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ことば遊びとショートショート13『1K』

 なんでだっけ?

 大学の同期だが顔見知り程度の山谷の家にいく流れになったのは。

 秋なのにやけに暑い日だった。

「風呂なし1Kだけどくつろいでな。靴脱がなくてええけど」

 中へ入り、驚いた。

 キッチンのある場所は岩場で、川が流れている。

『何これ?』

「渓流」

 本来、換気扇のある辺りには滝があり、見上げると天井はなく、秋晴れの空と紅葉した木々が見えた。

「吹き抜けなんだ」

 山谷は奥の和室にいた。

「昼、ご馳走するわ」

 山谷は馴れた手つきで火を起こし、水を汲み、湯を沸かし、蕎麦をゆで始めた。川の水で冷やしたざる蕎麦。わさびも育っていて、すって添えてくれた。紅葉の流れる川のほとりで昼食をとった。

「風呂、入る?」

 風呂なしでは?よく見ると川の脇に溜まりがある。

「掘ったんだ。温度調整苦労したよ」

 夜、俺たちは温泉に入り、満天の星を見た。

 渓流から始まった交流は、だいぶ時間が流れた今でも続いている。

 (了)

【雑記13】

 ショートショートの1st Album『ワンダーメーカー』より、本日は4曲目の『1K』を紹介しました。
 昨日の3曲目の『畳、駆ける』はこちら

 まず、アルバム2、3曲目で疾走感のある物語を並べてきたので、この辺りでゆったりとしたスローな物語を置きたいなと思いました。
 イメージとしては、Oasisの2nd Album『モーニング・グローリー』の4曲目『Don't Look Back in Anger』のような立ち位置の物語を置きたいなと。

 思いついたのが、屋内にある自然でした。
 母方の祖母が山の上流のほうに住んでいて、子供の頃に遊びにいくと、帰るまでよく近くの沢に行き、石をひっくり返しては沢蟹を捕まえたり、水の中に入ったりして遊んでいました。
 夏場にいっても、背の高い木々が太陽の光から守ってくれて、水はひんやりと冷たくて、川の流れに癒やされた記憶があります。
 そんな川の水音を家で体験できる物件があったら素敵だな、少しでも読者を和ませられたらなとこういう形に流れついた物語でした。

 お読みいただき、ありがとうございます!

 8月末まで毎日、400字ショートショートと雑記の2本立てnote を投稿することに挑戦中です。

 文章で物語で、読んだ方を笑顔に元気にできたら最高です!良かったら、また明日もふらっと遊びに来てください!

文章や物語ならではの、エンターテインメントに挑戦しています! 読んだ方をとにかくワクワクさせる言葉や、表現を探しています!