見られた夢
昨日の続きかというとそんなことはない。
前も何かで書いたが、大学の演劇サークルに「ヘラヘラ」というあだ名の女の子がいた。別にへらへらしているわけではないが、本人を知ってしまうと、そうとしか呼び様のない雰囲気を放っている、不思議な子であった。
とにかくある時その子がいうのである。
「昨日、タグチさんの夢を見ました」と。
もちろん大いに興味を惹かれて、いったいどんな夢だったのかと訊ねた。
「えっと、川があったんですね。そこにタグチさんとY本さんがいて、それぞれ、自分の船に乗れって、わたしを誘うんです」
何やら非常にわかりやすい、三流雑誌の占いみたいな話である。
Y本というのも同じサークルにいた男で、悔しいがわたしより女子ウケのするタイプだ。
こりゃとんだ引き立て役じゃないかと、半ば投げやりになりながら、一応その先を聞いた。
「悩んだんですけどぉ、タグチさんの船に乗ったんです」
おっ、ちょっと風向きが変わったぞ、べつにヘラヘラのことはなんとも思っていなかったが、そうか俺を選んだかと、決して悪い気はしなかった。
「それでですね、出発したら、泥舟で沈んじゃったんですぅ」
おいおい。
ヘラヘラはそれだけ話すと颯爽と去っていった。
カチカチ山かよと思った。