マシュマロ課題 チャレンジ課題4


チャレンジ課題4
お題:肌寒い感覚
必須要素:川端康成

山の中腹に穴が空いている。トンネルだ。ここは、まもなく高速道路となる。

オープン前の点検は済んでいるが、一般車両を通す前に一度少し歩いてみようということで、三人の作業員がトンネル内を徒歩で歩いていた。

オレンジ色の光が三人の顔を照らす。

「こんな大きなトンネルを作ったなんて、改めて思うとすごいもんだな」
若い作業員が感嘆の声をあげた。
「おや、トンネル工事は初めてだったかい」
年配の作業員は、もう慣れっこといった様子で、若い作業員に尋ねた。
「はい、まだそれほど経験なくて。でも良かったっす。きっと子どもに自慢します。このトンネル掘ったんだって」
「そうか、そういやもうすぐ産まれるんだっけ?」
中年の作業員がそう言うと、若い作業員は目尻を下げて首の後ろを掻いた。

「『トンネルを抜けると、そこは雪国だった』」
「ああ、この先って湯沢でしたっけ。でも出口まで歩くのはちょっと無理なんじゃ……」
「いやいや、川端康成の小説の文句だよ。知らないかい?すぐ近くにその元になったトンネルがあるんだよ」
「へえ、トシさん物知りですね。俺は小説なんか読んだことないから」

若い作業員の顔に、何か自嘲するような作り笑いが浮かんだ。
中年の作業員がやけに明るい声を出して言う。
「まあまあ、とにかくこれで工事も終わって家に帰れるわけだ。どうです、皆で飲みにでも行きませんか」
「ああ、そうだね。最近妙に肌寒くなってきた。こんな日は熱燗が欲しいね」
トシと呼ばれた年配の作業員も応じる。

季節のせいか、確かにトンネル内ではひんやりとした空気が肌を指す。やけに静かでがらんとした空間が、余計に寒さを増すようだった。

−−−−どうも、あたしはまた余計なことを言ってしまったようだね。学がないのに劣等感のある子だったか。

かくいう彼自身も、学歴なんてものはない。ただ、文字に親しみがあり、何やかんや書物に触れながら知識を得ているに過ぎない。しかし、こういう所へ働きに来る若者の中には進学を諦めた者や、学んだ経験自体がほとんどない者もままある。
世の中が学歴社会になっていくに従って、そうした若者たちは社会に置いていかれたような感覚を味わっていくことだろう。

「あんた、胸張んなよ。このトンネルは日本一だ。日本一のトンネル掘ったって、子どもにも孫にも自慢してやれ」
「……はい!」

青年の目に光が差した。


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