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うちの怪獣たち

おわかりだろうか。この目。微妙に、こちらと視線を合わせない。よく見ると手をつないでいる。ナニかをたくらんでいる。

うちには怪獣が2匹いる。


こちらをご覧いただきたい。

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きゃーっ。鋭い爪あと。あー怖い怖い。冬に張り替えたばかりなのに…。


離婚して実家に戻った。成人した娘と怪獣2匹が、もれなくついてきた。


「離婚してもいいかなぁ?」「一緒に住んだほうが便利だよねぇ?」「猫、どうしようかなぁ?」何年も前から両親に会うたびに、それとなく顔色をうかがってきた。

父の運転をやめさせた代わりに、買い物や病院の送り迎え。となり街とはいえ忙しい。年老いて不安もあるはず。一緒に住んで欲しいに決まってる。

「猫はしょうがないねぇ」両親が折れた。


おとなしくしていたのは最初だけ。だんだん本性を現す。築40ン年だが、2人で小ギレイに住んでいた実家が危うい。階段横の壁は布張りなので、爪の“とぎがい”があるらしい。ボロボロになる前に安い板を張った。

板を張ると隣の壁でとぐ。また張ると隣でとぐ。結局2階から下まで張った。日曜大工の腕が上がった。

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もうすぐ2年。両親の可愛がりようったらない。思ってたのと違う。猫かわいがり。怪獣なのに。


12年前の秋、近所に捨てられていた。みんなでエサをあげていたが、寒くなってきたので、どうしようかと話していたらしい。夫がそれを聞きつけてきた。

3匹飼っていたシャム猫の、最後の1匹を4か月前に亡くし、ずっと落ち込んでいたわたしは、もう猫は飼わないと決めていた。「イヤだ、行かない」

もう1度猫を飼えば元気になると思ったのか。優しさのつもりだったのだろうか。夫は「見るだけでも」と言う。娘が「見たい」と言うので渋々ついて行った。

なのに、なぜか自分の両手に抱えて帰ってしまった。「離婚できなくなる」と思った。


生後3か月くらいか。かわいい盛りはとうに過ぎていた。黒いのと茶色いの。こんなに仲がいいのは兄妹(姉弟?)だからだろう。猫は父親の違う子供をいっぺんに産む。

2匹の怪獣は、この頃から本領発揮。なぜかわたしの両足に1匹ずつ登ってくる。チクチク痛い。黒いのと茶色いの。黒いチクチク、茶色いチクチク。名前は即決。

うに」と「くり

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※写真は実物ではありません。……いや、


うに♀」と「くり♂」

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あれから12年か…いろいろあったね。


居間に行くと、かなりの確率で父が怪獣をなでている。ドヤ顔で。「俺に一番なついている」と言いたいのだろう。そして、同じ顔で怪獣も振り向く。「ちゃんと、なついているフリしているよ」と。

怪獣どもは、両親のボケ防止にも一役買っている。外に出せと騒いだり、泥だらけの足で帰って来たり。何日か前は、朝っぱらから騒々しいと思ったら、捕まえてきた小さなネズミを家の中に放したらしい。

人々を恐怖に陥れ、1日の仕事を終えると、夜、私の部屋に帰ってくる。


怪獣さんたち、ご苦労さん。ありがとう。君たちがいたから頑張れたんだ。じーさん、ばーさんも、前より明るくなったよ。君たちも、できるだけ長生きしてよね。ただ、できればひとつだけお願いがあるんだ。何やってもいいけど、もうちょっと手加減してくれないかな。もうちょっとだけ。よろしくお願いしますよ。ね。じゃあね。おやすみ。

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・・・



あ、怪獣がなんか言ってます。


追記

2022. 春  父
2022.10.25. うに
2023.01.31. くり
後を追うように亡くなりました。
読んでいただき、ありがとうございました。












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