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ことば遊びとショートショート17『時瓶』

 夏休み、私は久しぶりにばあちゃん家を訪れた。山奥の古い家だ。

『よう来たね』

「暑ちぃね」

 ばあちゃん家の土間には水瓶があって、懐かしさに私はその水を飲んだ。隣にはもうひとつ瓶がある。

「そういや、この瓶って何?」

『見てみな』

 蓋をとり、覗くと硬貨や紙幣がたくさん入っている。

「貯金瓶?」

『それは時瓶といってね。その時代や場所に流れていた時間が、お金や貝殻や木の実に形をかえて落ちとってね。世界中を旅して、拾った時間を貯めてんのさ』

「どうするん?」

『このお金は換時すると、その時間を旅できてね。アンタにも時間通帳あげるね。貯時は楽しいから』

 そう言い残し、ばあちゃんは消えた。時瓶も空っぽ。

 新しい通帳には、ばあちゃんがこの時代に残した時間が振り込まれていた。


 帰り道、ばあちゃんくらいの歳の人とすれ違った。

 私に似ていたような気もしたけど、時間を探していて、顔を思い出す時間はなかった。

 (了)

【雑記17】

 小学生の頃まで茅葺屋根の家で暮らしていた。

 土間で追いかけっこしたり、風呂は薪で沸かしナメクジが風呂場の壁に這っていたら土間の奥にある台所から塩をもらい退治したり、トイレは家の中にあるけどそこにいくまでの廊下がひどく老朽化してるから夜に外のトイレにいくんだけど放し飼いにしている隣の犬が待ち構えていてなかなか家に戻れなかったり、隠しカーテンで繋がっている部屋があり行ったり来たり暴れまわってよく怒られたり、雨が茅葺屋根を叩く音がなんだか優しくて好きだったり……ここには書ききれないほどの思い出がある。

 小さい頃はそんな暮らしが当たり前だったけど、物心がつき友達の家とか遊びにいったりする中で、うちはボロいなぁ、嫌だなぁと思うようになった。
 早く新築の家にならないかなぁとずっと思っていた。
 中学生になる前に家が新築となりほっとしつつも、なんともいえない寂しさと物足りなさが時間の経過とともに感じるようになった。
 あの家での暮らしは特別なものだったのだなぁと。

 なので、この頃に住んでいた家や暮らしのことをいつか物語の中で描きたいなぁと思っていて、こういう形の物語になった。
 さすがに水道は通っていましたが(非常用の水瓶はありました)。

 今日のショートショートは、物語のアルバム作りに挑戦したショートショートの1st Album『ワンダーメーカー』収録、8曲目『時瓶』でした。
 昨日の7曲目『ツナマヨ』はこちら

 
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 8月末まで毎日、400字ショートショートと雑記の2本立てnote を投稿することに挑戦中です。

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