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研修医の日常の疑問を解消するためのマガジン

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病院の後輩研修医達に向けて、有用記事をまとめています。 「研修医一年目の、辛かったあの頃」 右も左も分からないまま、難解な医学書を買い漁るものの、 「研修が忙しすぎて読んでい… もっと読む
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2020年12月の記事一覧

やっぱり「タンパク質ファースト」

 過去に三大栄養素について語りました。これらはすべてエネルギー源になるという点で共通していましたが、それぞれに利点と欠点がありました。覚えているでしょうか?  そして、そのなかで「タンパク質の重要性」を覚えていますか?  そう、  三大栄養素の中で唯一「窒素」を含み 「身体の材料」になる のでした。詳しくは過去記事をご覧ください!  この前提を理解した上で、今回紹介する 「APPETITE 科学者たちが語る食欲」 を読むと非常に面白いです。なぜ現代人は食べ過ぎてしま

虜になる循環の生理学⑥循環作動薬

 最後の章になります。輸液や輸血以外の、いわゆる点滴薬を使った循環管理手法になります(本書でも、本項でも、内服薬については扱いません。とくにICUでは点滴薬が基本だからです)。  抗不整脈薬はすでに述べた記事が割り切りが良いのでそちらを参照ください!まず、本項で登場する薬剤グループを紹介しました。  循環管理において、心拍出量の調整が大切なことは繰り返し述べてきました。そしてその心拍出量(CO)は、 CO = HR(心拍数)× SV(一回拍出量) でした。  まず、

虜になる循環の生理学⑤前負荷

復習 前回、静脈系の圧についてはさらっと触れるだけにしました。前負荷は増やせば増やすほど心拍出量を増やしますが、(輸液によって)静脈系の圧が上がりすぎると有害事象が出るので、過剰じゃない程度にしましょう、と。  そして、前負荷のコントロール法として、輸液は何にすれば良いか?紹介しました。基本的にはラクテック(乳酸リンゲル)のような晶質液(クリスタロイド)で良いでしょう。Hbが7g/dL未満であれば輸血も検討ですが、粘稠度が上昇するため、輸血のインパクトは思ったほどではない、

虜になる循環の生理学④輸液と輸血

さて、循環の生理学の全体像が見えてきました。  ここで、 前負荷を維持するのにどのように輸液を選択すれば良いのか? という議論があります。細かく述べませんが、改訂スターリングの法則(何それ?という人は無視してもらってもOKです)を踏まえると、晶質液(いわゆる乳酸リンゲル液など)で良いだろう、というのが結論です。  膠質液(アルブミンやHESなど)を好む医師もいるのですが、急性期、特に炎症や侵襲期には、血管内に体液を維持する役目は期待できないと言われ実際にそれを示唆する

虜になる循環の生理学③「心拍出量」というキーファクター

復習 前回は、循環を語るのに ① 酸素運搬 ② 組織灌流 の2つを意識できていれば良いことが述べられていると紹介しました。  そして、②=血圧(ざっくり)でした。  ①については、集中治療室に入ればモニタリング(SvO2)できる。一般病棟では患者さんの慎重な観察(特に意識レベル、皮膚の冷感や網状皮斑の有無、尿量の3点)によっておおまかに循環がうまくいっているかをみる必要がありました。  それでは、今回述べる内容のまとめです。 今回の内容のまとめ・循環の①、②のいずれに

虜になる循環の生理学②「循環」のみかた

 では、本書の共感した部分を抜粋して紹介しようと思います。もちろん、この記事を機に興味を持った方は、実際に読破してみてください! 共感ポイント① 循環 = 「A.酸素運搬」と「B.組織灌流」 循環がうまくいっているかどうかを判断するのは難しい(裏返すと、「ショック(=循環不全)の認識も難しい)ので、 「A.酸素運搬」と「B.組織灌流」の2点がうまくいっているか考えよう  ということです。そして、過去の記事を読んでくださっている方は強烈に納得していただけると思いますが、「

虜になる循環の生理学①本の紹介

 呼吸循環に関する基本の部分(細かい知識はすべて後回しにしてきたつもりです)をいくつかの記事で述べてきました。  ここで、実は先月くらいに読んで感動した本があったので、紹介しておきます。一種の書評です。もちろん、本書が気になった方は買って読んでいただいても良いのですが、僕がいつも現場で後輩に伝えていることと一致することが沢山あったので、一部抜粋し紹介しておきます。 書名はタイトル通り「虜になる循環の生理学」です。 多くの生理学書は実践的立場から書かれていない 僕は常々、

心電図読影の心構え② 心電図読影OSを脳にインストールせよ!

 続きです。では、「逐一、すべての所見を挙げていく」とは、具体的にどうしたらいいのでしょう?  「何でもいいから、漏れなく読める『読み方』を決めて、ひたすらその通りにやる」  これがポイントです。  僕は、学生時代に下記リンクの書籍で勉強しました。そこでは、 R E A L Que S T In ECG(リアルクエスト in ECG) という語呂が登場します。この語呂の順番の通りに所見を述べていくと「漏れがない」というものです。別に、これでやれ、といいたい訳ではあり

心電図読影の心構え①

 病院での初期研修医向けレクチャーで、心電図読影について指導しています。もちろん、実践的であることが前提なのですが、心電図教育を通してひとつの哲学を伝えようとしています。 研修医レクチャーの内容紹介 以下が僕のレクチャーの項目と、2年間の初期研修の「心電図とペースメーカ」に関する目標です。  高すぎる目標は有害と考えています。他科でも多くを学び、また循環器の中でもわずかな1分野である以上、この分野のマニアックな多くの知識を学んでもらうのは難しいと思っています。  一応、特に

「脱水患者を受け持ちました。生食を、量はどれだけいったらいいですか?」「とりあえずおしっこ出るまで入れといたら?」

 脱水患者の、血管内volumeが適切になったかどうかをどうやって判断したら良いのでしょうか?  種々雑多なことがいろんな本や先輩から聞かされると思いますが、極論を言います。 「濃くない「おしっこ」が、最低限の量だけ出るようになればOK」 です。結局、人体というブラックボックス(医学的に解明はされつつあるが、難解だったり予測が外れたりする)についてあれこれ悩むよりも、おしっこが出ればOK、というスタンスがとても大事です。循環がうまくいっていない患者からきちんと尿が出ること

「脱水患者を受け持ちました。『とりあえず3号液』でいいですか?」 〜『とりあえず生食』の方がいいよ」〜

 では、初期研修医でも受け持つ可能性のある患者さんで、「脱水」がある患者さんの輸液はどうしましょう?と聞かれたら、どうアドバイスするだろう?と考えてみました。いつも通り「ざっくり」いきましょう! ポイントは2点にしました。「脱『水』」 と 「脱『Na』」の違いを理解しよう! 脱「Na」は循環に影響し強い症状を起こすので、晶質液で素早く補正! これらについて解説していきましょう! 脱「水」と脱「Na」って? まず、なんでもかんでも「脱水」と呼ぶことがあまり良くないことは

「輸液について教えてください」「テキトーでいいよ」の連鎖

輸液について教えてください 自分も含め、研修医が最初に困り、誰かに教えてもらいたい内容の上位にランクインする質問はこれでしょう。そして、みんないろんなことを勉強したり教わったりするものの「モヤモヤしたまま」だったりする。  何度か、輸液についてのレクチャーを考えたことがある(というよりはレクチャー内容をワードにまとめたことがある)のですが、どんな本を参照しても、「ホントの初心者向けに『ざっくり』書かれた」本がないことに気づきました。やはり書物では「ぶっちゃけ」が書けないので