生で愛光に教育実習に行ったとき。高1生に「なんで勉強しなきゃいけないの」と言われて、「自分だけじゃない。この時期の高校生はそういう悩みを抱えがちなんだ」と気づいたんです。「学校の勉強と実際の社会をつなぐ、リアリティーのある場が必要だ」と思いました。
だから今、NEXT CONEXIONで主権者意識を育む活動をしているのは、もともと政治や選挙に興味があったからというより、「なんで勉強しなきゃいけないの」という子どもたちの疑問に答えてあげたい気持ちが強いからなんです。答えはまだ見つかっていません。これからも子どもたちと一緒に考え続けていきたいと思っています。
ーー活動の場になぜNPOを選んだのですか?
教師を目指して進んだ大学院で、愛光OBで弁護士の森保道さんと出会ったのがきっかけです。当時、森さんが取り組んでいた「児童福祉施設を退所した後の子どもの居場所」に関するNPO法人立ち上げに関わらせてもらいました。教育実習で感じた「学校の勉強と実際の社会をつなげたい」という想いを、教師になる前にクリアにしておきたかった僕に、「よのなか科っていうのがあるよ」と教えてくれたのも森さんでした。
「よのなか科」とは、東京の和田中学校で全国で初めて民間人校長になった藤原和博さんが始めた、学校で教えられる知識と実際のよのなかとの架け橋になるワークショップ型の授業です。子どもたちが身近に感じられるように、選挙なら選挙管理委員会の人、裁判なら弁護士など、テーマに合ったゲストを呼んで授業をするんです。それを知って、当時スタッフをしていた学習塾でよのなか科の手法を用いた授業を始めました。2012年から非常勤講師になった私立高校でも、よのなか科の授業をしたかったのですが、管理職からの理解は得られませんでした。
これはもう、学校の中からじゃなく、外から変えるしかないと思い、2013年から学校外での活動を始めたんです。当初は、愛光OBの原田謙介さんが代表を務め、「若者と政治をつなぐ活動」に取り組む東京のNPO法人 Youth Createと協力して、こども・若者と政治をつなげるイベントを開催していました。その後、2014年にNPO法人 NEXT CONEXIONを立ち上げたんです。
そういった経緯から、2017年には総務省から主権者教育アドバイザーの委嘱を受け、全国の学校などで主権者教育の講演にも取り組んでいます。
学び方を改革する、「主権者教育」
ーー「主権者教育」とは?
「みんなが社会に関わり、社会をより良いものにしていくための教育」と僕は捉えています。「主権者教育」の重要性が高まったのは、2016年の夏に選挙権年齢が18歳に引き下げられたとき。主権者教育は「政治」や「選挙」という言葉と一緒になることが多く、その内容は選挙体験といった選挙啓発にとどまっている場合がほとんどです。
その背景として、現場の先生の話によく出るのは「政治に関する知識がなく、どう主権者教育に関わっていいか分からない」という声です。先生と生徒という「タテの関係」から本音で議論がしづらい側面もあります。そこで先生方には、「政治とは、答えのない答えを一緒につくっていくものという視点で生徒に関わってみてください」と伝えています。
僕は、主権者教育とは「学び方改革」だと思っているんです。生徒の学び方を変えるだけでなく、先生の指針にもなる講演を心がけています。
ーー講演で工夫していることは?
「講演」という名前ですが、ワークショップをして思考を働かせ、行動に移させることを大事にしています。僕はよく「ビックリマークをクエスチョンマークに変えてみましょう」と言うんです。「選挙に行こう!」を「選挙に行こう?」に変えれば、なぜ選挙に行くのか考えるようになりませんか? それが思考を働かせるということ。
先生方に「固定観念に縛られずみんなで学び合いましょう」と伝える一方で、生徒たちには「伝統も大事だよ」とも伝えています。伝統にはこれまで築いてきたものがあり、それがあるから生かされているものがあるからです。校則の話で言えば、ルールがあるから自分たちの権利が守られている側面もある。その前提を知った上で、その校則が必要かどうか、クエスチョンマークに変え、吟味し、みんなで答えを探っていく。それが主権者教育に求められる「創造的・批判的思考力」を養うことにつながります。こうした議論は結局答えがでないこともあります。でも、問い続けることが大事だと思っています。
石橋をたたいて渡りたい子って結構多いんです。でも、思い切って3歩進んで2歩戻る1歩と、石橋をたたいて渡る1歩では、同じ1歩でも見える景色が全然違う。失敗したっていいんです。その時間は無駄じゃないし、失敗するから次のアイデアが見えてくると思います。
出会いが刺激になり、考えを深める
ーー越智さんは2015年からワーコラの理事を務めています。その経緯は?
NEXT CONEXIONを立ち上げてすぐのころ、NPOサポートセンターの運営協議会でワーコラ代表の堀田さんとご一緒したのがきっかけです。堀田さんから「理事になってほしい」と声をかけられ、NPOの運営を一緒に学べたらと思いましたし、僕でお役に立てるならという思いで引き受けました。
ワークライフバランスは興味がある分野の1つでした。ワーコラが、ワークライフバランスの推進に取り組むと同時に、社会参加を大事に活動しているところにも共感しましたね。
ーーワーコラと関わるメリットは?
多様性を知ることができることでしょうか。僕は中学から寮に入ったので親元を早くから離れていますし、子育てを間近で見る機会もありません。NEXT CONEXIONで保護者と関わることもありますが、子育ての悩みを聞く立場にはないので、ワーコラの理事会で初めて「親はそういうことで悩んでいるんだ」と知ることが多いです。子育てに限らず、ワーコラに関わる方はいろいろな仕事をしていて、さまざまな悩みを抱えています。そういう方々との出会いが刺激になり、考えを深めます。多様性を知ることで得られるものは大きいですね。
きっちり授業をこなすより、大事なもの…まちのがっこう+(プラス)
ーー2021年から講師を務めている「まちのがっこうプラス」とは?
小学生が普段学校で出会わない人たちと、普段学校でやらないことをする場所です。和光会館で毎週水曜日に開校しています。僕としては、「どこでもよのなかスクール」の一貫としてワーコラに出張に来ている感覚です。1〜3年生の低学年と、4〜6年生の高学年に別れ、ワークショップ形式で探究学習をしています。2021年度は高学年、2022年度は両方の講師を担当しています。
ーー具体的にはどんなことを?
昨年度の高学年は、牛丼屋の起業体験をしました。牛丼のチェーン店によってなぜ値段が違うのかを考えたり、牛丼1杯がどれくらいで作れるのかを近くの商店に行って計算したり。貿易や為替の話もしました。海外のゲームにハマっている子がいて、「ドルで課金するから円の相場が変動する。安いときにゲームをしたい」という話から「なぜ為替は動くんだろう」という話に発展したからです。最後は、実際に子どもたちが牛丼を作って販売しました。大変だし、利益は出ないし、あの子たちはもう、牛丼屋の社長にはなりたくないかもしれないですね(笑)。でも、「サイドメニューで利益あげてるよね」など、子どもも大人もたくさんのことを学びました。
今年度の低学年は、まちづくりがテーマです。今の家と理想の家を模造紙に描き、自分の家がまちとどうつながっていくかを絵にするワークをしています。今の家にベッドを描いた子に「どこで買ったの?」と聞いて、そのお店を描いてもらったり、理想の家に水族館を描いた子に「魚はどこからくるの?」と聞いて、海を描いてもらったり。扱う対象を自分の家から少しずつ企業や地域へと広げて行くことで、社会にリアリティを持ってもらう目的です。
ーー講師として心がけていることは?
怒らないことと、自分の意見をしっかりと伝えることです。信念のない説教って子どもたちに全く響かないと思うからです。僕は子どもたちと同じ目線でみんなでワークショップをしている意識なので、ここに来る子どもたちには「そうかな?僕はこう思う。どう思う?」とよく言っています。講師の役割は、きっちり授業をこなすことより、対話をしながら授業を進めることだと思うんです。常に悩みながら、子どもたちに向き合っています。
ーー課題はありますか?
探究学習の成果や評価をどうすべきかは難しいですね。探究学習は、自分で問いを立て、それに答えていく学習です。2022年度からは高校で「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」に変わり、本格的に導入されました。
これからの社会を生き抜くには、学力テストでは測れない「非認知能力」が大事だと言われています。でも、非認知能力が高い子どもを周りが評価してくれないと、社会で生きてこないですよね。それと同じで、探究学習でも学習の成果を自己の成長として自覚できるだけでなく、周りが評価できることが重要だと思っています。そういう意味で、低学年のまちづくりのゴールをどうするか、とまさに今、考えているところです。
ーー先生も悩みながら、子どもたちと授業をつくっているのですね。
まちのがっこうプラスの授業でも、回数を重ねた講演でも、「こうしたほうがいいかも」と直前まで悩むので、ワークシートの内容はどんどん変わっていきます。それに、始まるまでは緊張しっぱなしです。でも、「なんとかなるでしょ」と思うようになって、緊張しなくなったら、僕はこの仕事を辞めたほうがいいと思っているんです。まちのがっこうプラスは、子どもたちの「生きる力」をアップデートする探究学習の場です。僕自身のアップデートも必要だと思っています。
ただ僕は、まちのがっこうプラスの本質を「探究学習」だとは捉えていません。よく堀田さんとも議論するのですが、ワーコラの目的はワークライフバランスの推進と大人の社会参加なので、本来のターゲットは大人です。なのに、あえて子どもを預かったり、教育をしたりする意義はなんでしょう。
ーー越智さんはまちのがっこうプラスの本質をズバリ何だと?
「子どもたちが安心して過ごせること」です。教育を担当しながらワーコラの理事として、そう強く思っています。
今の子どもたちの居場所は基本、学校と塾と家です。勉強するとなったら、図書館は19時に閉まるし、カフェに行くとお金がかかってしまう。塾の自習室を利用するには高い受講料が必要です。子どもたちがオフラインでコミュニケーションをとりながら、自由で主体的に勉強したり、活動したりする場所はなかなかありません。
それができるのが、まちのがっこうプラスなんです。他人に合わせたり、親の目を気にしたりせず、子どもたちが安心して過ごせる「サードプレイス」のような場所であることが、まちのがっこうプラスの本質だと思っています。
一方で、まちのがっこうプラスで「人とつながる力」や「問題解決力」を身につけた子どもたちは、将来、ワーコラが目指す「自分らしい働き方・生き方ができる」大人になっていく。そんな次世代育成として捉えることもできます。一人一人が自立しているけれど、社会参加もする。そんな大人に育てていく場でありたいですね。
子どもの居場所も、受け入れるよのなかも広げていく
ーーまちのがっこうプラスに期待することは?
静かに自習をする塾はありますが、みんなで何かをつくる、しかも子どもたちの居場所になっている話はあまり聞いたことがありません。まちのがっこうプラスが、そのフロントランナーになると面白いですね。
まちのがっこうプラスが、他にはない「子どもの居場所」となり、運営ノウハウを提供できるようになれば、NEXT CONEXIONでもやろうという話になって、2号店3号店と続いていくかもしれない。そうなればいいなと思うし、同時に、そういう子どもたちの意見を「受け入れるよのなか」をつくることも重要だと考えています。ワーコラとNEXT CONEXIONで学び合いながら、「子どもの居場所」も「受け入れるよのなか」も広げていきたいですね。
(取材・文/高橋陽子)
まちのがっこうプラスの入校生を募集しています。
詳しくはこちら。