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日本において、独立型のソーシャルワーカーはひろがるのか?


ソーシャルワーカーらによるアドベントカレンダー(12/25までブログ記事を書いていく)企画、1日目は、独立して3年が経った身として、独立型のソーシャルワーカーが直面する課題と、その課題へのソリューションについて記していきたいと思います。

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1.国際定義と乖離する国内定義

 2014年に採択されたソーシャルワークの国際定義において「社会変革」が中核となる任務として位置付けられた。日本国内のソーシャルワーカーに関する国家資格として位置付けられている2つの国家資格(社会福祉士、精神保健福祉士)は、根拠法である社会福祉士及び介護福祉士法、精神保健福祉法において「個人を対象にした相談援助を生業とする者」と定義され、社会変革に関する規定はなされていない。

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2.必置の進まない社会福祉士


 日本のソーシャルワーカーの多くは社会福祉関連法で規定された法定事業を行う組織に雇用されているため、組織(経営者)の意向を無視してクライアントだけの利益を追求しづらい環境に置かれていることが指摘されている。また、社会福祉士が必置とされているのは、地域包括支援センターのみとなっている。

第6回福祉人材確保対策検討会(H26.10.3)資料1(以下)

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3.独立型社会福祉士の出現と課題

 このような状況下において、2000年の介護保険法成立移行、制度や組織に規定されない高い自律性を発揮することができるとされた独立型社会福祉士が出現し、社会的に排除された人々への支援を担う専門職として期待を受け、その数も増加している。

 しかし、小川(2013)は、独立型社会福祉士の黎明期から10年以上が経った独立型社会福祉士たちの実践について、社会的に排除された人たちへの対応や地域変革に向けた社会資源の開発・ネットワーキングが乏しいと指摘する。また、独立型社会福祉士の多くが経済基盤が脆弱であり、経営の安定化のために法定事業による収益を得なければならない状況にあることが明らかになっている。

 独立型社会福祉士の一般的定義は、日本社会福祉士会(2017)の定義である

「独立型社会福祉士とは、地域を基盤として独立した立場でソーシャルワークを実践する者であり、ソーシャルワークを実践するにあたって、職業倫理と十分な研修と経験を通して培われた高い専門性にもとづき、あらかじめ利用者と締結した契約に従って提供する相談援助の内容およびその質に対し責任を負い、相談援助の対価として直接的に、もしくは第三者から報酬を受ける者」

が用いられている。しかし、独立の定義が不明瞭であること、独立型社会福祉士と一言で言っても活動領域が異なることが指摘されている。

 小川(2015)は、独立型社会福祉士の活動領域を5つに分け、分類をしている(表1)が、調査対象者77名のうち、各活動領域に該当する割合や調査対象者の活動の詳細については触れられていない。

 高良(2014)においても、独立型社会福祉士の実践について報告がなされているが、各独立型社会福祉士の活動領域の整理が不明瞭かつ、独立型社会福祉士自身による叙述的記載であるため単なる実践報告にとどまっている。

 また、独立型社会福祉士たちが自身の役割として「社会変革や資源開発」を認めながらも、新規事業の開発において活用可能な補助金・助成金の利用が著しく少ないことが明らかになっている(小川 (2017))

 また経営や業務の効率化のためのICTの利用状況、事業資金の調達方法、企業との連携状況については明らかになっていないなど、社会変革志向領域の実践を行う独立型ソーシャルワーカーに関する調査研究は不足している。

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4.独立型ソーシャルワーカーを法人が束ねるモデル

 本エントリで記した独立型社会福祉士が直面している課題について、個人開業のフリーランスのソーシャルワーカーを法人の下に束ねて、バックオフィス業務や、マーケティング機能を法人が担い、準市場に依拠しないBtoBでのプロジェクトを有するモデルであれば、2000年初頭以降、独立型社会福祉士が乗り越えることが難しかった事業性と社会性の問題を乗り越えることができるのではないかと思っています。

 来期、法人メンバーは7名(もしかしたら9名)になる予定です。

一緒に、社会実験をすすめてくださるフリーのソーシャルワーカーの方、独立を検討してる方からの連絡をお待ちしています!

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引用文献
・小川幸裕(2013)「独立型社会福祉士の事業形態にみる実態と課題」『弘前学院大学社会福祉学研究紀要』13,1-14
・高良麻子編(2014)『独立型社会福祉士:排除された人びとへの支援を目指して』ミネルヴァ書房
・小川幸裕(2015)「独立型社会福祉士における活動領域とソーシャルイノベーションの可能性」『弘前学院大学 社会福祉学研究紀要』15,21-29
・小川幸裕(2017)「独立型社会福祉士におけるソーシャル・アクションの実践環境の検討」『弘前学院大学社会日本社会福祉士会(2016)
・日本社会福祉士会(2016)「独立型社会福祉士名簿とは」http://jacsw.or.jp/17_dokuritsu/02_meibo.html(アクセス日:2018年6月17日)クセス日:2018年6月17日)
・日本社会福祉士会(2016)「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義と解説」https://www.jacsw.or.jp/06_kokusai/IFSW/files/SW_teigi_01705.pdf(アクセス日:2018年6月17日)

参考文献
・小川幸裕(2007)「独立型社会福祉士の動向に関する一考察」『帯広大谷短期大学紀要』44,33-42
・小川幸裕(2008)「独立型社会福祉士に関する研究 - 社会福祉士が中山間地域で独立する可能性と限界」『北星学園大学大学院社会福祉学研究科北星学園大学大学院論集』11,47-54,
・高良麻子(2010)「独立型社会福祉士の独自性と課題 : 独立型および既存組織所属社会福祉士に対する調査結果から」『東京学芸大学紀要. 人文社会科学系』. II,61: 203-213
・高良麻子(2012)「福祉政策にもとづく制度から排除された人々への有効な支援の検討 : 独立型社会福祉士の実践を通して」『東京学芸大学紀要. 人文社会科学系. II,』63,315-325
・小築住まゆ子(2013)「独立型社会福祉士に求められるソーシャルワ-ク実践研究-エコシステム構想による現任研修プログラムの構築にむけて-」『人間関係学研究第』4,19-29
・小川幸裕(2016)「独立型社会福祉士の活動評価にみる活動領域の概念化の検討-個人事務所における社会変革に関する活動に着目して-」『弘前学院大学社会福祉学研究紀要』16,13-20
・高良麻子(2016)「日本におけるソーシャル・アクションの実践モデル の構築-社会福祉士による実践事例の分析から-」『東洋大学社会福祉研究』9,55-59

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