リトルショップ・オブ・ホラーズ

 先日「キャッツ」について煮え切らない感想を書きましたが、確かに私はミュージカル映画をそこまで観ているわけではなく、特に好んでいるというわけでもありません。その数少ないミュージカル歴の中からお気に入りの一つである「リトルショップ・オブ・ホラーズ」のことを、今回は書いてみたいと思います。

 これは学生時代に劇場で何度も観たほど気に入った映画で、結構ヒットした気でいましたが、世間一般にはそれほど知名度がない映画だとその後知って愕然としました。ということは一部にカルト的な人気がある映画と分類されているのでしょうか。しかし私はこれこそが娯楽の本道で、もっと広く観られてほしい映画だと思うのです。

 いきなり力説してしまいましてすみません。お話はさえない花屋の店員シーモア(リック・モラニス)がある不思議な植物を手に入れて、いろいろな騒動が巻き起こるというものです。その様子がミュージカル仕立てでテンポよく描かれていきます。

 シーモアは店員のオードリー(エレン・グリーン)という女性が好きなのですが、典型的モテない君ですので、告白なんかはできません。偶然見つけた不思議な植物にオードリー2と名付けて話しかける毎日です。しかもオードリーにはサディストの歯科医の彼氏(スティーブ・マーティン)がいて、どうもたびたび暴力を振るわれているようです。シーモアが自分の不甲斐なさを嘆いているうちに、次第にオードリー2が肉食であることが分かってきます。さらにオードリー2はいきなり喋りだし、「俺に何か食わせろ」と歌いだすのです。「フィード・ミー、シーモア」と歌いだすところはかなりの名シーンで、その後「3人のゴースト」でもビル・マーレイがセルフパロディ的に言っていましたね。話を戻しますが、シーモアは歯科医を殺してオードリー2に食わせようと計画するのでした……。

 もともと60年代のロジャー・コーマン製作のB級ホラーで同名の作品があり、それのリメイクなのですが、印象は全く違っています。と言うかいったん舞台でミュージカルになったそうで、それの映画化ということです。とにかく曲がいいです。モータウン系のサウンドというのでしょうか、始まってすぐにシュープリームスのような3人娘が出てきてテーマ曲を歌うところからノリノリです。観終わってすぐにレンタル屋さんに行ってサントラを借りた覚えがあります。ただサントラの曲はちょっとアレンジが違っていて私は劇中で使われていたバージョンの方が好きでした。

 この映画で書きたいことはいくつもあるのですが、まずオードリー2の動きが見事です。監督のフランク・オズと言えば、ヨーダ役でおなじみですし、ジム・ヘンソンと一緒に「ダーク・クリスタル」を撮った方ですからマペットの扱いには定評があります。それにしても驚異的な造形と動きです。今ならCGを使うところを全部実物大のマペットを作って実際に動かしています。そこにいるような実在感と言いますか、役者さんとの芝居も息が合っていて、生々しい迫力があります。これを観るだけでも一見の価値はあります。

 さらに私はこの映画で初めて知った役者さんなのですが、スティーブ・マーティン演ずるサディストの歯科医の演技が爆笑モノです。ストーリーとはほとんど関係がないのですが、かなりの時間をかけてその仕事ぶりを描いていますし、マゾの患者ビル・マーレイとのバトルは、本筋とは関係がないのに、この映画の見せ場の一つになってしまっています。

 コメディタッチの演出にごまかされそうになりますが、ストーリー自体はちょっとヤバい領域に片足を突っ込んでいる感じがします。もちろんこのブラックさは意図的なのですが、果たしてこの主人公にハッピーエンドを与えていいのか? と冷静に考えたら思ってしまいます。製作陣もそう思ったのか、オードリー2が巨大化して町を破壊するバッドエンドバージョンもいったん作られたそうです。その後発売されたブルーレイでそのバッドエンドは確認できました。巨大化したオードリー2による大破壊シーンが観られて、長年の夢がかないました。この終わり方なら今以上にカルト作として評価されただろうなと思う一方、楽しく見られる娯楽作品という感じではなくなるので、難しいところですね。意外にハッピーエンド版も嫌いではなかったりします。

 セット丸出しのオールドスタイルな撮り方とかもかなり好きな映画です、というか個人的には文句のつけるところがない映画だと思えてきました。ひょっとしたら単なるノスタルジーなのかも知れませんが、こういったアナログ感覚溢れるアニマトロニクスやマペットの方が、個人的には味わいがあっていいと思うんですよね。そんなわけでもう二度とこういう映画は作られないだろうなという意味でも、大事にしていきたいお気に入りの一本の紹介でした。


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