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3篇が加わり、全30作品を無料公開中! note版〈ウィッチンケア文庫〉
新たにはましゃかさん、長谷川裕さん、蜂本みささんの3篇が加わり、note版〈ウィッチンケア文庫〉では現在30作品を無料公開中。すべてを読むと紙の「ウィッチンケア」1冊のテキスト文量、8割程度の読み応え!? 総アクセス数は紙の創刊号〜最新第13号合算部数を越え、個別のアクセス数でも、作品掲載号を上回るものが多数あります。
2024年4月1日には第14号を発行予定で、ただいま鋭意編集作業中。寒い日が
蜂本みさ/イネ科の地上絵
くじびきで田んぼ委員になった。
正式な名前は田んぼアート委員だが誰もそうは呼ばない。つっちーで定着しかけていたおれのあだ名も田んぼ委員に上書きされた。新学期から最悪だ。せめてアート委員ならよかったのに、先生も容赦なく「田んぼ委員は放課後に集合」などと言う。配慮が足りないと思う。
田んぼアートはうちの恒例行事だ。校舎から運動場を挟んだ西側の田んぼを農家さんに貸してもらい、緑や黒や白などいろん
長谷川 裕/アマウネト──Kさんのこと
今夜から明朝にかけて東京も雪になるらしい。「多摩地域では、この冬はじめての本格的な積雪になるかもしれません」ラジオで気象予報士が注意を呼び掛けている。
一応、東京都とはいえ、やはり多摩地域は都心とは別のエリアなのだ。雪の日はそのことをいつも以上に意識する。朝にはきっと武蔵小金井にある私の家の周囲は真っ白な雪に埋もれ、駅まで歩く間にくるぶしのあたりまで濡れてしまうだろう。
都心にむかう中央線の
はましゃか/穴喰い男
「嫌な予感がする」男は言った。「嫌な予感がするな。これは一体なんだ? 何もかもすべてが上手くいきっこないって感じさ」
「一体、何がそんなに悪くなるっていうんだい」もうひとりの男が言った。
「わからない。何もかもさ。例えばこのコーヒーは今すぐにでもひっくり返ってこの真っ白なテーブルクロスを汚す。僕のシャツだってしみだらけになる。君が『やれやれ』って顔をしている間に美しい店員がかけよってきてテーブルク
3篇が加わり、全27作品を公開中!〜note版〈ウィッチンケア文庫〉〜
新たに荻原魚雷さん、トミヤマユキコさん、清水伸宏さんの3篇が加わり、note版〈ウィッチンケア文庫〉では現在27作品を無料公開中です。すべてを読むと紙の「ウィッチンケア」1冊のテキスト文量、7割程度の読み応え!? 総アクセス数は紙の創刊号〜最新第12号合算部数を越え、個別のアクセス数でも作品掲載号を上回るものが多数あります。
2023年4月1日には第13号を発行予定で、ただいま鋭意編集作業中。寒
荻原魚雷/上京三十年
一九八九年の春、郷里の三重から上京した。わたしの東京での暮らしは平成の元号とほぼ重なる。
東京生活の第一歩は四畳半の風呂なしアパートからはじまった。電話はピンクの共同電話(十円玉を入れてつかう)、台所とトイレも共同だった。
三年前に亡くなった父が単身赴任中、自動車やバイクの部品を作るプレス工場で働いていたときに住んでいた寮の空部屋にもぐり込んだ。
荷物はカバンひとつ。蒲団は父が用意してくれ
トミヤマユキコ/俺がお前でお前が俺で──マンガ紹介業の野望
日本のマンガ市場は、紙・電子合わせて5000億円くらいらしい。5000億と言われても、数字が大きすぎて具体的なイメージが何ひとつ浮かばないわたしだが、とにかくたくさんのマンガが世に出回っていることだけは間違いない。
日々何かしらの作品が刊行されている状況なので、プロのマンガ研究者を名乗っておいてあれだが、読めるマンガの数には限度がある。専門である日本の少女マンガに限定したとしても、まず読み切れ
清水伸宏/定年退職のご挨拶(最終稿)
本日はお忙しいなか、僕のためにご参集いただきありがとうございます。
この会社にかれこれ38年もお世話になりました。そして今日が最後になります。
定年退職と聞いてまず思い浮かぶのは、さえない年老いた男性が職場で従業員に囲まれて、若い女性社員から花束を渡されている光景だと思います(笑い)。確か、内館牧子の定年小説『終わった人』の表紙カバーも、花束を抱えたくたびれたサラリーマンのイラストでした。
4篇が加わり、全24作品を公開中!
新たに4篇が加わり、note版〈ウィッチンケア文庫〉では現在24作品が無料公開中です。すべてを読むと紙の「ウィッチンケア」1冊のテキスト文量、6~7割の読み応え!? 総アクセス数は紙の創刊号〜最新第11号合算部数を越え、個別のアクセス数でも作品掲載号を上回るもの多数あります。
2022年4月1日には第12号を発行予定でただいま鋭意編集作業中。寒い日(+コロナ禍)が続きますが、桜の季節まで、ぜひ下
仲俣暁生/大切な本はいつも、家の外にあった
自分がいつどこで、どうやって本や雑誌と出会ってきたかを振り返ると、思いのほか、それは家の外で起きた出来事だったことを思い出す。親から与えられた絵本はともかく、自分から進んで読みたいと思い、あるいは偶然に出会ったことで好きになり、そのことで気づかぬうちに自分の人生に大きな影響を与えた本や雑誌とは、ほぼすべて家の外で出会った。しかもそうした本や雑誌を私は、結局のところ自分自身では所有することがなかっ
もっとみる柴 那典/ブギー・バックの呪い
1.混沌
渋谷駅前は狂騒に包まれていたけれど、僕にとってはそのほうが都合よかった。
109の前では血まみれのゾンビたちと白衣のナースたちが嬌声をあげて抱き合い、道玄坂をウォーリーたちが闊歩する。
ここなら僕の黒い羽根が訝しがられることはない。きっとペンギンのコスプレをしている女の子としか思われないだろう。センター街を抜け、公園通りに急ぐ。街は深く僕らを抱く。
2020年11月1日。
ふくだりょうこ/舌を溶かす
「もう一軒、寄っていこうよ」
私の返事も聞かずに彼が入ったのはラーメン屋だった。少し前に行列ができる店としてテレビで紹介されていたのを見たので、店名だけは聞いたことがある。二十三時前という時間のせいなのか、それとももう廃れたからなのか、並ぶこともなく入店できた。彼は慣れた様子で店の奥のテーブル席に座った。
「来たことあるの?」
「うん、ひとりでもよく来てる。ここの餃子、うまいんだ」
そう
宇野津暢子/昭和の終わりに死んだ父と平成の終わりに取り壊された父の会社
父と一緒にいる、という最初の記憶は、国道16号線の鵜野森交差点付近にある「すかいらーく」の店内だ。「スカイラーク1号店」が東京・国立市にできたのは1970年。新しもの好きの父と私がすかいらーく鵜野森店でよくお茶をしたのは1976年。父55歳、私3歳のときのことだ。
当時のすかいらーくには、午前11時までに入店するとコンソメスープがつくサービスがあり、私はデザート、父はコーヒーを注文し、私だけ
宮崎智之/極私的「35歳問題」
この原稿執筆時点で、ぼくは35歳である。一般的に考えて、そこそこの年齢になった。しかし、場所によってはまだ「若手」なんて呼ばれ方をしたりする。偉そうに人生や仕事を語るには、未熟すぎるということだろう。悔しいというより、ほっとする気持ちのほうが大きい。週刊少年ジャンプは、日にちが変わった瞬間に買う。結婚して、離婚し、また結婚しても人生はあまり大きく変わらない。いくつになっても大人になった気がしない
もっとみるインベカヲリ★/目撃する他者
写真家という仕事をしていると、「写真が好きなんですか」と聞かれることがあるけれど、私は別に写真が好きなわけではない。興味があるのは写真ではなく、被写体になっている人間のほうだ。ホームページでモデルを募集し、応募してきてくれた女性たち一人ひとりに会って話を聞く。年齢制限は設けていないので、下は中学生から、上は40代の主婦まで様々だ。相手の精神性などを知った上で、撮影のイメージを膨らませるので、今ま
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