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研修医の日常の疑問を解消するためのマガジン

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病院の後輩研修医達に向けて、有用記事をまとめています。 「研修医一年目の、辛かったあの頃」 右も左も分からないまま、難解な医学書を買い漁るものの、 「研修が忙しすぎて読んでい… もっと読む
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#輸液

「前負荷」と「後負荷」を考えるときに、右心系と左心系を分けて考える必要はあるか?

 とても良いご質問をいただいたので、その内容をもとに、記事作成に至りました。みなさんのスキとコメントが僕のモチベーションにつながります! 上記タイトルの答えは 「右心系がよほど悪くない限り、右心系と左心系を分けて考える必要は、ない。そして『右心系だけが悪い』ことはめったにない。」 です。 右心系が先に悪くなることは結構レア先に後半について述べます。左心系よりも右心系が主に悪い患者さんというのは、多くの場合は重度の肺気腫(COPD)のような、肺疾患による肺高血圧が原因で

急性期のvolume control

 急性期の輸液戦略の「難しさ」について、「ざっくり」話します。 急性期の輸液戦略は難しい 多くの場合、急性期患者さんは、相対的に血管内volumeが不足することによる循環不全を呈します。そのため輸液戦略が重要になりますが、これが難しい、「迷子」になりかねないんです。 循環管理が大事な理由は、「酸素」が絶えず必要だから 「循環管理」とは、組織の必要とする栄養や酸素を不足無く供給できるように、医療的に介入することです。栄養はともかくとして、特に酸素の供給が追いついていないと、

「輸液」をシンプルに理解する第一歩

「初学者が輸液をシンプルに理解するには、こう考えてみては?」という提案です。 まず、  ① 急性期の輸液  ② 慢性期の輸液 を分けて勉強することです。 「主な輸液の目的が、シチュエーションによって違う」ということをしっかり理解しておいてください! そして、① 急性期の輸液は細胞外液を使用すること。 判断が難しいことや、判断ミスが命取りになることもありますが、「循環が破綻していれば基本的にはまず細胞外液を入れる」ことを覚えておいてください。 ② 慢性期

ICUでの輸液反応性 〜SVV〜

では、ICUシチュエーションならどのように輸液しますか? 実は、「輸液管理(stressed volumeの管理)が大事な患者がICUに入る」といっても過言ではありません。時々刻々と変わる患者の病態に合わせて、そのつど補液が適切かどうかを考えながら管理するには、ずっと看護師さんがついていてくれるような環境でないと厳しいからです。 ICUでは、「SVV」が利用出来ることが多い しかしICUという環境はそれだけに輸液管理に特化した装置を沢山使用できます。資源が相対的に潤沢

輸液反応性(入れるべきか 入れぬべきか)

ショックへの戦略は補液と血管収縮薬(と強心薬) 循環動態が不安定(つまりショック)のときに、①補液と②血管収縮薬が主な戦略になると思います。強心薬の使い方は、別記事にあります(しぶい薬なので難しいかな?)。  いずれも前負荷を増やす行為ではありますが、②血管収縮は後負荷も増やします。その代表であるノルアドレナリンは若干ながら心収縮能も上昇させます。 血管収縮薬だけで戦うな(〜これはみんな知ってる〜) 血管収縮薬であるノルアドレナリンは、高流量で使用しすぎると心負荷による不整

フランク・スターリングの曲線【基本編】

 ここまで、ある程度みなさんよく知っている前提で話してしまっていた「フランク・スターリングの曲線」について立ち返って説明したいと思います。 本日のポイント・心臓は、静脈から多くの体液が帰ってくる(静脈灌流が多くなる)と、それだけ次の収縮で押し出す体液(一回拍出量)の量を増やす。 ・最初は、その影響は大きいが、徐々に心拍出量の増加は「頭打ち」になる。 まずはこの図から  上図をみてください。下の曲線がみなさんの見覚えのある曲線です。右軸は[stressed volume

虜になる循環の生理学⑥循環作動薬

 最後の章になります。輸液や輸血以外の、いわゆる点滴薬を使った循環管理手法になります(本書でも、本項でも、内服薬については扱いません。とくにICUでは点滴薬が基本だからです)。  抗不整脈薬はすでに述べた記事が割り切りが良いのでそちらを参照ください!まず、本項で登場する薬剤グループを紹介しました。  循環管理において、心拍出量の調整が大切なことは繰り返し述べてきました。そしてその心拍出量(CO)は、 CO = HR(心拍数)× SV(一回拍出量) でした。  まず、

虜になる循環の生理学④輸液と輸血

さて、循環の生理学の全体像が見えてきました。  ここで、 前負荷を維持するのにどのように輸液を選択すれば良いのか? という議論があります。細かく述べませんが、改訂スターリングの法則(何それ?という人は無視してもらってもOKです)を踏まえると、晶質液(いわゆる乳酸リンゲル液など)で良いだろう、というのが結論です。  膠質液(アルブミンやHESなど)を好む医師もいるのですが、急性期、特に炎症や侵襲期には、血管内に体液を維持する役目は期待できないと言われ実際にそれを示唆する

虜になる循環の生理学③「心拍出量」というキーファクター

復習 前回は、循環を語るのに ① 酸素運搬 ② 組織灌流 の2つを意識できていれば良いことが述べられていると紹介しました。  そして、②=血圧(ざっくり)でした。  ①については、集中治療室に入ればモニタリング(SvO2)できる。一般病棟では患者さんの慎重な観察(特に意識レベル、皮膚の冷感や網状皮斑の有無、尿量の3点)によっておおまかに循環がうまくいっているかをみる必要がありました。  それでは、今回述べる内容のまとめです。 今回の内容のまとめ・循環の①、②のいずれに

虜になる循環の生理学②「循環」のみかた

 では、本書の共感した部分を抜粋して紹介しようと思います。もちろん、この記事を機に興味を持った方は、実際に読破してみてください! 共感ポイント① 循環 = 「A.酸素運搬」と「B.組織灌流」 循環がうまくいっているかどうかを判断するのは難しい(裏返すと、「ショック(=循環不全)の認識も難しい)ので、 「A.酸素運搬」と「B.組織灌流」の2点がうまくいっているか考えよう  ということです。そして、過去の記事を読んでくださっている方は強烈に納得していただけると思いますが、「

「脱水患者を受け持ちました。生食を、量はどれだけいったらいいですか?」「とりあえずおしっこ出るまで入れといたら?」

 脱水患者の、血管内volumeが適切になったかどうかをどうやって判断したら良いのでしょうか?  種々雑多なことがいろんな本や先輩から聞かされると思いますが、極論を言います。 「濃くない「おしっこ」が、最低限の量だけ出るようになればOK」 です。結局、人体というブラックボックス(医学的に解明はされつつあるが、難解だったり予測が外れたりする)についてあれこれ悩むよりも、おしっこが出ればOK、というスタンスがとても大事です。循環がうまくいっていない患者からきちんと尿が出ること

「脱水患者を受け持ちました。『とりあえず3号液』でいいですか?」 〜『とりあえず生食』の方がいいよ」〜

 では、初期研修医でも受け持つ可能性のある患者さんで、「脱水」がある患者さんの輸液はどうしましょう?と聞かれたら、どうアドバイスするだろう?と考えてみました。いつも通り「ざっくり」いきましょう! ポイントは2点にしました。「脱『水』」 と 「脱『Na』」の違いを理解しよう! 脱「Na」は循環に影響し強い症状を起こすので、晶質液で素早く補正! これらについて解説していきましょう! 脱「水」と脱「Na」って? まず、なんでもかんでも「脱水」と呼ぶことがあまり良くないことは

「輸液について教えてください」「テキトーでいいよ」の連鎖

輸液について教えてください 自分も含め、研修医が最初に困り、誰かに教えてもらいたい内容の上位にランクインする質問はこれでしょう。そして、みんないろんなことを勉強したり教わったりするものの「モヤモヤしたまま」だったりする。  何度か、輸液についてのレクチャーを考えたことがある(というよりはレクチャー内容をワードにまとめたことがある)のですが、どんな本を参照しても、「ホントの初心者向けに『ざっくり』書かれた」本がないことに気づきました。やはり書物では「ぶっちゃけ」が書けないので

急性期のvolume control(前負荷のコントロール)

 前回の記事の続きになります(「前負荷」のコントロールの難しさについて解説しました)。 「前負荷」を上手にコントロールすることは必須なのに、難しい。  上手に、正確に、丁寧にコントロールしたい場合は、ICUに入室させ、こまめに各パラメータをみるしかありません。  だけど、あれやこれやのパラメータに踊らされては「木を見て森を見ず」な状態になりかねません。やはり「鷹の目」が必要です。  そのため、ここで前負荷のコントロールの鉄則を2つ述べます。 ①前負荷を増やすのは「細