1999年7月28日(水)
「あなたにはロマンスが足りないわ」
「クンフーだね。あとお前もな」
鍛錬の休憩中に突拍子もなく発言した水井 華代の言葉を聞いて、井口 咲江は瞬時に突っ込みを返した。ここは午前中の魔術師鍛錬場。本日もたくさんの魔術師が鍛錬を行っている。16期の魔術師である井上と水井、坂野 幸美の3人は朝から一緒に鍛錬を行っており、現在は一掃や大吹雪の呪文を習得するべく日々努力を行っている。まだ3人とも習得は出来る雰囲気では無いが、焦らずにじっくりと習得までの道のりを進んでいるところだ。3人とも高校卒業してすぐに冒険者になっており、現在3年目となので、ことし21歳になる。大学生活と冒険者活動で日々忙しく、充実した毎日を送ってはいるが、異性関係となるとほとんど話題に上がらず、ロマンスが足りないことを水井が指摘したのである。ちなみに“あなたにはクンフーが足りないわ”とはバーチャーファイターシリーズのパイ・チェンという女性キャラが、試合に勝った後で発するセリフである。
「まあまあ、いいじゃないですか」
苦笑いを浮かべながら坂野がフォローを入れる。ロマンスが足りないのは確かではあるし、別にそれでも良いと許容しているのも確かである。今の生活リズムに異性との付き合いを入れれるほどの余裕はないので、彼氏ができたら出来たで今の生活の何かを犠牲にしないといけなくなる。
「どうして最近モテないんだろうねー」
「高校生の時は何人かに告白されたけどなー。断ったけど」
不満げな表情で水井が言葉を発して、それに井口が昔の話を口にする。井口にしても水井にしても見た目は魔術師らしくおとなしめで可愛らしいのであるが、最近男性から声をかけらることが少なくなっているようだ。
「お二方とも部隊に男性がいるんだから、お付き合いしてみたらどうですか?」
「それは絶対いや」
現状打破の一案として坂野が考えを口にしたが、これに対しては井口と水井が瞬時に同時に否定の意見を述べたのである。