リベリオン

 この映画の公開時はもちろんカート・ウィマー監督のことは知りませんでしたので、ヤン・デ・ボン製作の新作がとんでもないことになっているらしいという噂だけを聞いて、公開終了直前に他にほとんどお客さんがいない状態でなんとか観ました。「リベリオン」でございます。

 最初に断言しますが、これはアクション映画史上に残る傑作です。SF映画史にはたぶん残りません。こういったディストピア社会はありふれていて、あまり新味がありませんでした。政府が禁じているもの(この映画では芸術品)を燃やすくだりなどは「華氏451」と、ほとんど一緒です。でも意図的に同じにしているのだとは思います。そんな未来の管理社会では、クラリックと呼ばれる人たちが違反者を取り締まっています。その一員のジョン・プレストン(クリスチャン・ベール)がだんだんと自分の仕事に疑問を抱き、最後には政府を転覆させて革命を成功させてしまうというお話です。でもストーリーはどうでもいいのです。どうでもいいという割にはえらくていねいに演出してありますが、それとちぐはぐな感じすら与えるほど、アクションシーンになるとB級感丸出しなくらいノリノリのアクションが展開されます。とにかくプレストンが強すぎるのです。クラリックが身につけているのが「ガン=カタ」という戦闘術です。このアイデアが素晴しいと思いました。一言で言うと銃を使った格闘技です。格闘技や武術の理論の延長上に銃という武器の存在を置き、その方法論で使用するのです。こればっかりは口で説明してもあれですので、実際に映画を観て下さい。

 この「ガン=カタ」の発明はアクション映画界の革命と言っていいと思います。アクション映画においては、かねてより格闘と銃撃戦のバランスと言いますか、その両者のいいところをつなぎ合わせ、いかにスムーズに移行するかということが最大の課題であり、それに監督やアクション監督は頭を悩ませていました。例えばラストは殴り合いにしたい、でも銃があるのにわざわざ殴り合いをするか? 弾切れということにしよう、今まで無制限に撃っておいてラストだけ弾切れ? 蹴られて銃を落とそう、じゃあ自分の銃は? 自分から銃を捨てて、フェアに殴り合いということにしよう、などなど。「ダイ・ハード」や「リーサル・ウェポン」といったハリウッド製アクションだけでなく、ジャッキー・チェンなどの香港映画も、皆この問題に頭を悩ませていました。「マトリックス」ですら苦心の末に、結局弾切れでカンフー対決になっていました。

 しかし「ガン=カタ」のおかげで、そういった問題は最初から考える必要がなくなりました。銃を持っていても格闘技なのです。だから格闘と銃撃戦はシームレスでつながります。恐らく「マトリックス」に影響を受けたのだとは思いますが、大量の敵と銃撃戦を行うシーンはそれよりもさらに完成されていてスタイリッシュです。ちょっとやりすぎて笑えてくるほどです。それをクリスチャン・ベールが真面目な顔をしてやっているのです。この様式美はどちらかと言うと時代劇に近いものがあるなと思ったら監督さんもそう言っていました。しかし他の映画にこの方法論は使えないので、「ガン=カタ」はこの映画だけの奇跡だと思い、心して鑑賞しましょう。実際、この次に撮った「ウルトラヴァイオレット」はちょっと微妙な感じでした。

 ラストでとってつけたように革命が成功するのも、急すぎて笑えてきてしまいます。でもいいのです。この映画には他のどの映画も真似できないアクションがあります。「バットマン・ビギンズ」のパンフレットを読んだ人には分かると思います。インタビュアーがクリスチャン・ベールに「初のアクションですね?」みたいな質問をするのですが、ベールは「いや「リベリオン」ってのがあって、あのアクションなかなかいいんだよ」と答えているのです。私は嬉しくなってしまいました。それでいいじゃないですか。

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