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ポモドーロ

今夜の晩ごはん、ポモドーロ。パスタを茹でている間に作りおきのトマトソース(トマト缶とにんにくみじん切り、バジル、オリーブ油をぐつぐつ煮たもの)を温めておく。パスタがアルデンテに茹で上がったらソースをさっと絡めて黒こしょうを振り、茹でブロッコリーを添えてできあがり。トマトソースに粉チーズを振るとコクが深まっておいしいけれど、自分はこのメニューの時はチーズ抜きで食べるのが好き。シンプルこの上ないレシピだけれど、にんにくの香りをまとったトマトの爽やかな酸味がたまらなくおいしい。余ったソースはブロッコリーで拭って余さずいただく。ごちそうさまでした。


かの有名な沢木耕太郎さんの名著「深夜特急」第6巻(南ヨーロッパ・ロンドン)に、沢木さんがイタリアでポモドーロを食べるシーンが出てくる。


───とりわけ、最初に出されたシンプルなトマト味のスパゲティーは素晴らしかった。少年に訊ねると、「ポモドーロ」というのだと教えてくれた。


───関西における素うどんとでも言うべきこのポモドーロは、素うどんが関西のどんな店でもある水準に達しているように、どんなみずぼらしいレストランのものでもおいしかった。私はフィレンツェにいるあいだ中、一日一回はポモドーロを食べないと気が済まなくなってしまった。


私が深夜特急を初めて読んだのは10代も終わりの頃で、読書が好きだった父に強く薦められてたちまち夢中になったことをよく覚えている。父に感想を聞かれて「すごい面白い!おいしそうなごはんがいっぱい出てくる!」と答えた時に父がやや微妙な顔をしていたことも覚えていますが……まあそれはさておき。

ある日の昼食にこのトマトソースパスタを母が作ってくれた時、父がこう言った。

「ワカナ、これサワコーのスパゲティーだぞ!サワコーが毎日イタリアで食べてたの、きっとこんな味だ」

それ以来、我が家ではポモドーロ=サワコーさんのパスタと呼ぶ習慣が定着した。両親が亡くなり、弟たちが家を出てひとり住まいになった今もその習慣は続いている。深夜特急の6冊は、父が遺してくれた蔵書の中で一番のお気に入りとして自分の本棚に並んでいる。父があの時自分にこの本を薦めてくれた気持ちは、年を取るにつれて少しずつ想像できるようになった気もする。父がどんな思いでこの本を読みふけっていたのかも。


ポモドーロをすすりつつ、沢木さんがなさっていたような旅に焦がれていたであろう父のことを思い出してちょっとしんみりしている夜です。

ちなみに深夜特急でいちばん好きなのは5巻のトルコ・ギリシャ・地中海編。いつもよだれをすすりながら読んでいます。

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