22歳の詩人アマンダ・ゴーマンが、バイデン大統領就任式で朗読した詩を自分で訳してみました
2021年1月20日、アメリカ合衆国のバイデン大統領の就任式が行われました。1月6日には議事堂襲撃事件があったりして、厳重な警戒の中で行われたのですが、22歳の黒人女性が朗読した詩が話題になりました。
その詩人の名は、アメリカ初の桂冠詩人のアマンダ・ゴーマン(Amanda Gorman)。ロサンゼルス出身の新進気鋭の詩人です。
大統領就任式で詩の朗読は、1961年ケネディ大統領の就任式でのロバート・フロストなど、何度かあったようですが、アマンダ・ゴーマンは最年少。黄色のコートで颯爽と登場し、堂々と言葉の力で新たな時代の到来を告げました。
こちらがその動画です。
朗読を聞いて翻訳してみたいと思った
この朗読の画像を見て、感動しました。聞いただけではわかりにくい言葉や言い回しがあったのですが、彼女が伝えようとしている気持ちが伝わってきました。言葉を超えたインスピレーションだったのかもしれません。
Spotifyにもこの朗読がアップされていましたので、何十回もリピートで聞きました。そして、自分で翻訳しようと思ったのです。アメリカでは話題になっていましたが、日本ではあまり詳しく報道されていませんでした。この詩人の言葉を是非日本人にも知ってもらいたいと思ったのです。
そうこうしているうちに、ネットに翻訳が出るようになってきました。先を越されたかと思い、自分で翻訳する必要もなくなったかと一瞬思いました。しかし、その翻訳を読んでみると、どうも違う気がしてしまうのです。誤訳というのではないのですが、言葉の選び方やリズムが自分のイメージに合わないのです。
こちらがすでに発表されている翻訳のいくつかです。
https://www.buzzfeed.com/jp/rikakotakahashi/the-hill-we-climb-translation
https://courrier.jp/news/archives/229523/
https://www.businessinsider.jp/post-228317
翻訳していただいた方々には申し訳ないのですが、翻訳として、いいかどうかということではなく、自分のイメージに合っているかどうかという判断なので、もし翻訳されたご本人がこれをご覧になっていたら、お気になさらないでください。あくまで個人的なパーソナルテイストの問題ですので。
私は広告の仕事で翻訳をしたことはありますが、文芸作品を仕事で翻訳したはありませんでした。大学は英文科で、サークル活動でシェイクスピア劇をやっていたので、英語の戯曲を日本語に翻訳したことはありました。たまに詩や歌詞を趣味で日本語に訳してブログなどで紹介したこともありました。
というわけで、結局、自分で翻訳するしかないと思い、自分バージョンの翻訳を行ったわけです。自分の翻訳は、この記事の一番最後につけてあります。
大統領就任式でのアマンダ・ゴーマンの詩の意義
大統領就任式でアマンダ・ゴーマンが詩を朗読することになったのは、大統領夫人のジル・バイデンの推薦があったからだそうです。YouTubeにいくつか過去の朗読の画像がアップされていますが、どれも素晴らしいものです。
アマンダ・ゴーマンがこの"The Hill We Climb"(私たちがのぼる丘)の詩を完成させるのは、今年の1月6日、あの議事堂襲撃事件があった夜のことです。この詩の中にはその痛ましい傷跡がいくつか見受けられます。
それまでネットやメディアは、前大統領やその支援者の発するネガティブな言葉が満ち溢れていました。「不正」や「非合法」、「盗まれた」、「陰謀」などの言葉で、あまり気持ちのいい言葉ではありませんでした。
アマンダ・ゴーマンの詩は、一言で言えば、明日への希望を謳ったものです。夜明け前の暗闇から始まり、辛い時代を終えて、夜明けを迎える。詩の中に登場する言葉は、終わりに従って明るくポジティブな言葉に変わっていきます。
夜が明ける瞬間の光の変化を、言葉が表現しているような感じです。地平線から登る太陽の光を浴びて、大地や、街並みが色着いていく過程を言葉が表現していきます。言葉の力で、人々の心を癒し、明るくポジティブにしていく感じです。
大統領の言葉では伝え切らないメッセージを、詩人が別のツールで伝えようとしている感じがします。ある種のハーモニーであり、アンサンブルです。大統領就任式という歴史的イベントの総合演出の一つの重要なパートを詩が受け持っていたということに感動を覚えました。
詩という存在は、これまであまり社会的に評価されておらず、詩人という存在も、世の中においてはあまり重要な意味が与えられてきていませんでした。ところがこの大統領就任式で詩人が果たした役割は革命的なものでした。
詩人の言葉は、場を盛り上げるためだけの単なるお飾りではなく、人々の心のあり方を変え、記憶の中でメッセージをリフレインさせる役割を持たせていました。時代の大きな転回点で、政治的な、歴史的な役割で、詩人が機能したのです。
この大統領就任式の全体的なテーマは「夜明け」だったと個人的に理解しています。大統領のスピーチにもそれを感じましたし、その夜に行われたコンサートでも、ボンジョビが歌ったビートルズの"Here Comes the Sun"など夜明けをイメージするものがいくつかありました。
参加者の衣装で、カマラ・ハリス副大統領は紫の服を来ていて、それ以外にも紫系の色が目につきました。共和党カラーの赤と、民主党カラーの青を混ぜると紫になるということで、"Unity"(協調、融和)を象徴する色だと報道されていましたが、私はこの紫を「夜明けの色」と勝手に理解しました。
レディ・ガガの赤の色は、夜明けの太陽の色。そして詩人アマンダ・ゴーマンが身につけていた鮮やかな黄色は太陽が放つ光そのものをイメージしていたのではないかと勝手に思っております。
それでは、最後に詩の原文と、私の翻訳をご紹介しておきたいと思います。
詩の原文と私の翻訳
The Hill We Climb
私たちがのぼる丘
When day comes we ask ourselves,
夜が明ける時、私たちは自らに問う、
Where can we find light in this never-ending shade?
終わりなき闇のどこに光を見出せるかを。
The loss we carry,
私たちが背負う喪失感、
a sea we must wade
渡らなければならない海、
We braved the belly of the beast
私たちは恐るべき困難に立ち向かってきた。
We’ve learned that quiet isn’t always peace
静けさが必ずしも平和を意味しないことを学んだ。
And the norms and notions of what just is
そこに存在する規範や概念が
Isn’t always just-ice.
いつも正義とは限らないことも。
And yet the dawn is ours before we knew it
そして気づかないうちに夜明けがやって来る。
Somehow we do it
なんとかして私たちはやり遂げる。
Somehow we weathered and witnessed
なんとかして乗り越え、そして私たちは知る、
a nation that isn’t broken
国が破壊されたのではなく
but simply unfinished
ただ建設途上であることを。
We the successors of a country and a time
一つの国、一つの時代を引き継ぐ私たち、
Where a skinny black girl
その国では、一人の痩せた黒人の少女でも
Descended from slaves and raised by a single mother
奴隷の子孫であり、シングルマザーに育てられていたとしても
Can dream of becoming president
大統領になることを夢見ることができる。
Only to find herself reciting for one.
そして、気がついたら自分が一人の大統領のために朗読をしている。
And yes we are far from polished
そう、確かに私たちは洗練からはかけ離れている。
far from pristine
清廉潔白からはかけ離れている。
But that doesn’t mean that we are
でもそれは私たちが努力して
striving to form a union that is perfect.
完璧な団結を目指すという意味ではない。
We are striving to forge our union with purpose
私たちが目指す団結は
To compose a country committed to all cultures, colours, characters and
conditions of man.
あらゆる文化、肌の色、性格、置かれた状況を尊重する国を造るためのもの。
And so we lift our gaze not to what stands between us
だから、私たちの間に横たわるものではなく、
but what stands before us
私たちの行く手にあるものに、私たちは目を向ける。
We close the divide because we know to put our future first
未来が一番大切と知っているので、私たちは分断を終わらせる。
We must first put our differences aside
私たちはまず相違を忘れなければならない。
We lay down our arms
上げた手を、私たちはおろす。
So we can reach out our arms to one another.
互いに手を差し伸べることができるように。
We seek harm to none and harmony for all.
誰にも危害を与えず、みんなに調和をもたらす。
Let the globe, if nothing else, say this is true:
少なくともこれだけは真実だと世界に言わせよう:
That even as we grieved, we grew
悲しんでいる間にも私たちは成長したこと
That even as we hurt, we hoped
傷つきながらも、希望を抱いたこと
That even as we tired, we tried.
疲れ果てていても、努力を続けたこと
That we’ll forever be tied together, victorious.
私たちは永遠に、力を合わせ、勝利することを
Not because we will never again know defeat
敗北を二度と味わいたくないからではなく、
But because we will never again sow division.
分断の種を二度と蒔きたくないからだ。
Scripture tells us to envision
聖書はこんなことを思い描けと言う:
That everyone shall sit under their own vine and fig tree
すべての人が自分の葡萄の木の下で、自分のイチジクの木の下で
And no one shall make them afraid.
安心して座ることができる状況を。
If we’re to live up to our own time
私たちが今の時代を生きるためには
Then victory won’t lie in the blade
勝利は刃(やいば)にあるのではなく
But in all the bridges we’ve made
私たちが作ったすべての橋にある。
That is the promise to glade
それは開けた土地への約束
The hill we climb
私たちが登る丘
If only we dare.
そんな勇気を持つことができたなら…
Because being American is more than a pride we inherit
アメリカ人であることは、我々が受け継ぐ誇り以上のものだから。
It’s the past we step into
それは私たちが足を踏み入れる過去、
And how we repair it.
そしてそれをいかに修復するかということ。
We’ve seen a force that would shatter our nation
私たちはこの国を粉砕しようとする力が、
Rather than share it
共有しようとする力の代わりに
Would destroy our country if it meant delaying democracy.
私たちの国家を破壊しようとし、民主主義を後退させることになるのを目撃した。
And this effort very nearly succeeded.
そしてその試みは成功するかのように見えた。
But while democracy can be periodically delayed,
民主主義は断続的な遅延を余儀なくされるが
it can never be permanently defeated.
決して永久に敗北することはない。
In this truth,
この真理において
in this faith we trust
私たちの信念において
For while we have our eyes on the future,
私たちが未来に目を向けている間は
history has its eyes on us.
歴史は私たちに目を向けてくれるから。
This is the era of just redemption.
今はひたすら償う時代。
We feared at its inception
当初は私たちは恐れていた。
We did not feel prepared to be the heirs
私たちは準備ができていないと思っていた。
of such a terrifying hour
そのような恐ろしい時代を相続するための準備が。
but within it we found the power
でもそんな中で私たちは見出した。
to author a new chapter.
新たな章を書き始める力を。
To offer hope and laughter to ourselves.
私たち自身に希望と笑顔をもたらす力を。
So while we once we asked,
だから、かつて私たちは尋ねた。
how could we possibly prevail over catastrophe?,
どうしたら私たちは破滅を生き延びることができるのだろうかと。
Now we assert
今、私たちは断言する。
How could catastrophe possibly prevail over us?
破滅がどうして生き延びられようかと。
We will not march back to what was
私たちは、過去の時代に戻りはしない。
but move to what shall be.
あるべき未来を目指して進むだけ。
A country that is bruised but whole,
傷ついた国だが、何も欠けてはいない。
benevolent but bold,
慈悲深いが、大胆。
fierce and free.
獰猛であり自由。
We will not be turned around
私たちは振り返ることはしない。
or interrupted by intimidation
躊躇が邪魔をすることもない。
because we know our inaction and inertia
怠惰や惰性は
will be the inheritance of the next generation.
次の世代に引き継がれてしまうことを私たちは知っているから。
Our blunders become their burdens.
私たちの躓きは次の世代の重荷となる。
But one thing is certain;
でも一つ確かなことがある。
If we merge mercy with might,
私たちが慈悲の心と力を結びつけ
and might with right,
力と権利を結びつければ、
then love becomes our legacy
愛が私たちのレガシーとなる。
and change our children’s birthright.
そして子供たちの生来の権利が変わっていく。
So let us leave behind a country
だから私たちに残された国よりも
better than the one we were left with.
さらによい国を後世に残していこう。
Every breath from my bronze pounded chest,
ブロンズの高鳴る私の胸からの一息一息で、
we will raise this wounded world into a wondrous one.
この負傷した世界を素晴らしい世界へと育てていこう。
We will rise from the gold-limbed hills of the west,
金色に縁取られた西部の丘から立ち上がろう。
We will rise from the windswept northeast
風吹く北東部から立ち上がろう。
where our forefathers first realized revolution.
そこは私たちの祖先が最初に革命を実現した場所。
We will rise from the lake-rimmed cities of the midwestern states,
中西部諸州の湖に面した都市から立ち上がろう。
we will rise from the sunbaked south.
太陽にこんがり焼かれた南部から立ち上がろう。
We will rebuild, reconcile and recover
私たちは再建し、和解し、修復しよう。
and every known nook of our nation and
そして我が国の隅々で、我が国と呼ばれる
every corner called our country,
すべての街角で
our people diverse and beautiful will emerge
多種多様の人々と美しさが姿を現す
battered and beautiful.
傷つきながらも美しく
When day comes we step out of the shade,
夜明けがやってくると私たちは闇から抜け出す。
aflame and unafraid,
光を浴びて、恐れるものなく。
The new dawn blooms as we free it.
新たな夜明けは、私たちがそれを解き放つとともに、一面に広がる。
For there is always light,
光はいつもある、
if only we’re brave enough to see it.
私たちにそれを見る勇気がありさえすれば。
If only we’re brave enough to be it.
私たち自身が光になる勇気がありさえすれば。