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【読んだ論文】小川幸裕(2017)独立型社会福祉士におけるソーシャル・アクションの実践環境の検討、弘前学院大学社会福祉学部研究紀要第17号


1.概要

ソーシャルワークの国際定義においては「社会変革」が中核となる任務として位置付けられたが、国内のソーシャルワーカーとして位置付けられている2職種(社会福祉士、精神保健福祉士)においては、条文定義において「個人を対象にした相談援助素生業とする者」とされ、その結果、国内のソーシャルワーカーの多くは社会変革や資源開発に十分に対応できていない。加えて、日本のソーシャルワーカーの多くは何らかの組織に雇用されているため、組織(経営者)の意向を無視してクライアントだけの利益を追求しづらい環境に置かれていることを指摘。

そのような状況下において、制度や組織に規定されない高い自律性を発揮することができる独立型社会福祉士はソーシャルアクション実践を行うことができる可能性を秘めていると筆者は述べ、独立型社会福祉に関する先行研究を踏まえ、独立型社会福祉士の実態把握およびソーシャルアクションに関連する活動と基本属性の関連性の分析を行い、独立型社会福祉士における継続性を担保したソーシャルアクションの実践環境において、

①ソーシャルワーク実践と収益事業の連動
②実践の質を担保する研修体制の整備

の2つの必要性を挙げている。また調査の限界として、本調査の対象である日本社会福祉士会の組織率が約20%であること、独立型社会福祉士の定義が曖昧であり、自らを独立型社会福祉士と認識していない社会福祉士からは回答が得られていないであろうことを挙げている。


2.重要部分抜き書き


Ⅰ.重要と思われる箇所の抜き書き


1.(基本属性における)年齢は40歳未満が41人(8.9%)、40歳代が90人(19.5%)、50歳代が130人(28.1%)、60歳代が201人(43.5%)であった。


2.収入の内訳では、「後見活動」が35.6%と最も高く、次いで「制度活用サービスの提供」15.6%、「他の法人・組織における雇用」13.2%、「年金・恩給」12.9%、「各種講師」10.2%、「事務所の有料相談」3.6%、「補助金・助成金」0.8%だった。

3.ソーシャルアクションに関連項目の各段階において関連性が最も認められたのは「年収」であった(P.18)

4.年収の低さは経営が不安定になるだけでなく、制度不備や地域課題の発見を阻害する要因になっていると考えられる(P.18)


3.評価


本文献は、独立型社会福祉士に関する先行研究が数多く参考・引用文献としてあげられており、独立型社会福祉士に関する先行研究を探す上で水先案内人の役割を果たしてくれるものであった。

本稿の内容については、社会変革や資源開発を担う期待を持たれている独立型社会福祉士の実態について、その多くが経済基盤が脆弱であり、経営の安定化のために法定事業による収益を得なければならない状況にあることが明らかにされている。

気になった点としては、調査対象者の90%以上が40歳以上であること、社会変革や資源開発を志向しながら事業開始時に多く利用できる補助金・助成金の利用が0.8%と著しく少ないこと、また、経営や業務の効率化のためのICT利用状況についての調査項目がないこと、独立型社会福祉士のネットワーク構築における設問において企業とのネットワーク構築の設問がないこと、などが挙げられる。

定量的な調査データとして存在しないが、自身の身近では20代、30代の社会福祉士・精神保健福祉士の独立・起業を見聞きするようになった。彼ら彼女らはICTを活用しコストを抑え、業務を効率化し、クラウドファンディングや融資、企業との連携など多様な資金調達の方法を事業段階によって使い分け、対象者から利益を得られない事業を立ち上げ、モデル化し、行政委託モデルまで育てた事例もある。


このような事例を見聞きしている身としては、本論文の調査結果との乖離を覚えた。この「乖離」をしっかりと言語化し、研究テーマにおける「間」と化すことにつなげていきたいと思う。また本論文が水先案内をしてくれた参考文献についても読み込み、自身の研究テーマを絞っていきたい。


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