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編曲家という魔法つかい

大学の講義で「作曲」と「編曲」のちがいを説明したら、学生から「"編曲"って何をするのか、初めてわかりました」という反応が返ってきた。「編曲」という仕事の内容、一般には意外に知られていないようだ。

作曲と編曲の両方を仕事にしている当方としては
「作曲はアート、編曲はデザイン。」とか
「作曲は天才の仕事、編曲は秀才の仕事。」とか
「作曲はシロウトでもできるが、編曲はクロウトしかできない。」とか、
極論を言ってみたくなる。(極論ですよ、どれも)

ポピュラー音楽の場合、ざっくり言えば、曲の中核となる基本的なメロディをつくるのが「作曲」。それを様々な楽器や音色で肉づけし、テンポやリズムを決定し、現実に鳴り響くサウンドとして設計するのが「編曲」だ。

「言葉」におきかえてみよう。たとえば自分で文章を書く場合と、外国の文章を翻訳する場合では、頭の働かせ方がちょっとちがうと思うのだ。

作曲と編曲にも、それと似たちがいがある。ゼロから何かを生み出す作業と、既にある何かを別の何かに変換する作業のちがいだ。

そして翻訳にも編曲にも、絶対に必要なものがある。オリジナルをつくった著者や作曲家への、愛と敬意だ。

「これは日本語にはない、難しい言い回しですな。だが、言いたいこたぁ、わかりますぜ。ようがす! 日本人に伝わるよう、あっしがこんなふうに言い換えてみせやしょう!」

と侠気(おとこぎ)を見せ、原文の良いところを引き出す職人芸が、翻訳。

「アンタって化粧っ気ないけど、なかなかどうして素敵じゃないの。磨けば光るタマね。ようし、アタシに任せなさい!」

と張り切ってメイクやスタイリングを施し、最高に輝くシンデレラへと化けさせる魔法が、編曲だ。

ただし、12時を過ぎたシンデレラのように、魔法が消えてしまうこともある。作曲された音楽自体は時代に左右されない普遍性があっても、編曲されたサウンドにはどうしても時々の「旬」というものがあるからだ。周回遅れの「流行サウンド」ほど陳腐なものはない。

編曲家という仕事、魔法が通用し続けるよう常に時代や流行を分析し、勉強し続けなければならない稼業なのは間違いない。


(2020.3.26)

www.wonosatoru.com


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