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心不全のステージと「急性増悪」

慢性心不全患者と付き合う

 長い記事になってしまったので、結論から先に言いましょう。


 慢性心不全患者さんの生涯を良いものにしてあげるのに「コ・メディカル」の役割は非常に大きい、ということです。
 医師に出来ることは「基礎疾患の治療」と「急性増悪で入院したときの治療方針の決定」くらいなのです。

心不全の時系列とステージ

 では、まず「心不全患者の人生経過」を考えましょう。以下に、心不全ガイドラインに載っているよく見かける「あの図」を貼り付けます。

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ステージ「A」(「え、おれって心不全なの?」っていわれる時期)

 高血圧など、検診で引っかかった人たち。糖尿病も含まれる。いわゆる「動脈硬化疾患の予備軍」もステージAです。誰もいままで、こういう人たちのことを「ステージAの心不全ですね」とはいわないでしょうし、言われた患者さんも不服でしょうけれど。将来心不全になりますから気をつけてくださいね、と指導しなきゃいけない、医療者側の心構えの要素が強いでしょうか。


ステージ「B」無症状(だけど、ちゃんと病気はある)

 ステージBは心疾患があるものの「ほぼ無症状」の患者さんたちです。
 オリンピック選手になる?なら問題かもしれませんね。よほどの体力を要する場面がなければ、日常生活レベルでは困らない、人たちです。こういう人たちは、むしろステージCにならない(入院しない)ことが大事です。

ステージ「C」(心不全入院をした人はステージCです)

 ステージCは、心不全(増悪)を起こした人です。入院加療が必要になった人は全員ステージCといって良いでしょう(たまに外来治療で逃げ切れる人もいますが、、、)。
 心疾患があることで多少心臓が無理をし始め、それが徐々に悪くなって「非代償」の状態になった。これを「急性心不全」あるいは「慢性心不全の急性増悪」と呼びます。
 安定していた喘息患者さんが急に喘息発作を起こすのに似ているので「心不全発作」と呼んでもいいかも?しれません。

 多くの場合、この急性増悪では、「うっ血」による症状がメインになります。

 急に話が変わった様に感じるかも知れませんが、ちょっとお付き合いください。人体はホメオスタシス(恒常性)を維持するように出来ています。例えば甲状腺機能低下症では、「甲状腺刺激ホルモン」が増えることで、肝心の甲状腺ホルモンは維持されます。これが代償機構です。
 (慢性疾患と急性疾患の考え方の違いについて別記事で触れています)
 
 同じように、慢性心不全の患者さんでも「うっ血」を起こすことで心拍出量を維持しようとしています(前負荷を増やすことにつながるのです)。

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 このうっ血が、ひどくなってくると徐々に悪さをします。しかも、うっ血しても、それに見合った心拍出量の増加が徐々に起こらなくなってきます。これが分かりやすく表現されているのが、かの有名なフランク・スターリングの曲線です。

 こうなってくると、(余計な)うっ血を解除してあげる必要が出てきます。うっ血は一度し始めると、介入しないと止まらない「悪循環」に入ってしまうからです。

 この「介入」こそが、「急性増悪」への治療です。酸素投与と、安静と、点滴薬(利尿薬と血管拡張薬)が有名ですね。入院中には、それに加えて慢性期に再入院しないための「サプリメント」的な薬(生命予後を改善する薬)が徐々に調整されていきます。主に医師の仕事になりますね。


 増悪した患者さんでも、これらの治療によって落ち着くと、元の生活に戻れるようになります(代償期)。でも、健康な人ほどの体力には戻りません。心不全ステージCの患者さんは、そもそもの体力が(程度の差はあるけど)低下していますから。

「非代償」を抜け出した「代償期」心不全こそ、介入が大事

 治療によって「代償期」に戻ることができた心不全患者さんは、体力に見合った生活をして、不摂生をしないで、薬をきちんと飲んでいるとこの状態が維持できます。逆に言うと、これらが出来ないと「再増悪」して入院加療が必要になる可能性があります。

 だから「慢性心不全の管理」においてコ・メディカルには、その意味でとっても大事な役割があるのです。
 
 心臓(循環器)内科医(あるいは心臓外科医)の仕事は、心臓が悪くなった原因の治療(心疾患の治療)です。
 心疾患そのものを治せば、心不全のレール(上図)から外れる、もしくは遙かに体力が上がって再増悪しにくくなります。だから基礎心疾患のある患者さんでは基礎心疾患の治療が必要です。
 弁膜症の根治が目的なら手術(TAVIもあるけど)、虚血があればPCI、不整脈があれば薬物/非薬物(アブレーション/デバイス)療法を。もちろん介入が難しい疾患もいくつかあります。拡張型心筋症はβ遮断薬が効けばラッキー。サルコイドーシスは早く診断がついてステロイドが効けばラッキー、というような感じでしょうか。他に、珍しい病気にも、治療法があるものも一部あります。そういうものへの介入は医師の仕事です。
 
 医師の役割はこのようにもちろん大きいのですが、それでも心不全患者さんの管理で重要な役割を占めるのはコ・メディカルのみんなであることは疑いようがないのです。
 基礎心疾患がないのに心不全入院してしまう高齢の肥満女性などは医師がお手上げになる症例の典型例だと思います。

「再増悪」予防のために

 ① 体力を適切に評価し、それに見合った指導をしてあげること。リハビリすること。② 塩分制限・水分制限を指導し、内服薬の大事さを説明コンプライアンスを維持すること。③ 増悪の徴候について説明し、増悪時の受診方法などをしっかり説明していくこと。じかに患者さんと関わる中で信頼関係を確立し、これらを指導していくことが、「心不全患者さんとの関わりで一番大事」です。


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